作家 ロバート・ハリスの取材

人生を楽しめ!

人生の100のリスト

「俺は結構コワい顔をしているって言われるから、旅のときはつとめてニコニコしています」と、自著『人生の100のリスト』(講談社)の帯をみながら

終わらざる旅へ

アメリカで見た映画『イージーライダー』に触発されてヒッピーになったロバート・ハリスは「大学を卒業したあと、終わらざる旅に出よう、と、最初の奥さんと放浪に出ました。それで18年帰ってきませんでした」

18年の時間を過ごした場所はおもにシドニーだった。

「当時は落ち込んでいて、天国みたいなバリ島に1年住んでもよくならなかった。それで、ジャワ島に行って、山の上のお寺で瞑想しつづける生活を1カ月やってみたらもっとひどくなって。お金も稼がないとっていうのもあって、湿気がなくて元気になりそうなイメージでオーストラリアへ。ダーウィンに飛んで、ヒッチハイクでシドニーまで。シドニーのシェアハウスで地元の人と仲良くなって、だんだんとけこんでいったんです。経営をはじめたブックショップが有名になって、最後はシドニーの顔になりました。地元のクラブは顔パス、ショーやコレクションにも呼ばれる。みんな、俺の友達になりたがった」

シドニー’80

「シドニーはきれいで、横浜にちょっと似て、丘が多くて港があって。住みたいなっておもったんです。でも、街には外国料理店も、若者文化もあまりなくて、つまんなかった。だんだん、ゲイカルチャー、サブカルチャー、カウンターカルチャー、60年代アメリカみたいな若者文化が台頭してきました。ベトナムからの難民、アジア人も増えて、文化的に花開いた。コスモポリタンな若者は、アメリカ、ヨーロッパ、アジアに出ていって、アイデアを持って帰ってくるようになった。かっこいいカフェをはじめたり。それが、俺がブックショップをやりだした78年ごろ。

俺たち外人がどっと来てはじまったんじゃなく、オーストラリア人が主張するようになってはじまったんです。もともと国の雰囲気は自由なんです。自分たちの発想を尊重し、いばったヤツはきらい。上から押し付けない。特にシドニーのあたりはもとが流刑地だから、なおさら束縛をきらうんじゃないかとおもいます。

俺はシドニーのラジオで仕事したことがあるけれど、局の各部屋の時計がちょっとずつズレてるの。She’ll be right, mate、なんとかなるから、っていう表現があるんですが、オーストラリアの根底には、なんでもありのいい加減さがあるとおもいます。ルールを嫌うのは、ワイン造りでもそうでしょ? それがいま、世界にも受け入れられるようになっ
たんでしょうね」

人生を捧げた取材

「日本に骨を埋めたい、なんていう気持ちは俺にはなくて、映画の仕事で日本に来たときに、奥さんと別れちゃってオーストラリアに帰る理由がなくなっちゃった。2歳の息子をかかえて仕事もなくなっちゃって困って、バリ島にでも渡って自伝を書こうかなって、少し書きはじめたときにJ-WAVEで人を募集しているって聞いて、行ったら受かっちゃった。それからJ-WAVEのレギュラーになって、話しているのを聞いた出版社の人が、本出しませんかって。

俺は、作家になりたかったんです。インタビューされたときも、いつも作家になりたいって言ってる。でもずっと書けなかった。ドストエフスキーやヘミングウェイ、すごい人の本をいっぱい読んで、すごい物語がないと書けないとおもっていたんです。それで、もっといっぱい生きよう、色んなことをやればネタができて書けるとおもっていた。『夜と霧』を書いたヴィクトール・フランクルもいつか書いてやるぞっていう気持ちが生命力になってホロコーストを生き延びられたって言うけれど、やなこともあったけど、いつか書いてやるぞ、が俺の強みだった」

ロバート・ハリス Dorsoを手に

「DORSO」(アシェット婦人画報社・現在休刊)の取材で久しぶりにオーストラリアに行ったんです。ワイナリーを巡って。孤高の旅人っていう雰囲気でカッコいいでしょ。実際は寂しがり屋だから一人旅はだいっきらいなんだけれど

いま、ロバート・ハリスは『JJ 横浜ダイアリーズ』という長編小説を、2年半掛けて書き終えたところだ。64年の横浜を舞台にして16歳のJJという主人公が成長してゆく話だ。9月に講談社から出版された。

「小説として成り立つかもわからないまま書きはじめて。それを拾ってくれる出版社があって、よかった」

JJがどう生きていくのかは、作者にも完全にはわからない。JJを追いかけた2年半は「旅しているみたいですごい面白かった」

本人が「行き当たりばったり」という生き方は、小説を書くための取材だったのかもしれない。であれば、生涯を賭した取材の末にうまれる集大成となるのが『JJ』だ。

「昔は、真面目に働いている友達から、そんな暮らしで大丈夫か? と呆れられた。でも今は、お前楽しそうだよなって、うらやましがられます。人生は楽しんだもん勝ち。いい夢をみながら死んでいけばいいじゃないですか!」

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