「ショウ・アンド・スミス」のデイヴィッド・ルミアーMWによるセミナー「アデレード・ヒルズの魅力」でご紹介した講師で同社のセールス/マーケティング・マネージャーのデイヴィッドさんと、同社のアンバサダーのカヴィータ・フェイエーラさんのおふたりに個別インタビューができた。おふたりを囲んでのテイスティング・ディナーの翌日のことで、浮かんだ疑問を率直にぶつけた。

トルパドルはグラン・クリュ

ショウ・アンド・スミスのテイスティング・ディナーは8月29日、東京・丸の内の新丸ビル6階にあるモダン・オーストラリア料理レストラン「Wattle Tokyo(ワトル・トーキョー)」で開かれた。オーストラリアの豊富な食材を生かした料理は、たとえばこんな感じだった。

オーストラリア大陸を表すプレートに載ったアミューズ。右上はクイーンズランド州産のオリーブオイルを使った夏野菜のラタトゥユ。右下はヴィクトリア州産のフェタチーズ、その下はタスマニア産グリーンペッパーコーンマスタードと生ハムとカブ。左端は西オーストラリア州産のジャラハニー入り国産ヨーグルト。

ニュー・サウス・ウェールズ産マレーコッドのロースト

オーストラリア産WAGYUのグリル

オーストラリア産牧草育成ラムのグリル

これらに、「ショウ・アンド・スミス」のソーヴィニヨン・ブラン、リースリング、M3シャルドネ、ピノ・ノワール、「トルパドル」のピノ・ノワール、シラーズ、バルハナ・ヴィンヤード・シラーズが供された。

右から2本がタスマニアの「トルパドル」。

どれもこれもすばらしい。と記者は舌鼓をうった。ふとリストを見ると、同じシャルドネでも、ジョン・アンド・スミスのそれは4000円(税別。以下同)、タスマニアの「トルパドル」は6800円。ピノ・ノワールは、ジョン・アンド・スミスがシャルドネと同じ4000円なのに対して8000円もする。

どうして両方とも美味しいのに、こんなに価格が違うのか?

翌日、デイヴィッドさんとカヴィータさんに個別インタビューができたので、そのQ&Aをお伝えしたい。

デイヴィッド・ルアーMWとカヴィータ・フェイエーラさん

シャルドネとピノ・ノワールがアデレード・ヒルズとタスマニアのトルパドル、2種類ずつ出てきて、どっちも美味しかったのですが、トルパドルがアデレード・ヒルズの2倍近くも高いのは船代がかかるからですか?

デイヴィッド「M3シャルドネも収穫高が多いわけではないんですが、ブレンドしています。トルパドルは単一畑で、それが価格の差に表れます。

でも、一番の理由は、タスマニア島のトルパドルのブドウ畑は本土から離れているので、何かとコストがかかることです。道具にしても本土から持って行ったり、雇う人たちも本土から行っています。もちろんプロダクトのシッピング・コストもかかります。

トルパドルのブドウ畑は特別で、単一畑です。アデレード・ヒルズがブルゴーニュのいくつかの畑のブレンドであるヴィラージュ・クラスだとすれば、トルパドルはグラン・クリュかプリミエ・クリュです」

アデレード・ヒルズの標高340〜380mにあるショウ・アンド・スミスの「バルハナ」ヴィンヤード。ワイナリーもここにあり、ツーリストを受け入れてもいる。このブドウ畑はテイスティング・ルームからの眺め。

そうすると、ワインの値段を決めるのは、味、クオリティ、コスト、ブランド……、もちろん、すべてを総合したものでしょうけれど、どのように考えていますか?

デイヴィッド「コストはとても重要です。私たちがトルパドルをスタートした時、価格についてどうあるべきか、いろいろと考えました。クオリティはそのうちの一要素です。

たとえば、価格はちょっと低めにして、量をつくることで採算をとることもできます。逆に、価格を高くして量を少なくすることもできる。

でも、私たちが考えたのは、価格もサステイナブルなことです。畑に見合った規模で、クオリティを保ち、現在の価格と同時に、5年後のライバルたちとの質と価格についても考えました。

畑のサイズも重要です。トルパドルは最終的には20ヘクタールになります。ピノ・ノワールが12ヘクタール、シャルドネは8ヘクタールで、それ以上はできません。価格は、その限られた生産量に見合ってないといけない。トルパドルの畑は土壌が特別で、隣の畑に行くとまったく異なるのです。

バルハナ・ヴィンヤードのなかに、2000年ヴィンテージのためにつくられたモダンなワイナリー。

クオリティのいいものを長期にわたってつくっていくには投資が必要です。ベスト・ワインをつくるためには、いい品質のオーク樽の買い入れや、エイジング・ワインの設備、畑の改善を行うための投資も必要です。成功しているブルゴーニュやボルドーの生産者たちもよい価格を保ち続けることで、よい質のワインをつくり続けています。私たちも、そのようにしているわけです」



ブルゴーニュのようにつくろうとは考えていない

ピノ・ノワールについて、お訊ねします。日本人はブルゴーニュのピノ・ノワールが好きです。ブルゴーニュのピノ・ノワールというと、華やかな香りをイメージするのですが、ショウ・アンド・スミスもトルパドルも、ちょっと控えめに感じました。でも、もっと大きなグラスで楽しんだりすれば、実はもっとフローラルな香りがするのでしょうか?

デイヴィッド「バーガンディ(ブルゴーニュ)のようにつくろうとは考えないようにしています。アデレード・ヒルズやタスマニアの特徴を出したいのです。

それと、フルーティさというのは年によっても熟成の度合いにもよります。

ただ、こういうことはいえます。先日、クリストフ・ルーミエさんと一緒にブルゴーニュの非常に若いワインを飲みました。たいへんフルーティで、ラブリー、華やかさもある。でもこれは、ダメだ、とクリストフも私も意見が一致しました。なぜなら、ミネラリティや複雑性、アーシネス(土のニュアンス)がない。森の香りだとかスパイシーさもない。ただのフローラルなワインで、これは厳格なワインではない。複雑さ、ミネラリティ、スパイシーさ、アーシーなキャラクターが絶対に必要だと考えています。

タスマニアは極めて強い果実を与えてくれます。それはミネラリティが損なわれてしまうほどですから、非常に注意深く栽培しています」

ブルゴーニュとの決定的な違いはなんでしょう?

デイヴィッド「アドレード・ヒルズのピノ・ノワールは、より赤系のフルーツで、よりデリケートで、より軽やかさがあります。私が思うに、コート・ド・ニュイとボーヌを比べると、ニュイは黒い果実味が出るので、ボーヌに近い。赤い果実、チェリーとかストロベリーといったフルーツのキャラクターは似ています。サントネが一番ニュアンス的に近い。でも、たぶん、もうちょっと、アデレード・ヒルズのほうがデリケートで、同じではないです。

タスマニアは、黒系の果実になるので、コート・ド・ニュイが近くなる。といっても生産者にもよります。たとえば、ドメーヌ・デュジャックとか」

デイヴィッドさんは、こう生産者の名前を出した後、「どう思う?」とカヴィータさんに話を向けた。

冷涼で乾燥した「トルパドル」の畑を歩く、ショウ・アンド・スミスの創業者でマネージング・ディレクターのふたり、マーティン・ショウ(左)とマイケル・ヒル・スミスMW。ふたりはこの畑を見るや、即購入を決めたという。

カヴィータ「コート・ド・ボーヌも、私たちのタスマニアもアデレード・ヒルズも、気温によってではなくて、太陽の日照によってブドウが熟します。私はそこに類似性を見ています」

次にあえて正面からこのような質問をぶつけてみた。それは、ワインのつくるとき、理想の味を目指すのか、それとも、ワインはブドウを育てた結果だと考えているか? というものだった。

デイヴィッド「ブドウ畑の特徴をいかに引き出してやるのかを考えています。年によってはとてもチャレンジングで、年に応じて柔軟なワインづくりを心がけています。毎年、同じことをするわけではありません」

カヴィータ「人間がコントロールするのは、畑に対して完璧な信頼がないときや悩みがあったとき、だと思います。私たちは土地に対しての経験をもう十分に積んでいます。ブドウ自体がいい成長をしていますから、私たちがコントロールをせずともいい段階に来ています」

バルハナから10km北西にあるレンズウッド・ヴィンヤード。標高455〜500mと、バルハナよりも高地にあり、主にシャルドネとピノ・ノワールが栽培されている。

次にこんなことを訊ねた。ワインのトレンドはありますか? 

デイヴィッド「スタイルの進化という意味でしょうか? 私が思うに、ピノ・ノワールには、全房発酵で、より複雑性をつける、という手法が受けてきています。それはピノ・ノワールというブドウ品種のキャラクターがちゃんと表現されていることが大前提ですけれど、こうした複雑性のあるピノ・ノワールはすごく人気があります。

でも、オーストラリアには、ストラクチャーがあって、熟成の可能性のあるピノ・ノワールが少ないのが現状です。消費者はもっと高品質で、シリアスなワインを求めています。というのも、ピノ・ノワールは繊細で、育てるのに費用がかかる上、収穫高も少ない。平均的なオーストラリアのピノ・ノワールは現地で30〜40ドルしますから、基本的に高い。なので、消費者の期待値もおのずと高くなる。ですから、いいワインでなければいけないわけです」

ナチュラル・ワインのトレンドはどうですか?」という質問をしたのは、通訳もつとめていただいた輸入元モトックスのOさん。

デイヴィッド「ナチュラル・ワインはトレンドというわけではなくて、どう栽培するか、ということが注目されているのだと思います。ブドウ畑の土壌、その土壌の健康具合、持続可能かどうか、ということに多くの方の関心が高まり、オーガニック農法に変えていったりしている生産者も多い。そうしたトレンドのひとつに、ナチュラル・ワインも含まれているわけです。

オーストラリアでは、ナチュラル・ワインはもっとオーガニックであったり、バイオダイナミックであったりする方向に流れています」

ショウ・アンド・スミスではバイオダナミックを使っているのでしょうか?

デイヴィッド「オーガニックは数年以内に認証が取れます。バイオダイナミックも実験的に使い始めています。ただ、ブドウの状態をよくするため、土地の活性化のためで、哲学的なものではなくて、理にかなっているかどうかで判断しています」



ワインは、喜び、発見、つながりである

あなたにとって、ワインとはなんでしょうか?

カヴィータ「それは、ビッグ・クエスチョンね」

デイヴィッド「私にとってワインは、喜びであり、発見であり、同時につながりです。トスカーナのワインを飲むと、その場所へ想いを馳せることができます。そこで働いている人びととつないでくれます。異なったワインを飲むと、それをつくった人びとを感じます。それ以外にも、プロなので、頭の中を整理して、さらに積み上げることができます。この土壌、このヴィンテージ、彼はこういう考えでやっているんだろうなという、プロとしての刺激を与えてくれます」

カヴィータ「私にとってはクラフト(手作業)への感謝です。多くの人が献身的にあちこちで農業に向き合って、栽培しています。そういう人たちに敬意を評します。

畑でブドウを食べるとフルーツの味がする。それがワインになると、その土地が現れる。

それが世界中で行われていて、人によってはファミリーに受け継がれている技術で、しようがなくてやっている人もいれば、好きでやっている人もいる。それを知ることができるワインは素晴らしい。

ワインで、その土地を思い出すこともできます。海外に行けなくても、世界旅行ができる。

あ、それと、クラフトをやっている人たちに感謝しています。日本の陶器や茶道具、あるいは絹織物とか、代々受け継がれている伝統工芸品はそれぞれ物語を持っています。クラフツマンシップでつくられた世界中の製品のなかでも、ワインはもっともコミュニケーションのできるプロダクトだと思います」

おふたりの回答は、ワインのステキさをよく表していて、もしも今度、記者が同じ質問されたら同じことを言おうと思ったのでした。

最後に、参考にしようと思ってこう訊ねた。普段、何を飲んでいますか? 

デイヴィッド 「朝はコーヒーですね(笑)。ビールは好きです。1杯は飲みたい。ジントニック、カンパリも好きです。それ以外には、白ワインが大好きです。軽やかさとフルーティさもあるシャルドネ、リースリングを楽しんでいます」

カヴィータ「私はカンパリが大好き。私の家での飲み物は、カンパリ、トニックウォーター、ビター(苦味のある)なものが好きなんです。あと、酸が強い白ワインは好きです。赤はガメイ、ピノ・ノワール。家ではシリアスなワインは飲まない。レストランでは、アルメニアとかギリシャとか新しい面白いワインをトライするのが好きです」

ステキなプロフェッショナルのおふたりでした。

この記事を書いた人

WINE-WHAT!? 編集部
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