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シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原ワイナリー長 勝野泰郎さんの「伝承と自由」

長野・塩尻のワイナリーに行こう!(その1)

2018年9月、長野・塩尻地区に80年前のブドウ酒工場の建物を生かしたワイナリーがオープンした。シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原ワイナリーがそれだ。映画『ウスケボーイズ』の舞台でもある、ここ桔梗ヶ原で、ブドウ栽培に取り組むワインメーカーがこのひと、勝野泰朗さんだ。

伝承 × 自由

苦難の歩みと明日への夢が詰まった古くて新しい情熱の箱庭

シャトー・メルシャン 桔梗が原ワイナリー長
勝野泰朗
2000年に入社、シャトー・メルシャン配属後、栽培と醸造の両方の経験を持つ貴重な存在。ボルドーおよびブルゴーニュでの研修を経て、2013年、ボルドー大学でのDNO(フランス国家認定ワイン醸造士・エノログ)の資格を得て帰国。ブドウおよびワインに対する鋭い観察眼とその対応能力は、チームの高い評価と信頼を得ている。シャトー・メルシャンのHPより。メルシャンの前身の大黒葡萄酒の塩尻工場の開場時から使用されてきた貯蔵用大樽の前で

桔梗ヶ原の物語

映画『ウスケボーイズ』で、主人公たちの運命を変えた1本として登場したワイン。それがこの場所で生まれた「シャトー・メルシャン 信州桔梗ヶ原メルロー」だ。

1989年にリリースされると、海外のワインコンクールで高い評価を受け、日本でも世界レベルのワインが造れることを実証した記念碑的作品となった。現実の世界でも様々な人たちの人生を変え、同時に、日本のワイン業界に衝撃と夢を与えたワインでもあった。

日本のワインなんてレベルが低いし、今後も良いものができるなんて誰も思っていなかった時代だ。特にヴィニフェラ種(欧州品種のワイン用ブドウ)などちゃんと育てられるわけがない。

いや、誰も、ではなかった。

桔梗ヶ原では、夢と野望に懸ける人たちがいた。この「信州桔梗ヶ原メルロー」を生み出した男。浅井昭吾。またの名を麻井宇介。そう、ウスケボーイズを名乗るフォロワー達を生んだ男は、その真ん中にいた一人だ。日本でもやれる、日本だからできるというメッセージを、ここ桔梗ヶ原を信じ、桔梗ヶ原から発信し続けた。

その信念と希望の物語が続いているのが「シャトー・メルシャン桔梗ヶ原ワイナリー」だ。現在のワイナリー長は勝野秦朗さん。今年、80年前の工場を生かしたワイナリー開設という、今後の日本ワインに更なる光を照らす記念すべき事業となるプロジェクトを手掛け、同時に歴史的象徴である桔梗ヶ原の畑を守る仕事を担う。

1938年に設立された工場の外観をそのまま生かした新ワイナリー。半地下に真新しいテイスティングルームや醸造設備が広がる。

シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原ワイナリー
長野県塩尻市宗賀大字宗賀1298-80
chateaumercian.com
※ワイナリー見学についてはホームページをご確認ください。

押しつぶされそうな重圧のある仕事だろう。でも、桔梗ヶ原の秋晴れの下、「箱庭」と呼ばれている小さな畑を案内してくれた勝野さんは、純真で屈託のない笑顔。

「あのあたりには、僕がサンテミリオンで気に入ったカベルネ・フランを植えてます。うまくいく可能性は高いと思っています。それから、あそこにはピノ・グリ、リースリングがこの奥にあって、あと、ゲヴュルツトラミネールも300本ほど……あ、なにかやり過ぎな感じがしますか(苦笑)」

ワイナリーの中にあるブドウ畑は箱庭と呼ばれているが、それはサイズ感だけをいったわけではないのだろう。歴代のワイナリー長が手塩にかけ、ありったけの情熱と夢が注ぎ込まれる。その思いを勝野さんは引き継ぎ、次の50年に向けて歩む。

自由にやれ

好奇心の塊がそのまま大人になってしまったような勝野さんの笑顔に、おそらく感心と同時に少しあきれたような表情をしていたのかもしれない。あきれた、といっても、それはとてもポジティブに、だ。

メルシャンといえば日本のワインを支える大企業。その礎を築いた大切な場所。メルローという伝統を守り続けることこそが仕事なのではないかと思っていた。

「自由にやれ。これが根底にあるんです。栽培に携わっている人間がまず挑戦しよう。会社はそう考えてくれています」

もちろん踏み込む勝算があって、やり切る信念があるからこそ許されることだろう。振り返ってみればウスケさんの成功も、その根底には今も続く自由の気風と不屈の信念があってこそなのだろう。

この場所でチームを率いる仕事、プレッシャーはないですか? と聞くと、勝野さんは引き締まった表情に変わる。

「もちろんです。この場所はメルシャンにとってシグネチャーですから。ただ、だからこそ嬉しい。ここで全うしたい。醸造設備など私がゼロから手掛けたものもあり、それも始まったばかり」

醸造設備のリボーンも勝野さんの重要な仕事。クリーンなバレルルームにはまだワインは入っていない。2018年の秋、ここにも新たな命が注がれる。

もうひとつ近隣に非常に可能性の高い畑を作り始めました。ここは開墾から始めたんです。畑づくりは一朝一夕にできない。50年先にもきちんと継承してもらえる土台作りが必要だと思っています。畑と共に後継者もじっくり育てる。それまではここでしっかり取り組んでいきたい」

大切なメルローとともに、新たに勝野さんが始めるブドウたちも一緒に。あの日のウスケさんのように今と明日を信じて歩む。


明治・大正期に使われていた樽がそのまま残るこの場所は映画『ウスケボーイズ』の冒頭で登場する。半地下の階段を上がると太陽の下の「箱庭」に出る。

世界への扉を開いた「信州桔梗ヶ原メルロー」。1998年はいまだフレッシュさを保ち伸びやか。これから大人のエレガンスをまとっていくのではないかという期待感。それだけポテンシャルは高い。「桔梗ヶ原メルローは今まで4ヴィンテージに関わってきましたが、今年からすべて自分で手掛けたものとなります。今まで頭の中で造ってきましたが…いよいよです」という勝野さん。武者震いを感じた。

勝野さんの情熱的な話に、時間を忘れて聞き入ってしまった。そして今年のメルローは……いい。(岩瀬大二)

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