チリの大手「コンチャ・イ・トロ」とボルドーの最高峰「バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド」とのジョイント・ベンチャーとして誕生した「アルマヴィーヴァ」。ボルドー、スーパータスカン、カリフォルニアのカルトワインと真っ向から勝負できるワインがチリにあることを世界に知らしめた造り手だ。そのアルマヴィーヴァの醸造家ミシェル・フリウが9月、来日。ここでは、ミシェル・フリウの日本到着直後に、輸入元の「エノテカ」が招待した専門家を集めて開催されたランチイベントをリポートする。

ミシェル・フリウ(Michel Friou)氏。場所はザ・ペニンシュラ東京の24階「ザ・セブンシーズ・パシフィック」

プエンテ・アルトのカベルネ・ソーヴィニヨン

チリにはプエンテ・アルトというブドウの産地がある。世界最高のカベルネ・ソーヴィニヨンの産地などとも言われるそこには200haほどのブドウ畑がある。このうち85haほどの畑を持っているのが、アルマヴィーヴァだ。

アルマヴィーヴァの畑の隣には、コンチャ・イ・トロの「ドン・メルチョー」の畑があり、そのほか、「セーニャ」のチャドウィック氏の畑がある。

つまりそこは、高級チリワインの産地だ。

会場に飾られていたパネル。畑の写真だけれど、背後にあたかも舞台の書割かのごとく山がそびえる。この環境がまたとない高品質なカベルネ・ソーヴィニヨンを育む

アルマヴィーヴァは1997年にかわされた、ボルドー5大シャトーの一つ、「ムートン・ロスチャイルド」のバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルドとチリのコンチャ・イ・トロとのパートナーシップで1998年に立ち上がったチリのワイナリーだ。最初のヴィンテージは1996年。

カベルネ・ソーヴィニヨンを主体とした、ボルドースタイルの赤ワインを、毎年、生み出す。「アルマヴィーヴァ」がトップ、ほかに「EPU(エプ)」というセカンドの赤ワインがある。

「もともとはポイヤックのイメージだった」

と、アルマヴィーヴァのワインメーカー ミシェル・フリウ氏は言った。

フリウ氏はフランスで経験を積んだフランス人ワインメーカーで、チリでは「クロ・アパルタ」、やはりバロン・フィリップ・ド・ロスチャイルドがチリに設立したワイナリー「エスクード・ロホ」と、チリのトップエンドのワインに関わった背景を持つ。

「アルマヴィーヴァの最初は、熟した果実、凝縮、複雑、豊かなタンニンを求めました。そこから徐々にフィネス、エレガンス、バランスといった、ファインチューニングへと向かっていったのです」

ボルドーのスタイル、ノウハウを基礎として、チリに学んだことで、より高みへと歩みを進めた、というわけだ。プエンテ・アルトの環境を

「ドライでクール。収穫期に雨が降らず、寒暖差が大きい。ブドウはマイポ・リヴァーの風を受けてゆっくりと熟す」

と言う。

9月の終わり頃、来日したフリウ氏はアルマヴィーヴァの2009年、2012年、2016年、2017年の4種類のワインを用意し

「ヴィンテージの差、だけではなく、アルマヴィーヴァがどう進展していったかも体験してもらいたい」

として、ランチイベントを開催した。ゆえにワインは2009年ヴィンテージから試す。

アルマヴィーヴァという名は、18世紀フランスの実業家、カロン・ド・ボーマルシェの劇作品、フィガロ3部作(『セビリアの理髪師』、『フィガロの結婚』、『罪ある母』)に登場する、アルマヴィーヴァ伯爵からとっているそうだ。ラベルに描かれている赤い円は、チリのマプーチェ族が古くから使う太鼓にちなんだデザインで、十字架は東西南北を、中央の点は春夏秋冬、4か所の半円が風を表す

正統な高品質赤ワイン

2009年ヴィンテージは、まったく正統にボルドースタイルの高級ワインだ。フレッシュで、ブドウの凝縮した甘みがあり、熟成したワインのパンのような香りがあり、まろやかなタンニンがある。樽のテイストは、熟成によってだろう、ワインと見事に調和している。芳醇な香り、なめらかで、複雑で、熟していて、新鮮でもある。高い技術力と手間と時間が惜しみなく注がれたワインだ。

「カベルネ・ソーヴィニヨンが73%。カルメネールが23%。カベルネ・フランが少し、メルローが1%だけ。もともと、カルメネールはチリでメルローと混同されていました。のちにメルローではなくカルメネールだとわかるのですが、しかし、カルメネールはドライなタンニン、ヴェルヴェットのような舌触り、まろやかさ、スムーズさ、クリーミーさをワインに与えてくれます。ボルドーにおけるメルローに近い存在といえるでしょう。カベルネ・ソーヴィニヨンだけでは表現できないものをワインに与えてくれます。酸味は少なく、色もよい。我々は当初、これをチリのメルローと考えてブレンドしていましたが、後に、遺伝子を調べ、これがメルローではなくカルメネールだとわかりました。しかし、だからといって、カルメネールなしでワインを造ろうとはおもいませんでした。チリで育ったメルローは、ジャミーになりがちで、難しいのです。2005年から、ようやく望んだメルローを収穫できるようになり、それからはメルローもごくわずか、1%程度くわえています」

2009年は温かい年だったという。

「ブドウの房が大きく、果実も粒が大きめだった。ジューシーでまろやかで、飲みやすいヴィンテージだとおもいます」

つづく2012年も、温かいヴィンテージだったという。しかし、その性格は2009年とはことなる。もう少し、酸味やスパイシーさ、苦味といった刺激がある。余韻は長く、あまく華やかにつづく。

「2009と違い、2012年は収穫量が少なく、粒も小さく、凝縮していたのです。太陽に恵まれた、暑い年でしたが、10月11月は夜が涼しく、朝は曇りがちだった。それで凝縮した果実が得られたのです」

カベルネ・ソーヴィニヨンの比率は65%ととなって、カルメネールは24%。カベルネ・フラン8%にプティ・ヴェルド、メルローが少々。このうち、プティ・ヴェルドがいい仕事をしているようだ。

「プティ・ヴェルドが色合い、構築性、複雑さをもたらしています」

2009年でも、それ単体で味わえば充分に凝縮して濃密なワインの経験だけれど、2012年とくらべると、たしかに、より凝縮感があるのは2012年だ。

2012年ヴィンテージの幸福な余韻を引きずったまま、2016年ヴィンテージへ。こちらはクールで現代的な印象だ。まだ、若い、という理由もあるかもしれないけれど、カベルネ・ソーヴィニヨンらしい、草原のような香り。景色が変わる。フレッシュさをより感じ、余韻にはすこしバターのような香ばしさもある。



「ほかとはかなり違うヴィンテージです。雨が収穫期にまったく降らなかったのも異例のことでした」

アルマヴィーヴァではーーそれは高級ワインでは当然のことであるけれどーー栽培区画を細かく分け、栽培・醸造をコントロールする。収穫には普通、9から11週間もかけるという。ただ、このヴィンテージでは通常よりも早い時期に収穫を開始し、収穫期間も3週間程度だった。

「それ以上、収穫を遅らせるとボトリティスの危険がありました。結果、アルコールはやや弱く、緊張感のあるスタイルが表現できました。もっと熟成させていくと、さらに個性が際立ってくるとおもいます」

もちろん、アルマヴィーヴァの基調をなすスタイルとまったく違うわけではない。あくまでアルマヴィーヴァとして成立する偏差の範囲内において、という話だけれど、2016年はアルマヴィーヴァにとっても、これまでとはまた違うアルマヴィーヴァの姿のインスピレーションを与えるヴィンテージだった。テクニカルシートによると、メルローを使っていない。やめてしまったわけではなくこのヴィンテージには必要ない、という判断だろう。というのは、日本では来年になってからリリースとなる2017年ヴィンテージが、今回、先行してテイスティングできて、そこにはメルローが2%使われているからだ。

毎年、ボルドーでまずリリースされるアルマヴィーヴァ。最新の2017年ヴィンテージは日本では2020年の1月から2月に市場に登場する予定。カベルネ・ソーヴィニヨン65%、カルメネール23%、カベルネ・フラン5%、プティ・ヴェルド5%、メルロー2%というアッサンブラージュ。新樽で19カ月熟成。ブドウの生育期に雨が少なく、気温は夏、36℃に達することもあるなど高かった

2017年ヴィンテージは若々しさをよりはっきりと感じる。カベルネ・ソーヴィニヨンらしい、ハーバルな香りもあるし、樽のテイストも、ほかとくらべてしまうとまとまりきっていない。とはいえ、あまい余韻があって、温かいヴィンテージなのだろうと感じさせる。

「2017年は、通常より平均でも2℃高い。つまり、かなり暑い年でした。収穫量も少なかった。若いので樽のローストした雰囲気など、まだワインに馴染んでないのですが、これがチョコレートのような苦味や渋みをあたえてくれて、いま飲んでもまた、面白いとおもいます」

ワインでは不可能なことではあるけれど、今回の各ボトルを同じ熟度で飲めたとするなら、フリウ氏が最初に言ったように、ヴィンテージの差だけではない、新しいヴィンテージほど、より高度な表現になっているさまがあきらかになるとおもう。2017年ヴィンテージが、あと5年、いや10年先に得るであろう表現は、いま2009年がなす表現より、さらに高度なものになるだろうと予感させる。

直近の将来も期待できる。

「2018年はカベルネ・ソーヴィニヨンがとてもよい年でした。2019年も質・量ともによい年なのですが、カベルネ・ソーヴィニヨンの出来でいえば、2018年のほうが勝るでしょう。それほどよかった。ただ、では出来上がったワインは、というと、18年と19年は似たワインとして仕上がるとおもいます」

では、そこからさらに先、将来をどう見通していますか? とたずねてみた。

「これは私たちに限ったことではないですが、温暖化と水不足が課題になるとおもいます。灌漑の技も磨かれてきていますが、収穫量はより少なくなるでしょう。ブドウの粒は小さく、より凝縮し、タンニンの扱いも難しくなっていく。ただ、厚みをまそうとポンピングオーバーを何度も行う、というような考えでは現在はなくなっていて、より、ブドウの素質を引き出すようなワイン造りになっています。それでなおかつ、アルマヴィーヴァらしさを表現する、というときには、凝縮したブドウが栽培できるだろう将来の環境は、ポジティブなもの、といえるかもしれません」

チリの高級ワインにとっての共通の悩みは、そもそも、チリに高級なワインがある、という事実があたりまえのこととして充分に浸透していないことだ。一方でチリのワイン造りはどんどんと高みへと登っている。そして、チリの高級ワインメーカーとしては老舗のアルマヴィーヴァにしても、より現代的で、より高い完成度を目指しての前進はやまない。

オールドワールドの最高峰のワインと、真正面から勝負して、伍するワインがチリにある。世界のトップエンドのワインのこのライヴァリーがつづくことは、ワイン好きに、とても好ましい将来をもたらすだろう。

この記事を書いた人

WINE-WHAT!? 編集部
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