漫画家 藤沢とおるの地下室

藤沢ワールドがここに

仕事からはなれてすごす、平穏な時間のありかたをさがして、WINE-WHAT!?は、地下に趣味の空間をもつという漫画家 藤沢とおるさんのお宅にお邪魔した。

奥に3Dテレビ、オーディオ鑑賞スペース、手前にビリヤード台。壁面の棚にはフィギュアが飾られている。このほか、写真にはうつっていない場所にプライベートなバーカウンターも。棚には書籍のほか、映画やゲームソフトもびっしり。藤沢氏の後ろに見えるJEEPのラジコンは、『水曜スペシャル 川口浩 探検隊』モデル

藤沢とおる
漫画家。1989年に読み切り漫画『LOVE YOU』でデビュー。「週刊少年マガジン」に1990年から連載の『湘南純愛組!』そして、1997年からの『GTO』が大ヒットし、不動の名声を確立する。共通の世界で繰り広げられるの作品群のほか、短編、原作やキャラクターデザインでかかわる作品も多数

実は3度目の正直

藤沢さんの家造りの基本は、3つの要素を一軒の家のなかにまとめることにあった。1.仕事、2.家族との生活、3.自分の趣味。この3要素だ。

「やっぱり男子が趣味の空間をつくるなら地下ですよね」と、40代にさしかかった筆者は、いささか興奮気味に話を切り出したものの、藤沢さんは冷静で「と、いうわけでもないんですよ」と応じる。

「この家で、2軒目なんです。そのまえはリフォームした家だったから、3軒目ですね。前は地下室が仕事場だったんです。でもそうすると、携帯の電波が入らなかったり、編集のかたがきたときも、アシスタントのちょっとした用事のときでも、いちいち地上まであがらなくてはならなくて。それで仕事場を一階にしようとおもったんです」

と、利便性や仕事の効率をかんがえて一階に仕事場を配置したところ、生活空間は日の当たるその上階となり、結果、趣味の空間は地下がよいという結論にいたったとのことだった。

「ひとって3軒、家を建てると満足するらしいですよ。この家には、これまでの経験が反映されているから満足しています」

結論からいえば、地下=趣味だったとはいえ、その結論にいたるまでには、経験者にしかわからない道筋があったのだ。

自分の時間をもつようにしている

漫画家、しかも国民の大半がその名を知るであろう、あの『GTO』、鬼塚英吉の生みの親だ。大きなプレッシャーのなかでハードな毎日をおくっていたことだろうとおもったら、「毎週締め切りがくるってのは大変でしたね」とはいうものの「5日で仕上げて、のこりの2日は家族とすごすようにしていた」そうだ。1日はストーリーを考えることに費やすというから、もちろん忙しくないということはないのだろう。しかし、いまもむかしも、なるべく仕事以外の時間をおおくもつようにしているのだそうだ。「仕事がおわって、地下室でお酒をのみながら映画をみるのがたのしみ。温泉もあればいいんですけどね」

しかし、居心地のよい場所が自宅にあったら、外にでなくなってしまいそうだ。

「いやでも意外とね、外にでたくなるんですよ。じっとしているのが苦手なんです。デスクワークに向いてないのかも」

とくに食事会にはよく顔を出すという。美味しい食事と酒の話を聞くと足が向く。若かりし頃は居酒屋に毎晩通っていた。カウンターで絵を描きながら、友と語りあった。肉好き、酒好き。特に赤身の牛肉、北海道出身だから、ジンギスカン、そして、日本酒、バーボン、ビール、ハイボールにホッピー、残念ながらワインはそれほど得意ではないというけれど、お酒ならばなんでも好きなのだそうだ。

「でも仕事は漫画家でデスクワークでしょ。運動不足にならないように、ここにトレーニングマシンをおいているんですよ。この地下室でなくてはならないものは、実はこの3点のトレーニングマシン。ジム通いとか、ダメなんですよ。雨だと、今日はやめとこうかなぁってついさぼっちゃう。家にあるとそういう言い訳がきかないからね」

3点のトレーニングマシン。写真奥の棚には仮面ティーチャーのマスクも

藤沢とおるの男らしさ

漫画の主人公といえば「不良」だった時代があったとおもう。少年はみんな「不良」にあこがれた。藤沢さんもまた、思春期は「不良」だったという。ところが、中学生のおわりごろ、北海道に引っ越したのが転機となった。北海道で知り合った仲間たちの影響と、放送がはじまった「機動戦士ガンダム」、そしてそれにつづいて世に現れた「ファミコン」が不良少年をオタク少年へと変えていった。もともと絵を描くのが好きだった藤沢少年が、漫画を描くようになった。ほどなくして、漫画家「藤沢とおる」の不良漫画に日本中が泣いて笑うようになった。

「僕の作品を読んでもストーリーからはオタク趣味の影響をかんじない、ってことはあるかもしれないですけれど、構図とかデザインとか、ほかにもちょっとしたところでは影響はすごくでていますよ」

地下室の壁面に大量にかざられたフィギュアを、撮影のためにみずから整えながらそう語る。そして、ちいさなフィギュアをいじりながら、最近のガンダムみてますか?とたずねてくるのが、あの「藤沢とおる」なのだとおもうとなんだかおかしい。

「いや、僕だって、ちょっと近所に出かけるときは自転車に乗るんですよ。でも、ファンのひとにあったら、自転車になんて乗らないでほしいっていわれたんです」

アシスタントや編集者が不便だからと仕事場を一階にする、家族との時間を大事にするために売れに売れているときでも5日で仕事を仕上げる、地下のモニターを3Dにしたら他人と一緒に映画をみるときにメガネの数が足りないとぼやく、ファンの言葉で自転車に乗る自分を反省してしまう。

ビリヤード台をまえに、趣味の地下室といっても、ひとりだけの空間ではないんですね、と問うと、人がつどうときには、地下室で一緒に遊ぶこともあるし、家族だってはいってくる、とこたえる。

藤沢とおるの地下室には、その原点ともいえる趣味趣向が自由気ままに表現されていて、生活があって、他人をいたわるおもいやりがあった。

オファーが来るうちは、仕事をしたい、と語る藤沢さんの作品のキーワードは、ときに「男らしさ」といわれる。その男らしさとは、ありのままの自分をかくさない男のやさしい心づかいなのかもしれない、と、この取材をつうじて筆者は考えるようになった。

地下室は、主の人格をあらわす。

実はみずからの作品のフィギュアは少ない。これは有名なカワサキZ750RS(ZⅡ)鬼塚モデル

緻密な造形が参考になるという、ハカイダーとキカイダーのフィギュア

大好きな作品だというイギリス映画『ヘル・レイザー』のキャラクターたち。この造形にも影響をうけた

ゲーム『バイオハザード5』の敵キャラクター、処刑マジニも好きなキャラクター

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