アームチェア〝ワイン〟トラベラー Vol.3

干しブドウのような甘みの裏側に隠れた苦味に、真木よう子

401-1

色合いに、命の気配

また赤か白か、わからない。しかもエチケットのはがし方が、次第に上手になっているとこが、小憎らしい。

3回目になってきて、この赤か白かロゼかわからないという状況が、たまらなく好きになってきた。このままいくと、家にあるワインのエチケットを、全部はがしそうである。

注ぐまで、まったくもってわからないというのは、ミステリーの楽しみと似ている。ブラインドテイスティングだって、事前に赤か白かぐらいはわかっているだろう。しかも袋をかぶせた瓶から注ぐのと違う、この裸感が、またいい。

エチケットを介さず、直接瓶に触れた手が、中のワインを探ろうとしているのがわかる。ゆっくり注ぐと何色かの液体が、流れ出る。

その瞬間のときめきは、ワインをより神秘にし、ワインに対する感謝を深めていく。仲間内で、ワインパーティーなどする時には、このやり方で楽しめば、いっそう盛り上がることは間違いない。

さて今回のワインだが、少し冷やしておいた。経験上、こうしておけば、飲んだ時の修正が容易いからである。

肴は相変わらず家にあるもので、パルミジャーノにグリュイエール、ドライフルーツをちりばめたクリームチーズ、パン・ド・カンパーニュ。塩カビサラミになぜか鯨ベーコン、鶏手羽と野菜のポトフである。まあこれだけあれば、どれかが合うだろう。

さて注ぐか。とくとく。赤である。色が濃い。

ルビーレッド、日本の色でいえば唐紅色。濃紅色の液体が、グラスの中で、ひっそりと輝いている。
「飲んでごらん」。色合いに、命の気配があって、そう誘ってくる。飲みましょう。飲ませていただきましょう。

ごくん。ブラックチェリーやプルーンのような香りが立ち上がる赤い液体は、すうっと舌の上を過ぎ、喉を鳴らした。

なにかこう、すいすい飲んでしまう感じではなく、噛み締め、喉を鳴らして飲む方が似合うぞと言っている。

甘みがふくよかだが、自然な甘みで、干しブドウのような、ブドウの甘みを凝縮し、少し枯れさせたような甘味である。その甘味の裏側に隠れた苦味が、噛め、ゆっくり飲み込めと言っているのかもしれない。

この記事を書いた人

マッキー牧元
マッキー牧元
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、日々飲み食べ歩く。まさに、「食べるグルメマップ」。多くのアーティストの宣伝・制作の仕事のかたわら、1994年には、昭文社刊「山本益博の東京食べる地図」取材執筆、1995年には「味の手帖」に連載を開始するなど、食に関する様々な執筆活動を行う。現在も、「味の手帖」、「食楽」、「銀座百店」、「東京カレンダー」など、多数の雑誌やWebに連載中。日本テレビ「メレンゲの気持ち」、「ぐるぐるナインティナイン」などに出演。

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