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アコーディオニストcobaに聞く ワインとアコーディオン

愛し続けて変化を起こす

2019年に還暦を迎えたcobaさん。アコーディオンのイメージに変革をもたらした音楽家は食とワインの愛好家でもある。そして、cobaさんにとってワインとアコーディオンは縁遠いものではなかった。

cobaさんがボッツィに自慢したかった、1980年、10月4日、ウイーンで獲得した
世界コンクール優勝のトロフィー。「優勝カップだからワインとも相性がいいとおもって持ってきました。でも重かった!」

アコーディオンを変えたい

「大いなる矛盾がありましてね。買っている量と飲んでいる量とが釣り合わない。でもなかなか手に入らないワインに出会うと、買ってしまうんですよね。」

WINE WHATの取材だというので、cobaさんはワインのことから話を始めた。いまはブルゴーニュにハマっている。自宅地下は、全面をスタジオにしようとしていたけれど、数千本のワインの貯蔵施設と折半しているそうだ。

「ワインがスタジオに攻めてきている。ただのマニアだし、お金がない時代が長かったから、買えるようになったいま、歯止めが効かなくて。」

とニコニコする。最近手に入れたというワインはびっくりするようなブルゴーニュの名品。ワインへの知識も情熱も並々ならない。そしてcobaさんにとってワインは飲むもの、コレクターではない。

「人間が人間のためにつくる作品は、作者の匂いがする。ベートーベンの作品はベートーベンの匂いがする。ワインも、ルフレーヴさんのワインはルフレーヴさんの匂いがするでしょう? そういうものが僕は好きなんです。」

cobaさんのアコーディオンからもcobaさんの匂いがする。幼い頃にアコーディオンに魅入られ、同時に、アコーディオンの地位は楽器のなかでは高いものではないことを痛感したという。

「アコーディオンはポータブルで、歌やダンスの伴奏に使える。利便性が高いと思われて、キャパシティが広いとは見られていなかった。新しい楽器の宿命です。本質が理解されない。理解されるには100年かかるでしょう。きっと、オーケストラの中にアコーディオンが欠かせないっていう時代も来るんですよ。シンセサイザー、コンピューターがオーケストラに欠かせない時代も来るとおもいますよ」

そんな楽器をどうして、と言われるたび、好きな人がいじめられたように感じて、アコーディオンの素晴らしさを伝え、イメージを変えようとしたという。

「なぜ変えたいのか。それはリスペクトがあるからです。すべてのものと同じように、アコーディオンにもオールドスクールがある。それをどれだけリスペクトできているか。とことん愛し、知り尽くす。何かを変える資格として、これが不可欠です」

かくして、cobaさんはアコーディオンを変えた、といっていいだろう。還暦を迎え、3月4日に43枚目のアルバムとして「The Accordion(ザ・アコーディオン)」を発売するにあたり

「アコーディオンを変えるっていうのはさんざんやってきたし、もうそういうことじゃなくていいのかな、アコーディオンが好きだから付き合っている、ワインが好きだから飲んでいる、それと同じように、欲望に忠実なアルバムをつくろうとおもって「The Accordion」をつくりました。そして感謝ですね。アコーディオンによって僕はつくられている。」

最新作「The Accordion(ザ・アコーディオン)」
ボーナストラックを含む全12作の独奏曲を収録
【CD購入特典:オリジナル譜面ダウンロード】定価¥3,000(税別) BOSC-0004

イタリアの親友

ワインとの出会いをもたらしたのも、アコーディオンだ。18歳のときに、イタリアの中部、アドリア海沿岸の港町アンコーナから20kmくらい内陸に入ったところにあるマルケ州の、カステルフィダルドに留学したのがきっかけだった。

「カステルフィダルドという名が僕のアコーディオンに書かれていたんです。そこは世界の8割くらいのアコーディオンを造る聖地。アコーディオンを学びたくてメーカーに手紙を出してね。だいぶ経ってから返事が来ました。」

そうして訪れた街で滞在したホテルにて、後の親友、ボッツィと出会う。

「イタリアに行ったばかりで言葉も不自由な僕を差別しないで、釣りに誘ってくれたり、ものすごく仲良くしてくれたのが、ボッツィ。彼はトンボリーニというワイン会社のテイスターだったんです。」

地元の品種、ヴェルディッキオで造られる白ワインとは、そうして出会った。

カステルフィダルドで教師についてアコーディオンを学んでいたcobaさんは、その後、世界コンクールの存在を知り、せめてその予選を通過できるくらいでなくては始まらない、とベネト州、メストレからやや西に行った、欧州一のアコーディオン学校ルチアーノ・ファンチェルリ音楽院に通うようになる。4年の修業の末、世界コンクールで優勝する、という快挙を成し遂げた。

優勝カップを抱え、荷台に楽器をしまって、列車でカステルフィダルドにほとんど一日がかりの旅をして帰る。

「意気揚々と戻って、街のみんなが集まって、その日はフェスタですよ。でもボッツィの顔がみえない。今日はどうしたの、仕事?ってきいたら、みんなの顔が突然かわって、死んだというんですよ……」

愛していた60年代の辛子色のマスタングで、ニレの木に衝突したのだという。ブレーキ痕もなく、寝不足と、昼食後にコーヒーにたらしたサンブーカが原因だったのではないか、という話だった。
「そういう悲しい思い出とともに、僕のファーストワインはヴェルディッキオだったんですね。」

魔法をおこす

「ボッツィの言葉でいまも噛み締めている言葉があります。ワインっていうのは石からでもできる、というんです。彼は化学の専門家だったから、もしかしたら、石からもワインは生成可能なのかもしれない。そして、僕は、自然界のすべてからワインは造れるって言いたかったんだとおもっています。その奥に潜んでいるのは、人です。人がいれば魔法もおこせるんだよって彼は伝えようとしていたのかなと解釈しています。」

cobaさんがアコーディオンのイメージを変えたのも魔法のように感じます。というと、少し考えてからこういう。

「たとえば、ワインの達人という人がいるなら、その人はどんなワインもけなしたりせず、愛そうとするでしょう。音楽もそう。これはいい、あれはダメと別け隔てていては、自己満足に終わっていて、多くの人を巻き込まないでアートは痩せてしまう。どこに身を置くのか、何をやるかというのはその人のフィロソフィーとセンスだけれど、なんのためにそれやっているの?という問いを忘れがちなんですね。僕は気をつけてきた。自分がやりたいことをわかりやすくお伝えしようとしてきたとおもいます。」

人は原点に立ち返るともいえるのでしょうか? と問うと、テロワールっていうでしょう? とcobaさんは応じる。

「それは土壌だけではないですよね。人もそう。その地の水をのみ、空気を吸って生きれば、その土地の人になる。作品ですよね。だから、外国で修行をしても、親のワインを子がついだりしますよね。そういうワインを僕は飲みたい。」

では世界中で活躍するcobaさんのテロワールは?

「僕は日本人だから、いまあらためて、日本の全県をまわるツアーをして、感謝とアコーディオンの楽しさを伝えようとしています。」


coba
アコーディオニスト・作曲家。数々の国際コンクールで優勝、欧州各国でのCDリリース、チャート1位獲得など、世界の音楽シーンに影響を与え続けるアコーディオニスト。世界三大アコーディオンの一人とも称される。アコーディオンのイメージをポップミュージックの世界で大きく変え、今日まで手がけた映画、舞台、テレビ、CM音楽は500作品を超える。作曲家として演奏家やオーケストラへの委嘱作品も多い。2020年3月4日、43枚目のアルバムとなる「The Accordion(ザ・アコーディオン)」をリリースするとともに、全47都道府県ツアーを敢行。食通、ワイン通で、日本ソムリエ協会から「名誉ソムリエ」に任命されている。
http://www.coba-net.com

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