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EPICUREAN LIFE 10 ピアニスト Shioriのワインと音楽のマリアージュ

WINE-WHAT!? 11月号、そして、WINE WHAT onlineのこちら(https://wine-what.jp/entertainment/43894/)でご紹介した、Shioriさんのワインと音楽のマリアージュをご本人のコメントとともに、動画にてご紹介します。
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モーツァルト ピアノソナタ 作品545 より第1楽章 ✕
コンチャ・イ・トロ カッシェロ・デル・ディアブロ クール・エディション ソーヴィニヨン・ブラン 2017

ドイツの文豪ゲーテを「悪魔が人間を惑わすためにこの世に送り込んだ音楽」と唸らせ、天才アインシュタインには「死とはモーツァルトが聴けなくなることだ」とまで言わしめたオーストリアの天才作曲家ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。600曲以上もの作品を残し僅か35年でその人生を終えたクラシック史上最高の天才です。

モーツァルト

私はこのワインに天才モーツァルトのソナタK.545をマリアージュしてみました。

このワインでは、口内に生き生きとした爽やかな酸味がひろがり、そして洋ナシ、パイナップルやトロピカルフルーツのアロマに身も心も満たされました。

軽やかで親しみやすい味わいがまさにこの耳馴染みの良いソナタによく合っていませんか?

ピアノを習ったことがあるかたには、初めて弾いたモーツァルトの曲と言うかたも多いのではないでしょうか。私もその一人で、当時はただ楽譜を演奏するだけでは美しさを表現することのできない難しさに悩み、そして新しい世界の扉を開ける様な瞬間にワクワクしていたことを覚えています。

ごく単純な和音進行と練習曲のような音階で作られた、そのシンプルな美しさはまるで、『私はこんなに簡単な音列でも名曲を生み出せる』とモーツァルトが世間を悪戯な顔であざ笑っているかのよう。

私は昔からどこか、モーツァルトはワイン(酒)の神デュオニソス(バッカス)と重なると感じていました。人間を酔わせ虜にする塊を世に生み出す存在であり、まるで悪魔に取り憑かれているかのような魔力をもっていますよね。

このソナタはモーツァルトが亡くなる3年前に依頼を受け学習曲として作曲されました。その前の年には、モーツァルトに幼い頃から英才教育を受けさせ、演奏旅行に連れていった、共に波乱の人生を過ごした父レオポルトを、モーツァルトは亡くしています。

モーツァルトは他の芸術家とは違い宮廷には仕えず、所謂フリーランスとして音楽活動を続けてきた負担が重なり、その頃には、多くの借金を抱え大変苦労をしていたと言われています。

そういった背景からモーツァルトは不幸に死んでいったと言われることも多いですが、私は、完全階級社会の時代に生きていた一人の音楽家の、貴族に依頼される曲を作ることよりも、どこにも属さずに自分の描きたい作品を作りそして研究し、多くの名曲をこの世に生み出していた人生に、大きなドラマと幸福を感じるのです。

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ピアソラ『オブリビオン』 ✕
ウンドラーガ ユー・バイ・ウンドラーガ・シャルドネ 2017

情熱の国、そしてサッカー大国アルゼンチンに生まれたアストル・ピアソラ。

ピアソラ

元来踊るための音楽と言われていたタンゴを、聴くための音楽ジャンルとして生まれ変わらせたピアソラは、『タンゴ=早い』と言うイメージを打ち崩し、スローテンポのミロンガを使いその上に悲しく美しいメロディを乗せました。

ミロンガというのはヨーロッパのハバネラのリズムとラテンアメリカの黒人たちが持つ強烈なリズムが融合したリズムで、タンゴの原型ともされていて本来はテンポの早いものが多いのです。

大地の歴史を感じ大切な人と味わいたくなるような温かい香りを持ち、カシューナッツやバタースカッチのように深い後味が残るこのワインと、過去の切ない恋の想い出に陶酔するかのようなこの曲をマリアージュしました。

『オブリビオン(忘却)』は元々『エンリコ4世』というイタリア映画のために作られたのですが、その後フランス語の歌詞を乗せて歌われたことで世界的ヒット曲となりました。 その歌詞はどことなく日本の歌でいうと尾崎豊の『I love you』やイルカの『なごり雪』のような雰囲気を持っていて、世界中の誰もが知っている【恋】を表現した一曲です。

私はこの曲をパリ留学時に室内楽のレパートリーとして演奏していました。フランス、イタリア、ポルトガルなど、国によってタンゴに求められる答えが違い、好き嫌いも激しく分かれ、どう演奏していくべきか大いに悩まされました思い出があります。よく言えばそれだけ多くの人がこの曲に関して語りたがった一曲とも言えます。その理由は、以前よりも客観的に曲を楽しむようになると、きっとこの曲に聴く人たちがそれぞれの想いを乗せ陶酔していたからだと推測できるようになりました。

それはただフルーティなだけでは無い、このワインの香の数だけ想いの数があるように。

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プーランク 即興曲第15番 『エディットピアフを讃えて』 ✕
ベリンジャー・ソノマ・コースト ピノ・ノワール 2015

19世紀末、ブルジョワ達の香水の香り漂うパリのサロンとは別に、酒とタバコの匂いにまみれる芸術家が集うサロンにフランシス・プーランクの姿もありました。

詩人ジャン・コクトーとは親友で、20世紀芸術に名を残す芸術家達(ピカソ、モディリアーニ、藤田嗣治、ダリウス・ミヨー、ストラヴィンスキーなど)と交流があったとされていて、彼らがサロンでワイングラスを片手に語らい合う姿を想像するだけでその贅沢な光景にため息が出ます。

このワインを楽しんだ時、ピノ・ノワール種特有のフルーツ、ハーブなどの香りと煎った燻製の香りが広がり、しっかりとしたタンニンが息づく味わいに、エレガントで心地よい気持ちになりました。

そして私は深海の中にある柔らかな時の流れの様な尊さを感じるこの味わいに、プーランクが大きな尊敬を抱いていたエディット・ピアフに捧げた即興曲15番をマリアージュしました。

この曲は冒頭の旋律からもお分かりになるようにピアフの『枯葉』のモチーフが何度も出てきます。『C’est une chanson qui nous ressemble,』(僕らを歌うその歌)という、歌い出しのところです。

同じ時代に生きたプーランクとピアフが実際に対面したという記録はありませんが、ともにコクトーの親友であったと言われています。

プーランク

副題に“L’hommage à Édith Piaf.”(エディット・ピアフに捧げて)と付けられていますが、この作品が作られた時まだピアフは生きている事からも大変な尊敬や愛を感じます。芸術家達は自分の作品を、手紙として送っていたのかもしれません。

1963年1月30日にプーランクは亡くなり、同じ年の10月10日にピアフが癌で亡くなると、数時間後にコクトーはその知らせを聞いて「何ということだ」と嘆きながら寝室へ入り、そのまま心臓発作で息を引き取ったといいます。

サロンで繋がる芸術家達の絆は、分野の垣根を越え、それぞれの作品に影響を及し合いながら、20世紀の芸術という1つの大作を共に描き、新時代に刻んでいたのでしょう。

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モンティ『チャルダッシュ』 ✕
ボーグル・ヴィンヤーズ オールドヴァインジンファンデル

今ではヴァイオリンコンサートのアンコール曲や、フィギュアスケートの音楽としても使用されることのあるチャルダッシュ 。この音楽は兵士が酒場で兵士募集のために踊り、それが農民たちのアレンジを経て徐々に広まり、19世紀にはヨーロッパ中に大流行しました。

今回このジンファンデルを飲み、甘みと酸とタンニンがとてもよく調和していて、豊富な果実味の中に心地良いスパイスの味わいが感じられるところから、曲に2面性のあるチャルダッシュをマリアージュしました。

この曲はゆっくりとしたテンポのラッサンと言われる、まるで一人の男が酔っ払いながら昔話を始めるような曲調と、酒場で民衆が踊り狂う激しくテンポの速いフリスカと言うごく対照的なふたつのメロディからなっています。

チャルダッシュ(チャールダーシュ)とは、ハンガリーのジプシー風民族舞曲を意味していて、その名はハンガリー語で酒場を意味するチャールダから生まれています。様々な作曲家がこの形式と題名で作曲をしましたが、ヴィットリオ・モンティが作曲したこの曲が最も有名です。モンティは1969年イタリアのナポリ生まれで、ドビュッシーやR.シュトラウスなどと同時代の作曲家ですが、この一曲だけで歴史に名を残したと言ってもいいでしょう。

チャルダッシュの前身となった音楽が生まれたのは1715年にハプスブルク家の率いるオーストリアに支配されていたハンガリー王国が、常備軍設立のために募兵活動を始めたころです。この頃ハンガリー王国は居酒屋で宴会を開いて軍隊生活の楽しさをアピールしながら軍への勧誘活動をしていて、その際に酒場で音楽に合わせて踊られていたダンスが民衆にも伝わり、その大流行にウィーン宮廷はチャルダッシュ禁止令を交付したとも言われています。

私はこの曲はいつもヴァイオリンとのデュオで演奏していますが、今回はソロでお送りしました。この曲を弾くと海外でも日本でも不思議なくらい観客の皆さんと一体感を感じることが出来て、誰もが楽しむ事の出来る素晴らしい曲。何より演奏家にとっては弾き終えると99.9%の確率で「ブラボー!」を貰える嬉しい曲でもあります。

クラシック音楽の演奏中はなかなか声や音を出すことが難しく、音楽という耳で楽しむ芸術を演奏者と聴衆で共有しながらそれぞれで楽しむことはできますが、一方で私はいつも演奏中に『今、この部分はこんな景色を想像しているよ』とか『こんな物語が描かれていますよ』と会話したいなとも思っています。弾きながら考えていることを念力で皆様に送ることができれば良いのですが!

今回はワインという素晴らしい歴史と、豊かで多彩な味わいを持つ芸術品に、私ならではの想いを曲に乗せてお送りしましたが、いかがでしたでしょうか。

あくまで選曲は私の頭の中の楽譜箱から探している結果ですので、曲は皆さんの好きな曲に変えていただいても構いません。これからワインを楽しむ時に、曲を聴きながら味わうことのきっかけにして頂ければ嬉しいです。

みなさんそれぞれの想いを曲に乗せて、ワインの味を心にメモしてみませんか?

この記事を書いた人

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Shiori
ピアニスト/ワインコラムニスト
ピアノ留学でパリに6年間暮らす。留学中は音楽だけでなく絵画や建築などの芸術、ワインや食の文化に触れ研鑽を積む。コンクール等で訪れたヨーロッパの国は20カ国以上。帰国してからのコンサート出演数は500回にのぼる。
フランスやイタリアの家庭に滞在し、豊かな食生活に触れ、ヨーロッパでワインを楽しむ時は、必ずそこに景色や会話、音楽の記憶が付随している事を感じ、日本でもワインに景色や音を合わせられるような存在を目指す。
ワインと曲のマリアージュを研究しており、ワインの香りや味わいに合う曲をイメージし、音楽とワインの新しい楽しみ方を提案している。

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