アームチェア〝ワイン〟トラベラー Vol.1

そのとき、突然鶏が食べたくなった。

383-1

相手を選ばぬ包容力がある

武骨である。愛想がない。エチケットも裏書きも、瓶口のシールもないボトルは、黒々として不気味である。持てば、ずしりと重い。

しかも、エチケットの糊がついていて、ベタベタとする。

あまりにも素っ気なく、飲む気が起こらない。普段我々は、いかに視覚効果に頼っているのだろうか。さあこれから、氏も素性もわからぬこいつを、一人で飲み干す。一切の既成概念を排除して、裸でつきあう。

ブラインドテイスティングではない。国も産地も生産者も葡萄品種も、一切推測しない(できないという話もあるが)。

いわゆるワインの表現用語や常套句は使わず、じっくりと飲んで、感じたままを綴っていく。

一人の酒好きのおじさんとして、こいつと過ごす。わかるのは、750mℓであること。ワインであること。

はたして酔えるのだろうか。ロマンは産まれるのだろうか。
コルクを開け、ワイングラスに注いだ。白であった。実は、赤だと思っていたのである。

黒に近い濃緑色のどっしりとした瓶から、勝手に赤だと思っていたのである。冷やし過ぎてはいけないと思い、14~6℃(たぶん)にしておいたが、白であった。

男性かと思ったら、女性だったのである。こりゃあ出だしから愉快だね。

水のような透明感に、ほんのり茜色が刺した白ワインを、一口飲んだ。ううむ。素朴と優しさがある。

手がふくよかで柔らかい女性と握手を交わしたような、安堵感がある。手の感覚の奥に、実直さがあって、それがどうやら、安堵感を膨らませている。

てっきり赤だと思っていたので、焼いた牛肉と生ハムを、用意していた。しかたなく合わせてみるが、意外にもこのワインは拒否しようとしない。

この白は、ツンと気取っていないし、相手を選ばぬ許容力がある。

サラダ菜のサラダを用意していたので、ゴルゴンゾーラピカンテを、千切って混ぜてみた。うん、いいぞ。チーズが甘く感じられる。いい奴だぞ。

茜色に輝く液体は、すいっすいっと軽快に吸い込まれて、4杯ほど飲む。

しかし瓶自体が重く、真っ黒で透明度が低いため、どれだけ飲んだかわからない。

この記事を書いた人

マッキー牧元
マッキー牧元
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、日々飲み食べ歩く。まさに、「食べるグルメマップ」。多くのアーティストの宣伝・制作の仕事のかたわら、1994年には、昭文社刊「山本益博の東京食べる地図」取材執筆、1995年には「味の手帖」に連載を開始するなど、食に関する様々な執筆活動を行う。現在も、「味の手帖」、「食楽」、「銀座百店」、「東京カレンダー」など、多数の雑誌やWebに連載中。日本テレビ「メレンゲの気持ち」、「ぐるぐるナインティナイン」などに出演。

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