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2014年はミニスカートを履いた女の子のようなワインだよ

コート・ロティ & コンドリューのパリ試飲会より報告

2013年のワインはとても荒い

パリでは、春になると毎週のように試飲会が行われる。生産者が一堂に会して、情報を交換する絶好の機会でもある。

なかでも、コート・ロティ(Côte-Rôtie)とコンドリュー(Condrieu)の試飲会は、フランスでも屈指の人気を誇るアペラシオン(産地)のものなので、今年も多くのソムリエ、カヴィスト、ジャーナリストで賑わった。

今回の試飲会では、生産者がコート・ロティとコンドリューのみを持参するので、それぞれのワインのヴィンテージごとの味わいが比較しやすい。2013年-2014年のコート・ロティと、2014年のコンドリューを試飲した。

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試飲会場。

「2013年のワインはお固くて、2014年のワインのようにセクシーさに欠ける。2014年のワインは、そうだね、ミニスカートを履いた女の子みたいなワインだよ」とフランソワ・ヴィラール(François Villard)が私にウインクした。

彼のコート・ロティ、ル・ガレ・ブラン(Le Gallet Blanc)が端的に示しているように、2013年のコート・ロティはとにかくタニックで、口当たり重く苦い。

対する2014年は果実味たっぷりで丸い味わい、軽やかなワインに仕上がり、実に対照的なヴィンテージの差が見られる。

「2013年のワインはとても荒いので、まだ数年寝かせた方が良い。どちらかというと、2014年のワインから飲むべきだね」と、ドメーヌ・クレール(Domaine Clerc)のマルタン・クレール(Martin Clerc)は言う。

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いつもニコニコしたフランソワ・ヴィラールのワインは、繊細で優しい味わいで、料理に合わせ易い。それは、彼が元料理人だったことと関係しているのだと思う。

2013年の春のスタートは良かった。平年並みの発芽で、この間の畑の状態は良好だった。しかし、5月は寒い状態が続き、開花期に降った雨が、多くの結実不良を引き起こした。

「6月の雨のせいで葡萄の実は多く結実不良になった。だから葡萄があまり実らなかったのが、この年のワインをタニックにした最大の原因だね」と、ドメーヌ・コール・ド・ルー(Domaine Corps de loup)のトリスタン・ドーブレ(Tristan Daubrée)は語る。

多くの葡萄が正常に実らなかったので、収穫量の見込みは少なくなったが、ミルランダージュした葡萄が増えたので、品質には期待がかかった。

8月の終わりまで、夏は暑い日が続き、春の遅れを取り戻すように葡萄は成長し続けたが、乾燥しすぎた天候は、かえって収穫を遅らせた。

9月20日から最初の収穫がはじまったが、大半のワイナリーでは10月頃に開始し、10月後半まで収穫は続いた。これは1970年以来の記録的な遅さであった。

しかしながら、酸味が重要であると、イヴ・キュイルロン(Yves Cuilleron)は指摘する。「2013年を特徴つけるのはその酸味にあるんだ。春は早かったのに、天候が崩れて、結実不良が増えた。夏はカラカラで暑かった。でも秋に適度な雨が降って、十分な酸味が得られたんだ。この年の葡萄は成長スパンが長く、ゆっくりと進んだんだね」。

こういう暑いヴィンテージは、コート・ロティ南部のワインの方が良い。いわゆる、コート・ブロンド(Côte Blonde)の丘より南のゾーンは、片麻岩(Gneiss)、花崗岩(Granite)主体の比較的、軽い土壌で、北にくらべ、穏やかな性質のワインが出来上がる。

ドメーヌ・デュクロー(Domaine Duclaux)のメゾン・ルージュ(Maison Rouge)や、イヴ・キュイルロンのバスノン(Bassenon)は、いつもよりも程よいバランスがとれて上品なワインに仕上がった。

北部のワインは、例年よりも際立った苦みを持つワインが多い。特に ドメーヌ・クルーゼル・ロック(Domaine Clusel-Roch)のようにピュアでソフトタッチの味わいの造り手のワインの味わいが重たくなって、ビックリした。

「スタイル変わったかって? 確かに2010年から2012年までのワインと比べたら、2013年は濃縮して、苦いワインになったね。この年は、とにかくうまく結実してくれなくて、多くの葡萄を失ったんだ。最終的な収穫量は半分になってしまったんだ」とギヨーム・クルーゼル(Guillaume Clusel)は語っていた。

「2014年は、7月までは完璧だった。春はすごく暖かくて、芽吹きも、開花もスムーズにいった」とピエール=ジャン・ヴィラ(Pierre-Jean Villa)は語る。

しかし「7月になってから天候が崩れだしたんだ。その月だけで、1年の約1/3に相当する、300mmも雨が降ったんだよ。そして続く8月は寒く、この頃に害虫の被害が始まった。幸いにも9月には天候が変わって、晴れの日が戻って来た。結局この年の収穫は9月後半まで続いた」。

2013年とは対照的な涼しい夏。彼のコート・ロティ、カルミナ(Carmina)は、赤果実のヒントと、味わいに広がりのある流れるような酸味のあるワイン。いつもより少し除梗量を多くしたと彼が言うように、葡萄を除梗した造り手の方が上手くいった印象がある。ピエール・ジャスマン(Pierre Jasmin)やピエール・ガイヤール(Pierre Gaillard)のワインは果実味に溢れ、非常にエレガントなコート・ロティに仕上げていた。

「2014年は、オウトウショウジョウバエ(Drosophila suzukii) の被害が少し深刻な問題だった」と、イヴ・キュイルロンが述べているように、このハエの被害が、2014年のヨーロッパのあちこちでみられた。昭和初期の昆虫研究家、鈴木元次郎氏の名からとられた、Drosophila suzukii(オウトウショウジョウバエ)は、葡萄に酢酸菌をもたらす。

ただし、ただ酢酸菌を媒体するだけの従来のショウジョウバエと違い、このハエは、葡萄の果皮自体を破って、卵を産みつける。色の濃い品種しか狙わないので、ローヌ渓谷ではシラー(Syrah)種には被害があっても、ヴィオニエ(Viognier)種には被害はなかった(例えば、アルザスでは、色濃いピノ・グリとゲヴュルツ・トラミナーに大きな被害があった)。

さらに、この年の北ローヌでは雹が降り、サン・ジョゼフ(Saint-Joseph)に被害があった。幸いにもコート・ロティ、コンドリューのゾーンの被害は少なくてすんだ。

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2009年に独立し、自分のワイナリーを立ち上げたピエール-ジャン・ヴィラ。もともと、ヴィラール、キュイルロン、ガイヤールの3人と一緒に、ヴァン・ド・ヴィエンヌ(Vin de Vienne)というネゴシアン業をしていた。

「2014年は酸味のきれいな、フレッシュ感に富むヴィンテージ」とヴィダル・フルーリー社が明言しているように、このヴィンテージのコンドリュー(Condrieu)は、タイトで、シャープな酸味の強いスタイル。近年の傾向である、よりミネラル、より繊細な味わいの傾向が全面に出たヴィンテージである。

フォアグラによく合う、フルーティーでファットな、重く強い印象のコンドリューはここ最近、あまり見なくなった。より軽やかで、ミネラリーさを追求したコンドリューのスタイルの変化は、料理のヘルシー化、素材中心の動きと符合しているのだろう。

今回の試飲の白眉は、シャプティエ(Chapoutier)社のコトー・ドゥ・シェリー(Coteau ded Chery)。新しく購入したばかりの畑のものだが、ミネラリーで、味わいの深さが群を抜いて素晴らしい。「コンドリューはあまり熟成させるべきではない」というが、このワインは熟成とともにさらなる真価を発揮してくれそうな感じがする。

今回の試飲会は、実に対照的なヴィンテージの違いが見られて興味深いものであった。

「2013年は少し待つべき。去年にリリースした当時にこのヴィンテージのワインは、まだ果実味がたくさんあって美味しかったのだけど、今年の春になってまた閉じてしまった。これは次に飲み頃になるまでしばらく時間がかかるだろう」とピエール・ジャン・ヴィラ。

逆に、「2014年は綺麗なタンニンあって、丸いけれども長く持たせるワインじゃない。7年目位に飲むのがベスト。だけどまあ我々は、長く熟成させたワインをもともと造ろうとは思っていないんだけどね」というドメーヌ・ガロン(Domaine Garon)のケヴィン・ガロン(Kévin Garon)は述べている。

2013年が長期熟成型でなかなか開かないヴィンテージであるのに対し、2014年は今飲んで美味しいヴィンテージ。

どちらのヴィンテージが優れているとか、甲乙付け難い。それぞれ一長一短があって、飲み手に多くの自由を与えてくれる。

この記事を書いた人

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染谷 文平
こんにちは、フランスに滞在中のソムリエです。現在、パリの一つ星レストラン、Neige d’été(ネージュ・デテ)にてシェフ・ソムリエの職についております。レストラン業を続ける傍ら、ワイン造りをより深く知るために、Bourgogneと Alsaceにてワイナリー勤務も経験しました。ワインが生まれる風土、環境、歴史に強く関心があり、ブログ(http://fwrw.blog137.fc2.com
も綴っております。Wine Whatでは、生産者の生の声や、ホットな情報をいろいろと書いて行きたいと思います。

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