装いも新たにリニューアルした東京會舘を舞台にした女優・中村ゆりのフォト・ストーリーをお楽しみください。大正モダンの香りが漂う新しい空間で、お酒と女優業についての彼女の本音を聞きました。

写真:篠原宏明 インタビュー/文:斉藤ユカ スタイリング:道券芳恵 ヘアメイク:藤田響子

東京會舘物語〜明日何かが劇的に変わるわけじゃない〜



東京會舘 東京都千代田区丸の内3-2-1 
tel.03-3215-2111 www.kaikan.co.jp

コート68,000円(ライフ ウィズ フラワーズ/クレヨン tel.03-3709-1811) ブラウス31,000円、スカート31,000円(共にアンド ディアー/ヤマトドレス tel.03-3864-4641) ピアス100,000円(CHERRY BROWN tel.03-3409-9227)

ジャケット286,000円 ブラウス98,000円(共にエトロ/エトロ ジャパン tel.03-3406-2655) ピアス94,000円(CHERRY BROWN tel.03-3409-9227)

美味しいお料理とお酒があることが、何より幸せ

ひとたびカメラのレンズが向けば、近寄りがたいほどに華やかなオーラをまとうのに、控え室でインタビューが始まると、途端に彼女を取り巻く空気の質が変わる。それは朗らかで、緩やかで、対する相手の緊張感すら簡単にほどいてしまう。

「普通なんだと思うんですね、よくも悪くも。破天荒な昭和のスターみたいな人になれたらいいんでしょうけど、私はそういうタイプじゃないみたいです」

出演作品は、今や公式プロフィールでも追いつけないほど。仮に彼女の名を知らなくても、その顔に見覚えがない人の方がおそらく少ないだろう。

「ありがたいことに、本当にたくさんの役を演じさせていただいています。毎回プレッシャーもあるのですが、その一方で、人前で泣いたりわめいたり、役者ってヘンな仕事だなって思うこともあって(笑)。それでもやっぱり身を削って、いただいた役にその都度取り組むわけです。だからこそ、私生活は当たり前に、ごく普通に過ごしていたいんですよね」

ひとりの人間としての「普通」を保つことが、なるほど、多彩な役柄を演じられるゆえんなのだろう。自宅で過ごす時間を大切にしているのもそのためだ。

「仕事とプライベートをうまく切り替えるために、お酒も重要ですね(笑)」

ゆりさん、実はかなりの辛党だ。ひとりの晩酌も欠かさないという。

「私は家でも台本を読んだりするので、それを終える意味でも1杯、いや、2杯、3杯(笑)。ささっとつまみを作って、ビールを飲んで、そのあとは芋焼酎のお湯割りが多いかな。やっぱり、飲むと心も体もほわ〜っとほぐれてリラックスできますし、それで気分よく眠りにつけるんです」

今回ご用意したクレマン・ド・ブルゴーニュもお気に召したよう。

「おいしかったです! スパークリングワインってあまり飲みなれてはいないんですけど、私、シュワっとした飲み物が子供の頃から大好きで。お酒もシュワっと始まり、シュワっと終わるのが理想ですね」

打ち上げで飲みすぎて、囚われた宇宙人のごとく両脇を抱えられて店を出たこともあるとか、ないとか!?

「そのときはさすがにスタッフにひどく怒られました。あの飲み方はなんだ!って(笑)。実は私、10年ぐらい前までは自分は下戸だと思っていたんです。飲むと気持ち悪くなっちゃって。でも周りに酒豪が多かったせいか、いつの間にか好きになっていたんですよね。今では美味しいお料理とお酒があることが、何より幸せと思うようになりました」

積み重ねていくことが、やがて自分に返ってくる

多くの人が年齢とともにシンプルであることを求めるようになる。三十代半ばを過ぎて、彼女もまた同様だという。

「変に色々と期待もしなくなったというか。たとえば仕事でも、もちろん100%の力で取り組むんですけど、この仕事をやったからといって、明日何かが劇的に変わるわけじゃない。積み重ねていくことが、やがて自分に返ってくるだろうなと思うので、一つひとつを粛々とやるだけなんですよね」

達観するには、年齢的にはきっとまだ早い。でも、浮ついた夢を持たない代わりに、彼女の足元はいつも確かに地を捉えている。

話せば話すほど、女性的で感情的な一面を見いだすことが難しくなる。

「すごく親しい人の前だったら、愚痴を言うこともあります。でも、それってまったく生産性がないですよね。マイナスの感情がぐわーっとこみ上げてきても、それを吐き出すことが私にとって健全なことなのか、精神衛生上いいことなのか、いったん立ち止まって考えるぐらいの余裕は持ちたいと思っています。まぁ、考えた結果、ちょっとお酒飲んで忘れよう!っていうことが圧倒的に多いんですけどね(笑)」

どうやらゆりさんは、可憐な見た目に反して中身がとても男前だ。

「実際にお会いするとみなさんおっしゃいますが、私は世間に思われているイメージとはずいぶん違うらしいんですよね。でも、女優はそうじゃないと生き残れないなって。思うよりずっとハードな世界ですから。先輩がたを見ても、カッコいい女性が本当に多いんですよ」

憂いを帯びた表情がよく似合う女優は、「幸薄そうな顔立ちだからですよ」と笑うけれど、そんな彼女が微笑むだけで、パッと花が咲いたようにその場が明るく照らされる。その本質に揺るぎない強さが備わっているのだと思うと、頼もしいことこのうえない。

「役者って、キャリアを積んだり賞を貰ったりして、ある程度のラインに達すると周りに気遣ってもらえる仕事じゃないですか。だからこそ、自分というものをしっかり築いていかなくてはと思うんです。ただ、私も三十半ばを過ぎて、改めて考えると、ここ数年は守りに入っていたなと感じるところがあるんですね。なので今年は、先を案じることなく、自分のステージをひとつ上げられるようなことをしたいな、と。今一度、自分を奮い立たせるようなチャレンジの年にしたいと思っています」

2019年もドラマに映画に舞台と、出演作品が目白押しだ。経験を重ねてますます演技の幅を広げ、活躍を続ける彼女に、これからも注目していきたい。

中村ゆり(Yuri Nakamura)
大阪府出身。女優。2007年公開の映画「パッチギ! LOVE&PEACE」(監督・井筒和幸)のヒロインを演じ、注目される。以後、映画・テレビ・舞台に欠かせない俳優として存在感を放つ。今回はリニューアルオープン前の東京會舘で、見事な“演技”を魅せてくれた。

この記事を書いた人

WINE-WHAT!? 編集部
WINE-WHAT!? 編集部
(『猫』の次は『三四郎』より抜粋。あ、中身とは関係ありませんでした……) 

三四郎は鞄と傘を片手に持ったまま、あいた手で例の古帽子を取って、ただ一言、
「さよなら」と言った。女はその顔をじっとながめていた、が、やがておちついた調子で、
「あなたはよっぽど度胸のないかたですね」と言って、にやりと笑った。