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ボーノかノンボーノか? バローロのモダン派マルコ・パルッソの経験主義的ワインづくり

ネッビオーロをリラックスさせ、酸素を友だちにして、温度の異なるマセラシオンのあと、フレンチオークの小樽で熟成する

イタリア・ピエモンテ州の「バローロ」の革新派のひとり、マルコ・パルッソが来日、さる5月25日(金)、東京のリーデル青山本店で開かれたテイスティングセミナーで自身のワインづくりについて熱く語った。イタリアワイン・ジャーナリストの宮嶋勲によるナビゲートと通訳のおかげで興趣はいっそう高まった。

 

王のワインは「おいしいものではなかった」

イタリア北部のピエモンテ州でネッビオーロ種からつくられるバローロは、イタリアでもっとも偉大な赤ワインとされる。「王のワイン、ワインの王」と称せられるほど、その名声は鳴り響いている。

ところが、である。「パルッソ」ブランドのつくり手、マルコ・パルッソさんはバローロでも重要な地区であるブッシアの、自然を尊重するブドウ農家の4代目に生まれ、70年代にワインをつくりはじめた父のもと、2代目として醸造学校に通い、1986年からワインをつくり始めたというのに、当時はワインを飲んでいなかった。

なぜか?

「おいしいワインがなかったからです。欠点の多いワインが多かった。おいしいものだと思わなかった」。のちに「バローロ・ボーイズ」と呼ばれる改革派のひとりとなる彼は、「スイス人のドットーレ(先生)」のおかげでブルゴーニュに行き、初めておいしいと思えるワインに出会う。小さなブドウ農家がすばらしい品質のワインをつくっていて、世界中から愛好家が訪れていた。そこで自分も、おいしいワインをつくってみようと思うにいたった。パルッソさんの方向性がうかがえるエピソードである。

全バローロは2000ha。丘が多い、ブドウ栽培しかできないような土地。

バローロの生産地と認められる地域には11の村があり、フランスのように単一畑もつくられている。地形的には200〜600メートルの丘陵地帯で、ブドウ畑は斜面に位置する。斜面だから機械化しにくい。手作業が多い、手間のかかる栽培地だという。

ブドウの木の畝を丘の標高に従うように横に広げているのは、そうしないと土壌が下に流れてしまうからだ。ブドウが光を均一に受けることもできる。ネッビオーロは特に手間がかかる品種なので、横向きの方が作業しやすい、ということもある。

ブッシアの畑は丘がいくつもある。丘の位置や、向き、標高によって、ブドウは変わる。多様性がある。ブドウの木は深く根をはるほど、パフォーマンスが安定する。なぜなら、表面の気候の変化に左右されないから。除草剤は何年も前から使っていない。微生物をつめた錠剤みたいなものをまいている。ブドウの木は雑草と競うことで、より深く根をおろす。

モスコーニの畑。2011年。非常に暑い年だった。雑草は土壌に酸素を供給し、雨が降っても土壌が流れ出さないように守ってくれる。

収穫したら休ませるため、健全なブドウのみを、ひとつずつ超丁寧に収穫する。少しでもつぶれたら発酵が始まってしまう! 傷は一切NG。

「パルッソ」のブドウ畑は全部で25ヘクタールあり、異なる地区に点在している。

パルッソさんは力強く歌うようにイタリア語で語り、そのイタリア語にかぶせるように宮嶋さんが力強い京都弁で同時通訳する。ちょっと緊張感をはらんだ音楽的なリズムを感じながら、スクリーンに写し出された収穫時期の写真に見入る。

「栽培は、パルッソなりのやり方でやっています。ワインをつくり始めてから30年間、自分なりのやり方を探索してきました。目的は、豊かで深みがあるけど、軽(かろ)みもある、消化にいいワインをつくること。若くして飲め、若くても成熟した印象で、熟成させると若々しいワイン、そういうワインを目指してきた。

そのために、20年ぐらい前から醸造のアプローチで、酸素との関係を変革した」

パルッソさんは、酸素はワインにとって悪いもの、怖いもの、戦うべき敵だと考えていた。その後、考えを改め、早く酸素と友達になればなるほど、ワインは早く熟成して飲み頃になるし、その後の熟成も長くて緩やかなものになる、と思うようになった。

ワインと酸素の関係は複雑だ。「その昔、かのルイ・パストゥールは酸素を『ワインの敵』と呼んだ。だが、最近ではワインの化学的性質に関する研究が進み、それが真実とは程遠いことが明らかになっている」とイギリスのワインジャーナリストのジェミー・グッドはその著『ワインの科学』(梶山あゆみ訳/河出書房新社)に記している。酸素にさらされるとワインを酸化させることはご存じの通り。けれど、適度な酸素なくして、ワインは育たない。パルッソさんはひとしきり、この100年間支配してきた近代醸造学を批判したあと、話をブドウ栽培に戻した。

マルコ・パルッソさんは1965年生まれ。10年、「バローロ・ボーイズ」とともに活動した。自然とはなにもしないことではない。純血馬も調教しないとただの暴れ馬で、育たない。人間もブドウも同じ。レシピはない。自分の経験に従う。みんなと同じワインをつくりたいとは思っていない。

いわく、ブドウ栽培にも酸素を有効活用する。たとえば、土壌に可能な限り酸素(空気)を入れ、少量の腐葉土を入れて、酸素の働きにより有効成分を土中に取り込む。酸素とは関係ないけれど、畝に雑草を生やすことで土が下に流れないようにする。土には栄養がないので、ブドウの木の根は深く伸びるほどよい。畑の情報を取り込んだブドウがワインへと伝える。その際、重要なことはブドウの木が幸せな状態で、ポジティブなエネルギーを持っていることである。

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