西オーストラリア州グレートサザンにある‘ ナリカップ’ という小さな街外れの丘で出会ったのは、日本の母の味だった?

クール・オーストラリア

ワイン愛好家なら、西オーストラリア州にあるグレートサザンというワイン産地を耳にしたことがあるのではないか。ワインを学ぶにあたり、教本で読んだ覚えがあるようなぼんやりした記憶。世界中にあるワイン産地の中でも、記憶を手繰り寄せる産地の一つであった。

西オーストラリア州の首都パースから車を南へ走らせること5時間弱。東京から京都あたりまで行ける距離だ。オーストラリア大陸の中で最も南極に近い場所。パース市内の気温とはうって変わり、都心部より平均的に10℃ほど低い。夏の日中平均気温は、28〜30℃。心地よい気候である。朝晩は、南極海からの冷たい風の影響で夏でもヒーターが必要なほど冷え込む。

ここへ来て最も驚いたのは、大パノラマの景観や澄んだ空気の美味しさである。都会とは、違う美しさがここにはたくさん存在する。牧畜、漁業、農業が盛んなこの地域。イメージできる牧場とは、少し違う。限られたエリアに牧場が広がるわけではない。あまりにも広大な土地でのんびり自由に牛や馬が暮らす様子を目の当たりにすると、それぞれに持ち主がいるのだが、傍目には「ノラ馬」「ノラ牛」に見えるのだ。野生のカンガルーやキツネと牧畜が共存し、すぐそばには、ヴィンヤードが広がる。「手付かずの自然」とは、このことである。山紫水明な眺めに時間を忘れて見惚れてしまう。

密猟者の丘?

1999年に現在のオーナー兼ブドウ栽培家アレックス・ティラーと奥様のジャネット・ティラーによって「ナリカップ」のなだらかな丘の上に設立されたワイナリー「Poacher’s Ridge(ポーチャーズリッジ)」。直訳すると〝密猟者の丘〞。密猟だなんて。どうしてそんな名前がついたのだろうか?

ポーチャーズリッジが所在する土地は、古代にオーストラリア大陸と南極大陸の衝突によって出来た丘である。古代の土壌・粘土・花崗閃緑岩によって成り立つ土壌は、ミネラルが豊富でぶどう栽培には最適であると考えたアレックス。この土地にぶどうを植える前に、まず土壌の検査に訪れた。その際に、羊を飼っていたご近所さんに羊の密猟者だと勘違いされ酷く罵られたそう。

「この土壌を調べたいんだ。この土が、僕の探している土壌であればここでブドウを栽培したい」

彼は熱意を伝えた。数カ月後、土壌検査の結果を見てここでワイナリーを始めると決意したアレックスは、ご近所さんとの会話を思い出しワイナリーを「ポーチャーズリッジ」と名付けた。

アレックスの手で、丁寧に育てられたブドウは畑をみると一目瞭然。ブドウは、お行儀よく綺麗に同じ位置に果実を実らせる。剪定やキャノピーマネージメントの賜物であろう。もちろん栽培から収穫まで全て手作業で丁寧に行われる。彼のこだわりがうかがえる。

日本の母の味だった!

エレガントで表現の豊かなワイン。ミディアムボディで口当たりの優しいワイン。それが、アレックスの好きなワインのスタイルでありポーチャーズリッジのワインはまさにその通りの仕上がりである。フードフレンドリーなワインでありたい。食べ物を引き立てるようなワインでありたい。どうして、アレックスはそこまでお料理との相性にこだわるのだろうか?

彼のお母様の話を聞いた時に、耳を疑った。白髪混じりの髪に、大きな優しい目を持つアレックス。オーストラリア訛りの英語を話す彼を、生粋のオーストラリア人だと思い込んでいたのだ。

アレックス・ティラー

聞くと、日本人の母を持つと言う。彼の母・京子さんはとても料理上手だったそうで夕食の際には、お刺身や煮物、ご飯には海苔を添えて立派な日本食を毎日作ってくれたそう。好きな母の味は、肉じゃがとすき焼きだと彼は懐かしそうに語ってくれた。彼の造るワインは、「母の料理の味に合うように」そして、何時もそっとそばで支えてくれた母のように「あなたの時間にそっと寄り添える」ワインを造りたいという想いが込められている。

初めて彼のワインを飲んだ時、どこか懐かしく優しい味わいに魅了された。彼のお母様への想いがワインに表現されている。ブドウの個性をしっかりと活かした高品質のワインだからこそ、素材を引き立てるのだ。野菜主体のお料理や素材の味を活かしたお料理と一緒に彼のワインを頂くことにより、口に中で自然と相乗効果を生み出しお料理とワインの美味しいマリアージュが誕生する。お刺身とリースリング。旬なお魚とマルサンヌ。すき焼きと繊細なタンニンが魅力の彼自慢のシラーズを合わせてみたい。飲むと、温かい家庭の味が恋しくなる。そんなワインである。

ポーチャーズリッジ マルサンヌ

ポーチャーズリッジ リースリング

輸入元:(株)エスクリ WINE LIST
https://winelist.jp/
TEL:0335397656

この記事を書いた人

Kisa Moto
Kisa Moto
ワイン好きが高じて、2015年にオーストラリアへ移住。
WSET WineEducationにてワインを学び、現地のFine Diningでソムリエを経験。
現在は日本へ向けたオーストラリアワインの輸出や現地のワインコンサルタントとして活躍。
毎月パース市内にて、Wine教室を開催。
Facebook: Kisaki Moto instagram: kisakimoto