アームチェア〝ワイン〟トラベラー Vol.2

深紅の二面性に、キング・クリムゾン

393-1

自然が生んだ神秘

今回送られてきたワインは、なで肩のボトルで、コルクではなく、アルミキャップで締められている。しかしなにより変わっているのは、その色合いであった。

ロゼ色と言えば簡単だが、その一言ではかたづけられない、複雑な色のニュアンスがある。

瓶の首にオリが出た半透明の液体は、ロゼ色の中に深紅色や赤紫色が刺しこんで混ざり、その色合いが、このワインの神秘を深めている。

これは自然が生んだ神秘なのか。生産者は、この色を生み出したかったのではなく、いいブドウを育ててワインを作ったら、この色になっちゃいました。そう言っているような、ブドウそのままでなにも手を加えられていないような、色合いである。

金のアルミキャップで素っ気なく、田舎で少量作りましたよという顔をしていながら、色に神秘がある。面白いなあ。

それよりこれは赤なのか? ロゼなのか? 瓶内発酵しちゃっているのか? スパークリングなのか。

まったくもってわからないので、とりあえず出番まで、そっと冷やしておこう。

今夜もまた、お相手が想像つかない。パルミジャーノにコンテ、スモークサーモン、牡蠣のオイル漬け(つまり家にたまたまあったもの)を用意して、開栓することにした。

「ボンッ」。

栓抜きで開けた瞬間、軽快な音がして、泡が瓶口に向かい、一気にせり上がってきた。

あわててグラスに注ぐ。おお、あなたは、スパークリングだったのか。複雑な紅色に、白い泡が美しい。

そこで、シャンパングラスと口径の広いボルドー型グラス、両方に注いでみた。

なにかこう、シャンパングラスの中のワインは、泡を勢いよく立てながら、気恥ずかしそうでもある。

一方ボルドー型グラスの方は、泡を登らせながら、くつろいでいるようでもある。

どちらのグラスでもうまい。だが、すうっと入り、喉に落ちる、キレのいいシャンパングラスもいいが、ボクはボルドー型グラスだな。

味の問題ではない。舌全体にゆったりと広がり、それをゴックンと飲み込む感覚が、このワインに合っているように思うのである。グラスの足をつかんで飲むシャンパングラスよりも、グラスを手で包み込んで飲む方が、どうも似合うように思う。

この記事を書いた人

マッキー牧元
マッキー牧元
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、日々飲み食べ歩く。まさに、「食べるグルメマップ」。多くのアーティストの宣伝・制作の仕事のかたわら、1994年には、昭文社刊「山本益博の東京食べる地図」取材執筆、1995年には「味の手帖」に連載を開始するなど、食に関する様々な執筆活動を行う。現在も、「味の手帖」、「食楽」、「銀座百店」、「東京カレンダー」など、多数の雑誌やWebに連載中。日本テレビ「メレンゲの気持ち」、「ぐるぐるナインティナイン」などに出演。

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