いまやワイン造りの現場では、除草剤や殺虫剤を使わないのは当たり前になりつつある。そんな当たり前を、当たり前にしたボルドーのスペシャリストに聞いた

マリー=カトリーヌ・デュフォー|MARIE- CATHERINE DUFOUR
東京でのボルドーワイン委員会セミナー開催のため、2019年秋に来日したデュフォーさん。セミナーでは新品種の導入など具体的な温暖化対策を挙げ、10年以内に一定の成果を得たいとする展望を語った。ランチ時は、慣れない箸使いにトライし和食を堪能。天ぷらにさわやかなボルドー白、より醤油味の強い料理には赤を合わせた。

下草を生やしていたら笑われた

AOCワイン用の畑は11万ヘクタール以上、フランス最大の栽培面積を抱くボルドー地方。

栽培や醸造にまつわる研究所や大学が多く、気候変動を含めた未来予測も的確だ。マリー=カトリーヌ・デュフォーさんは長らく研究所に籍を置き、気候変動対策や品種開発などに携わってきた。2019年1月からボルドーワイン委員会に移籍し、生産者へ技術指導する立場に。

「今までは、知識ある研究者から生産者へ指導がなされる、一方的なトップダウンの流れだったように思います。でも、生産者にも独自の知見があります。私も自分の畑を持つひとりの生産者だから分かる。今は、生産者の知見も拾い上げた上での相乗効果に期待しています」

研究者や委員会側がアイデアを出しても、すべての生産者がすんなりとは受け入れない。何が起こっても、結果のリスクを負うのは生産者。ただ、誰かがアイデアにトライして成功すれば、説得力が生まれてようやく普及する。

畑に下草を生やすテクニックも同様だった。

「20年前なら、畑に下草を生やしていたら皆の笑いものでした。今は、下草のない畑のほうが笑われます」とデュフォーさん。

いきなり下草を生やし始めると、最初の1、2年はブドウの樹も草が生えた表層に慣れておらず、収量が減ることもある。だが2、3年も経てば、ブドウ樹が表層に根を延ばすのをあきらめ、根は深く下りていく。

「意外と早く下草の効果は出た」ことから、テクニックの採用率が一気に高まった。

化学肥料をやめたら儲かるのか?

収穫量が増える、財政面が豊かになる、といった利益ばかりを求めて生産者全体が動くわけでもないという。ボルドーは長年、地方全体で環境保全の取り組みを行ってきたが、これはけして「儲かるシステム」ではない。環境に優しいとのアピールはが消費者へのイメージアップにつながるであろう反面、畑での負担は確実に増える。

「『環境への影響を考えて化学薬品の使用をやめたなら、その分経費が減るでしょ』と想像する人もいますけど、代わりに労働力が増えるんです。薬で抑えられない虫や疾病に対し、常時観察して手入れをしなくてはなりません」

必ずしもお金儲けに繋がらない環境問題に、ボルドーの生産者はなぜ取り組み続けるのか?  

答えは、息子や孫の代まで正しい状態の畑を残しておきたいから、だ。

「私の親に近い世代より、彼らから受け継ぎつつある子供たちの世代のほうが、たしかに革新的で環境保全に対する動きは早い。でも、年齢が高いからといって必ずしも保守的で環境に無関心なのではありません。彼らは、土と結びついている人。土地の状態をよく把握しています。たとえあと数年で隠居する身だとしても、環境をよりよく変えねばとする危機意識は本当にとても高い」

デュフォーさんは今日も生産者に寄り添って畑を守り、未来を導く。