日本のフランス料理の普及の歴史にプランナー、岡本光正あり。
東京ガスを舞台に、食の楽しみをプラニングした男に聞いた。
岡本光正

岡本光正
1949 年東京生まれ。東京大学法学部卒。1973 年に東京ガス入社。1989年、社内ベンチャーとしてアーバン・コミュニケーションズを設立し、環境エネルギー館等の企業館やショールームのデザイン、出版、映像制作、企業メセナの数々を手がけたプランナー。写真は岡本氏がプロデュースした新宿パークタワーのレストラン「CAFEZ」にて

日本の料理はガスコンロが変えた

「昭和40年代の公団住宅が日本の料理を変えたんです。高島平の団地や多摩ニュータウンができたのもその頃。DK、ダイニングとキッチンの一体化が、それまで家の片隅にあった、煮炊きする場所を室内で、食事する場所とをひとつにしました。二口のガスコンロが家族が料理を楽しむ、はじめての団らんを生み出したんです。僕が東京ガスに入社したのはこのころ」

と語るのは、1985年、当時の高層ビルは京王プラザ一棟だけだった現在の都庁のある西新宿で開催された、東京ガス設立100周年イベントを企画した人物、岡本光正だ。日本のガスの歴史を深く知る人物であり、日本でフランス料理の普及に貢献した立役者のひとりでもある

東京ガスは、1885年に、日本を代表する実業家、渋沢栄一が関わって立ち上がった会社のひとつ。日本のガスの歴史は、客が行灯をひっくり返して火事が起こる吉原にガス灯を灯す、という青写真からはじまったという。現在の東京ガスの本社ビルの場所で石炭からガスをつくり、吉原までガス管を通した結果、「途中に銀座があった」から「そこにもガス灯を灯した」と岡本はそのしたたかさを笑う。

19世紀末、灯火としてはじまった日本のガスは、先鋭的なテクノロジーの象徴として、当時の錦絵にも描かれている。ほどなくして、調理器具に使われるようになり、日本のガス文化の初期が花ひらいた。そのころの絵と器具は、歴史的資料として東京ガスによって保管されているけれど、「そういう資料を小平のミュージアムで整理したのも僕なんだけれど、つまりガス会社って、単にガスをつくっていればいいというのではないんですよ」と、岡本はいう。

ガスは生活と文化に密接にかかわる。ガス会社は風呂を普及させたら、入浴上の注意、美容や健康によいというデータの紹介をするし、コンロを売るなら、料理教室も開催する。「そうしないと、ガスの利用価値があがらないでしょ?」岡本の東京ガスでの仕事は、ガスと生活、双方の質の向上だった。

1990年、新宿パークタワー建築当時、隣接するショールームの企画に関わっていた岡本は、ある出会いをする。フランス食文化への貢献から、のちに農事功労賞シュバリエ(5等勲章)、そしてオフィシエ(4等勲章)の叙勲をうけることになる、大沢晴美氏が、パリの商工会議所が主催する、料理およびサービスの学校である「フェランディ」の日本版をつくろうと、東京ガスに提案にきたのだ。そのとき、たまたま、対応に出たのが岡本だった。

バブル景気のおかげもあって、フランス料理、そしてそれに必要なサービスとワインは日本でもハレの席で定番化していたけれど、本当のフランス料理を体験できるひとは、食べる側、つくる側双方で、当時まだ限られていた。料理人は、フランスで修行をしたくても、よほど運と実力に恵まれないかぎりはきっかけもなかった。フランスとのパイプをもった教育組織がなくては、日本でのフランス料理の発展は運任せ。それを変えたいという大沢氏の想いが、当時から料理に強い関心のあった岡本に、ひらめきを与えた。

東京ガスにとって料理店は客だ。業務用のガス器具は東京ガスのショールームにはなくてはならないもの。フラッグシップである新宿ショールームで、単に器具を値札と一緒に展示するだけではつまらない。その器具で、フランスの一流シェフが日本人を教育する、「生きたショールーム」としてはどうだろう? 岡本の企画は、ギィ・マルタン、パトリック・アンリルー、エミール・ジャング、ジャック・ラムロワーズ……当時を代表するフランスのシェフを日本に講師として呼び寄せた。サービスのいろはをふくめ、日本で半年修行して渡仏。3カ月フランスで学んでから、実際にレストランで研修する1年間のプログラムを核に「フランス料理文化センター」がスタートした。ガスとフランス料理がつながり、本場を知るフランス料理のシェフが日本全国に展開することになった。この仕組は現在も形を変えて続いている。

フランス料理文化センターとEARTH VISION 地球環境映像祭を紹介する資料

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WINE-WHAT!? 編集部
WINE-WHAT!? 編集部
雨上がりの朝、届いたワインの雑誌。

焼き鳥とワインが結婚するってホントですか。

WINE-WHAT!?の表紙は笑っているだけ。

赤、白で、今回ロゼはないけど、

サンジョベーゼとかアシルティコとかが、

つくねとかねぎまとかに合わせて踊りだす。