サスティナブルワインへの想いは、100人いれば100通りのカタチになる。
ただ、ワインのバイヤーや生産者といった専門家にとっては、また一般消費者と大きく違うカタチのはず。
そこでワインワットがお招きしたのは、内藤邦夫さんと沼田実さんという個性派の大御所2名。
「オーガニック」をキーワードとし、ホンネの部分も含めてお互いに開示してもらった。
ときにマニアックなネタも混ざりつつ、自然に寄り添うワインを楽しむヒントが盛りだくさん!

語るのはこのおふたかた

沼田 実さん
ワインスクール講師/醸造家
「テイストアンドファン」代表取締役。ホテルでソムリエとして勤務後、ワイン輸入会社に勤めつつ、平行してコンクール審査員やスクール講師としても活躍。会社を辞してニュージーランド国立リンカーン大学で栽培・醸造学を修め卒業した後の現在はワインコンサルタント、スクール講師、また栽培・醸造家としても活躍。所有資格は、ソムリエからソバリエまで多種多様。

内藤邦夫さん
ワインコンサルタント/ワイン・プランナー
ワインの大型小売店やメーカー勤務を経て、虎ノ門「カーヴ・ド・リラックス」の立ち上げ時より参画、社長業を続けること20年。2020年春に独立を果たして「内藤プランニング」代表取締役に就任。輸入ワインの選定からスーパーマーケットの売場コーディネート、ワイン講演までマルチにこなす。業界トップに居ながら、人と人を繋げる潤滑油的存在でもある。

「オーガニック=無農薬」ではない

沼田 普通の方々は、オーガニックワインに「無農薬」「無添加」というイメージをお持ちなんじゃないでしょうか。

内藤 農薬は少量使っているのか、それとも完全無農薬なのか? 醸造時に化学物質を入れているのか、いないのか?

沼田 そもそも、日本ではJAS規格に則った有機用の農薬や肥料があるんですからね。「オーガニック=無農薬」ではないという前 提を、ワインワット読者の皆さんには知っておいてもらいたい。たぶん、完全なる無肥料、無農薬、無添加のワインは世の中にそうそう存在しないはずなんです。

内藤 そうだなぁ。世界中に知り合いの生産者がいるけれど、なにもかも100%不使用でやっている人って、パッと思いつかないですね。

沼田 究極のオーガニックとされているバイオダイナミック農法だって、殺菌剤としてボルドー液は使用が認められていますし。

内藤 そのボルドー液ひとつとっても、使い方は生産者次第。収穫の1カ月前からは使わないと決めている人、最後の最後まで撒いている人、といろいろです。収穫したブドウって、ジュース用は水で表面を洗うけど、ワイン用はそのまま醸造にまわすじゃないですか。ボルドー液で真っ白になったブドウの房を収穫直前の畑で見ると、「これを口にするのか〜」と躊躇しちゃう。醗酵によって毒性が無くなると言われているけど、何らかのかたちでワインのなかには残るはず。やっぱり、余計なものはなるべくワインに入っててほしくないし、飲んで体に入ってほしくない。

沼田 さらに、ボルドー液はブドウにとっては有機的でも、土壌に蓄積していくので環境破壊になるという見方もあります。

内藤 ボルドー液には銅や石灰が入ってますから。

ブドウを喰う虫か、虫に喰われるブドウか

沼田 オーガニックワインは「やさしい」と言われるけれど、どこにやさしくあるべきか。人か、ブドウか、土地か……だから、みんなにやさしいサスティナブルという発想になってきたわけですね。そして、「虫だらけのブドウで造ったワインってどうなの?」という話にもなってくる。

内藤 虫…… まあ、僕たちがオーガニックについて対談するなら、当然こういうネタも出てくる( 笑)。でも虫はホント、瓶詰され出荷された後まで続く悩みの種ですよ。

沼田 殺虫剤がいいとは思わないけど、ブドウが虫に食われたままでいいわけでもない。ある種の虫はブドウに対するウイルスやバクテリアの媒介者となる可能性もあり、リスクを避けるためにも対策はとりたい。ただ、ごく一部には「虫も喰わないようなブドウやワインは、人間にもよくない!」って主張する人もいましてね。

内藤 あ〜、大変……

沼田 虫がおいしいと感じるものと、人にとっておいしいものは一緒なの? 虫が食べて安全なら、人にも安全って本当? 俺は、そうとは言い切れないと思う。今まで虫の気持ちになったことないから分からないんだけど、それでもブドウを喰う虫か、虫に喰われるブドウか、どちらかの気持ちになるんだったら、俺はブドウ側に立ちたい。ブドウに寄り添って、ブドウのポテンシャルを最大限引き出してあげたい。

内藤 虫対策、オーガニックの枠組みのなかでも可能ですもんね。

沼田 化学的な力を借りずとも、「虫が集まりやすいホストプランツを畑に植えて誘導する」「虫たちがとどまらないよう風通しを良くする」「虫が苦手とする光で追い払う」「虫を捕食するカエルやトカゲの棲家を保つ」など、生物的にコントロールできます。さらに、「害虫の天敵となる益虫を増やす」という技も。そのためには、必要最低限の農薬を撒くにせよ、タイミングを見極めないと益虫ばかり消してしまって逆効果に。

自然はオイシイのか?

内藤 ただ、それだけ手間がかかるわけで。「ブドウそのものを活かしてワインを造る」という自然派のフレーズを聞いて、誤解する人がいるでしょう。近代の醸造技術を否定して何もしないのがオーガニック、と捉えちゃう人。

沼田 います、います。生産者側にも。

内藤 ワインの造り方を知らないまま、オーガニックワインを目指して造りはじめてしまう生産者。ワイン造りは、デッサンも遠近法も勉強してないシロウトがピカソ風の抽象画を描いて「天才!」と褒められるような世界ではない。なのに、最初から崩したスタイルで自然派に挑む人が案外と多いなぁ、って最近は感じてます。

沼田 会社員生活で人間関係に疲れて、「これからは有機農業だ」と脱サラして飛び込んでくるタイプね。だいたい、髪は長く伸ばして後ろでひとつにまとめてる。

内藤 そうなの(笑)? 生産者は「農家の人間関係ほど濃密なものはないっ」とこぼしてますけど。

沼田 彼らは「何も足さない、何も引かない。だからオイシイ」と、手間をかけないのがいいことだと思っている。最初に環境や健康への意識が高まって、オーガニックでなにかやりたくなって、「別に野菜でもりんごでもいいけど、ワインかな」というノリで参入するから、オーガニックというアプローチばかり大切にする。品質は正直、気にしてないみたい。

内藤 オーガニックが手段でなく目的になってしまうのはオカシイ。とくに日本ワインを見てみると分かりやすいけど、現在すばらしいオーガニックワインを造って成功しているのは醸造技術を極めた人たちです。オーガニックでなくとも優れたワインは世界中にいっぱいあると知っていて、オー ガニックは大変なのも深く理解した上で、あえて選んでいる。だから、思想にも行動にもブレがない。

沼田 自然相手なので、人間の努力に加えセレンディピティ(幸運な偶然)も作用するのがオーガニックの難しさ。それでも確固たる覚悟を決めた生産者たちが一定数いるのは喜ばしいことです。

「教科書を捨てなさい」の読み方

内藤 シャトー・メルシャンの工場長を務めた、麻井宇介さんという醸造家は知っているでしょう。彼は、生食用ブドウとして出荷されなかったくずブドウでワインを造っていた時代に、そんなブドウでもいいワインが造れるような酵母を培養し、日本ワインの黎明期を支えた人物です。醸造技術を一所懸命磨いて、突き詰めて、たどり着いたのはプロヴィダンス。完全なるオーガニックで造られた、ニュージーランドの高級ワインです。1990年代半ばにプロヴィダンスを飲んでビックリし、すぐニュージーランドへ見学に行った。その後、病に冒されてしまったのだけれど、彼を慕って醸造研究をしてきた若手たちに「教科書を捨てなさい」と言い遺したんです。

沼田 それは、「最初から教科書を読むな」ということではなくてね。

内藤 そう、若手たちは十分に勉強をしてきた人たちだから、もう教科書は必要がない。あとは感性を磨け、という意味。

沼田 ブルース・リーの「Don’t think. Just feel (考えるな、感じろ)」ですね、まさに。

内藤 スターウォーズ的には、「Trust your instincts(本能を信じろ)」か。麻井さんが長生きされていたら、今頃きっと面白いオーガニックワインを造っていたでしょう。まさにこれからピカソ級の作品を手掛けようとしたタイミングで夭逝されてしまい、とても残念です。

オーガニックワインはカッコいいのか

内藤 オーガニックワインにも、スターとなる生産者はほしいなぁ。さしずめ、ブルゴーニュのフィリップ・パカレ、シャンパーニュのジャック・セロスあたりか。ワイン業界の人間としては、いつもワインがみんなの中心にあってほしいもので。

沼田 日本のオーガニックワイン生産者になると、ちょっと、人を寄せ付けない雰囲気の人ばかりな……

内藤 変態の極みみたいな人も、たいがい話してみるといい人なのに。

沼田 (誰のこと?)

内藤 海外だと、オーガニックワインを造っている人たちはわりお互い仲がいい。うちとワインの取引をしている生産者たち同士がじつは昔から友達だったと、僕が後で知ったりすることがよくあります。

沼田 フレンドリーでいいなぁ。日本は自然派の人って尖ってて、まったく自然体じゃない。自然派なら、社会的にも自 然体のスタイルを貫いてほしい。まあ、あまりスタイルばかりにとらわれると、ファッション的な部分だけに惹かれる消費者が増えて、マーケティング的にフラフラ引っ張られてしまうわけですけど。

内藤 なぜオーガニックなのか、という理由をちゃんと知らないから、消費者は流動的なんですね。「とにかくオーガニックなら売れる」とマーケティング主導でオーガニックワインが市場に出回り、混乱を招く。おかげで、オーガニックはカッコイイと感じる消費者がいる反面、カッコ悪いと思っている生産者もけっこう多いんです。

沼田 オーガニックワインがカッコ悪い??

内藤 たとえばロワールでバイオダイナミック農法を実践している生産者。完全に無農薬で、こだわりのあるピュアなワインを造っているのに、それは語らない。理由をたずねたら「世間に出回っているオーガニックワインはインチキばかりで、アレと一緒にされたら恥ずかしい」って。または、基本オーガニックだけど、いざというときのリスクを考えて公言はしない生産者もいます。ある年だけ天候不順で何らかの薬を使わざるを得ないとき、オーガニックを公言しているとそれが叶わず、壊滅的なダメージを受けてしまうから。真面目なオーガニックワイン生産者ほど、オーガニックという表現を使いたがらない。

沼田 それは、オーガニック生産者のなかで少数派では?

内藤 いや、一定数います。でも、だからといってマーケティング主導でオーガニックに取り組むようになったワイナリーを否定するのでなく、きっかけが何であれ、最後においしいオーガニックワインができれば結果オーライです。

ワインは添加物で何が変わる?

内藤 さて、畑の話ばかりでなく、オーガニックな醸造にも触れておきましょうか。聞いたところ、約50種類の化学的な添加剤が日本では流通しているんですって。澱を下げる、結晶化させない、酸化防止、など役目はいろいろ。

沼田 内藤さん自身、ワインの添加物って気になるんですか?

内藤 色素の遊離を防ぐアラビアゴムという添加剤があり、以前それが入っているワインと入っていないワインを比較試飲したことがあります。入っていないのがウスターソースとしたら、入っているのはまるでとんかつソース!

沼田 そ、そこまで味が違うのか。

内藤 日常飲みですと、外食時にソルビン酸などがたくさん入ってるワインと出会うと、さすがに分かります。独特の匂いがしたり、口の中が苦くなったり。もし僕が飲んですぐには気付かないレベルの量が入っていても、うちのかみさんは気付いて即座に「イヤ」って言いますね。かみ さん、たまたまアレルギーを持ってまして。化学物質過敏症なんです。酸化防止剤などが必要以上に入っているワインは、かみさんにすぐ気付かれます。だから今まで、サンプルワインはかみさんの反応を見て、買い付けの判断をしてきました。リトマス試験紙の扱い(笑)。

沼田 そのおかげで、取り扱いワインがナチュラルなものばかり揃ったのですね。

内藤 一方、ボトルの裏に合成添加物の名前がズラズラと表記してあるオーガニックワインも世の中には出回ってるでしょ。いつも「アスコルビン酸、どうして入れるんだろう?」とか考えてます。

沼田 それは酸化防止剤ですよ。同じく酸化を防止するSO2(二酸化硫黄)をできるだけ減らす代わりに、アスコルビン酸を入れる。もっとも俺が疑問に感じるのは、SO2を入れてないからといって「無添加ワイン」と名乗ること。

内藤 そのあたりの表示、日本では曖昧なままでした。

沼田 もちろん、火入れという方法で無添加も実現できることはできるんだけれど。ようは、無添加ワインってのは、無添加でも健康上安全なように何か手が入れられている可能性がある。そもそも、造りに使っていてもボトル裏に記載義務がない物質だって存在します。ワインを造るときは、澱を取り除くためにベントナイトや卵白などの清澄剤を使うでしょ。でも、それらは澱とともに取り除かれて残存しない前提だから、記載しなくても許されるという。

内藤 ところで、SO2添加については僕、むしろ肯定派なんです。グラスに注いだら揮発する成分ですし、体へのダメー ジを感じる経験を今までしてこなかったから。

沼田 昔は「SO2を添加したワインを飲むと二日酔いになる」なんて説も出回りましたね。他の食品にもたくさん入っているものですから、最近は「SO2はそんなに悪者ではない」と再認識され始めています。

内藤 とはいえ、個人的にソルビン酸などは控えめにしてほしい。というのも、ワインがみんな同じ味になっちゃう。効率を求めた大量生産は添加物を入れて品質を安定させがちで、乱暴な言い方をすれば「薬物の味」で均質化される。添加物をたっぷり使うことで、各産地のスタイルが消え、ワインの多様性が失われてしまうんです。

誰がためにワインを選ぶ?

沼田 多様性は、次世代のオーガニックでの重要なポイントになるでしょうね。ワインの味わいだけでなく、周辺の自然環境との多様なつながりについても語られていく時代。サスティナブル、エシカルといった考えと重なってくるんですが、オーガニックは今、オーガニック・アグリカルチャー(農業)。今後は、オーガニック・カルチャー(文化)になるはずです。消費者の意識が高くなり、太陽光や風力発電、カーボンゼロ、そういった地球上の持続可能性まで必要とされてきます。農業単独でなく、周囲を巻き込んでひとつの文化になっていく。そして消費者は、オーガニックを単なるファッションでなくライフデザインに組み込んでいく。となると、自己中ではやっていけない。環境、健康を考えて、人間関係も含めて周囲にやさしくなるのがオーガニック。

内藤 ワイナリーのスタッフも含めて、ね。従業員の福利厚生もサスティナブルをかたちづくる要素のひとつ。

沼田 そうそう。畑で農薬を使い過ぎると、スタッフの健康問題に発展することも。また、オーガニック導入で手間がか かった分は、スタッフに利益として還元すべき。

内藤 手間がかかれば、経費もかかって、ワインは割高に。

沼田 さらに、オーガニックってやつは時間がかかるんです。化学肥料をまく代わりに、枯草が大地で土に還るまで待つ。殺虫剤の代わりになるホストプランツが育つまで待つ。それらを担保するだけの経済的なサスティナブルのため、消費者のみなさんにはぜひ、フェアトレード的な発想も絡めてオーガニックワインを買ってもらいたいです。

内藤 なぜ価格差があるのか、というあたりから考え始めてもらうといいかも。沼田さんは現在、自分でもワインを造っています。やっぱり沼田さん自身もオーガニック?

沼田 うーん、造りの面ではオーガニックというワードにこだわることなく、とにかくブドウにいいことをやっていこうというスタンス。だから、オーガニックの範疇に収まらなくても、いきなり厳密なバイオダイナミック農法を採用しても、どちらでもいいかな。

内藤 僕も、同じ考えでワインを扱っています。ある程度までは農薬、添加物、SO2を使っていてもOK。ただし、なるべくブドウをいじらず、あたりまえのように聞こえるけれども、ブドウだけで造っていること。人によってはオーガニックの範疇に入らずとも、結果としてキレイな味わいが完成すれば、それが僕の求める「ピュア&ナチュラル」なワインです。

沼田 ピュア、ですか。

内藤 ブドウが清潔でないと、ピュアな味わいになりません。飲み慣れない人には「薄い?」って感じられるかもしれないけど、軽くはあっても薄くはないのがピュア。スーッと引っかかりなく飲めるのが、ピュアなオーガニックの特徴です。あ、そういえば、沼田さんの手掛けた「キリノカ リースリング・リオン」、とてもピュアでしたよ〜、と最後に沼田さんをヨイショ!(笑)

対談中、口の肥えたふたりが喉を湿らせたワインがこちら

コノスル
オーガニック
ソーヴィニヨン・ブラン

ソーヴィニヨン・ブラン100%
輸入元:スマイル

ライマット
オーガニック
ボイラ

ガルナッチャ・ネグラ100%
輸入元:国分グループ本社

「大手のワイナリーは、天候や土壌に恵まれた畑を各地に確保していて、そのなかでオーガニックを実践するエリアを自由に決められる。コノスルもライマットも企業として金銭的余裕があるからこその、低価格。どちらもとても飲みやすいですし、オーガニック・ビギナーはここからスタートしてみては」(内藤)

「海外のように広大な畑が展開できると、端のほうのブドウが多少虫に食べられたところで、大部分には影響しない。それに、チリやスペインは日本のように湿度が高くないので、病害のリスクがもともと低い。オーガニック向きの産地なんですね」(沼田)