イギリスでは、ワインの価値を知る人物であることが、ジェントルマンの必須条件。とはいえ、上流階級を担うジェントルマンになるのは、さほど難しいことではありません。秀逸なボルドーの栓を抜き、そのおいしさに気づいた瞬間から、誰もが自然とジェントルな表情になるのです。まずはひとつ、イギリスに詳しい君塚直隆先生のミニ・レクチャーをどうぞ。
イギリス人好みのボルドー 

イギリスでのジェントルマンとは、上流階級の紳士を指します。ラテン語やギリシャ語に通じ、国際感覚を身に着け、知識豊富なことがジェントルマンの証。彼らにとって、ワインもひとつのたしなみです。カズオ・イシグロの小説をもとにした映画『日の名残り』を観ますと、20世紀前半のジェントルマンの生活が垣間見られますよ。邸宅にはワインセラーを備え、ワインを傍らにフランス料理を食す日々。

上流階級の人々はフレンチ好きなんです。イギリスの公式な場ではフランス料理が供されます。王室の晩 餐会でも、イギリス料理でなくフランス料理。私、「世界帝国を築く国は料理がイマイチ」との仮説をひそかに立てているのです。イギリスやドイツは料理に恵まれず、おいしいものを必死に求めて植民地拡大に成功。フランスや日本がしくじったのは、料理がおいしいから(笑)。

そして、ジェントルマンがフランス料理を好むなら、合わせるワインもやはりフランス産です。シャンパーニュやブルゴーニュ白も飲みますけれど、彼らがとくにボルドー赤を好むのは、現ボルドー地方のアキ テーヌ公国を支配下に置いていた歴史によるもの。アキテーヌを領土としたヘンリー2世の時代、大量のボルドーワインが海を渡りイギリスで消費されました。

英仏百年戦争の最後、1453年に領土はフランスに奪回され、イギリス人はガッカリ。その後も銘醸地を再び手に入れようとの野望を抱いて紛争を続けましたが、エリザベス1世の時代にようやく「フランスと仲良くして、普通に貿易取引したほうがいい」と観念したのでした。

イギリスは毛織物用の羊毛を輸出して外貨を稼ぐばかりでなく、18世紀末からの産業革命により工業製品 も人気に。財力を持った労働者階級が出現したタイミングで1860年、フランスワインの関税が下がる英仏 通商条約が締結されました。

通商条約に貢献した政治家、ウィリアム・ グラッドストン(当時の財務相)にちなみ、当時はワインに「グラッドストン・クラレット」との愛称まで付けられていたとか。クラレットとは、ボルドーならではのワインを指します。やはりいつの時代も、イギリス人にとってワインといえばまず真っ先にボルドーなのです。

今日のジェントルマンもワイン好きであることは変わりなく、彼らが集まると、よくゲームをします。い わゆるブラインド・テイスティング。食後にとあるワインが出てきたところで、その場にいる人たちがひとり1ポンドずつ出し合い、銘柄やヴィンテージを当てて賭けをする……自然と、舌と知識が鍛えられるわけです。

ときには日本の皆さんも、ジェントルマンたちの暮らしに想いをはせてみてはいかがでしょうか。お供には、イギリス人が創立したシャトーのワインなど、イギリスに深い縁のあるボルドーや歴史書、映画がオススメです。

ボイド・カントナック

中世よりイギリスは良質な羊毛の産地として知られている。その羊毛の商いで成功したアイルランド出身のジャック・ボイドが1754年、シャトー・ボイド・カントナックを創立。銘醸地マルゴーを選んだボイドの選択眼が素晴らしい!

 
ジャック・ボイド

イギリスのジェントルマン好みであるシャトー・ボイド・カントナックの哲学はそのままに、よりリーズナブルで軽快な飲み口に仕上げたのが、こちらのセカンドワイン。創立者の名を冠しただけあり、セカンドながら堂々たるスタイル。


 
君塚直隆先生
 

君塚直隆先生
関東学院大学教授。イギリスの歴史や政治を専門とする。ワインへの愛は本場イギリスのジェントルマンを上回り(?)、オックスフォード大学在学中は、近隣のフレンチレストランが秘蔵するお宝ボルドーを片端から制覇していった逸話アリ。オックスフォード大学とケンブリッジ大学の校友だけで構成されるジェントルマンズ・クラブのメンバーでもある。

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