株式会社キュアテックス会長 藤代政己

同じテーブルにつこう

和紙から生み出される繊維の会社がいま、ハラル食品を日本に広めようとしてる。一見脈絡のない事業を展開する冒険的経営者 藤代政己氏に聞いた。

藤代政己
1958 年東京生まれ。大学卒業後、機械メーカー勤務を経て、中国に進出。機械部品の製造会社、包装用品の製造会社を立ち上げる。キュアテックスの創業は2007年。現在はシンガポール、中国、インドにて、紙工機械の製造・販売、紙製品の販売など、複数の事業を展開している。趣味は?と聞くと「資金繰りですね」と笑う

和紙の力

「まずやってみて、どうするかはやりながら考えて、振り返ると退路がなくなっている。その繰り返しですね」

と、大柄な体躯を柔和な笑みで揺らす藤代政己が会長をつとめるキュアテックスという会社は繊維のメーカーだ。この繊維が和紙から造られるというのが独特で、それが環境問題や農業に明るい未来をもたらす可能性を秘めている。和紙繊維から造られたシートを土壌に敷くことで、作物の生産量が増え、栄養価が高まり、安全性が向上する、という結果が出始めているのだ。

なぜそんな事が起こるかというと、それは、和紙の特性に由来している。

「和紙と洋紙の違いは、和紙が樹皮からのみ造られるところです。樹皮には幹を紫外線や害虫から守り、夏は涼しく、冬は暖かく、湿度を調整する機能があります。その機能は紙にしても引き継がれるので、和紙の古文書は虫食いが少ないなど、長持ちしやすいんですね。その和紙を糸にしたのが和紙繊維です」

キュアテックスの和紙繊維

和紙繊維という商品は、キュアテックスだけのものではないけれど、母体が紙を加工する機械の会社であるキュアテックスには、和紙繊維を3回撚り、編み、柔軟剤で柔らかくして天日で乾燥させ、ほどいて繊維にする、という独自の、複雑な行程と技術がある。

 

キュアテックスの和紙繊維工場

 

ゆえに価格は高くなってしまうのだけれど、かわりに、その和紙繊維は肌触りがよく、柔軟で強い。そして、そこにはそもそもは樹皮がもっていた機能、消臭やUVカット等の機能も引き継がれている。ゆえに、2007年創業のキュアテックスは当初、下着やシーツなどを造って、キュアテックスの力をPRしていた。

通常の繊維に負けないほどさまざまな製品を生み出すのがキュアテックスの和紙繊維の強み

「あるときJAXAが山崎直子さんが宇宙にもっていく被服を公募していたので、キュアテックスの靴下を送ったんです。それでしばらくしたら、詳しく話をしたいと連絡があり宇宙船内で3日間履き続けても不快ではない靴下を造りました。その評判がよくて、それまではけんもほろろだった販売店からも、問い合わせがくるようになりまして……」

ここから、商売上の展望がひらけ、運命的な出会いが訪れた。

「これを見ていた京都府立大学の細矢教授という方が自分の研究の材料にしたいと問い合わせてきたんです。後にわかったのは、水のフィルターになるということだったんです。インフルエンザの薬は、7割くらいが体内に残らない。そして、微小で水に溶けやすいので、普通の下水処理ではとれずに化学物質が環境中に流れ出していました。それが、魚や鳥の体にはいり、インフルエンザウイルスが徐々に薬に耐性を持ってしまうんです」

和紙の吸着性の良さは知られていたのだけれど、そのなかでもキュアテックスの和紙繊維の性能は群を抜いていた。手のかかる
製造工程のおかげで、微小な空洞が他と比較にならないほど多く、それが極小の物質を掴んで離さない。これは水のフィルダーだけでなく、例えば、農業で土壌改良にも使える。シートにして農地に敷くと空洞内で微生物が育ち、和紙が微生物の食事になり分解されるころには、そのゆりかごの中で育った微生物が、土壌にあふれかえるのだ。微生物は、良いものと悪いものがあるけれど、充分な数が健全に暮らしている環境だと時間とともに良いほうが優勢になるものーー

「微生物の数を数えたら、多い場合で10倍もの差がありました。こうなると、殺菌して、肥料で栄養を補う、という、現在、広く普及している、しかし突如破綻する危険をはらんだ農業をしなくていい。そして、これは、そもそも温室で自然農法の高品質なトマトを育てていた農家の例なのですが、茎が太くなり、7段までだったものが9段10段と増やしても、品質が落ちなくなった。トマトはほかに、リコピンなどの栄養価が3割増えたり、もちがよくなったりした実例もあります」

農業用シート。写真は化粧水用のヘチマの栽培に利用したもので、ヘチマ水の採水量が飛躍的に増えたという

これが冒頭で言った、未来の可能性だ。とはいえ、悩みもある。

「業務用のシートは60㎝幅で5メーターなのですが、やはり、作物によってはシートは割高です。長い目でみれば、ペイするかもしれないのですが、効果があることが想像できても、コストの問題で導入できない例もあります。農業は時間がかかりますから、結果が出るまでに何年もかかる場合もありますし、その間に天災にみまわれるかもしれない」

現在は少しずつ、実例を積み重ねている。微細な穴による吸着性は、例えば、水耕栽培に利用すれば、シートのところで菌をとめて、作物に悪い菌が入らないようにすることもできるし、栄養になるものをあらかじめ吸着させておいて、作物に導くこともできる。もしかしたら、ブドウの栽培にも応用できるのではないか?

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