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ムッシュ鈴木のおひとりさまアペリティフ

Vol. 2 キャップ・クラシックと秋の味覚

急に寒く感じる日が来たかとおもえば、次の日は妙に暑かったり、スズムシの声が聞こえたとおもったら、ツクツクボウシも鳴いていたり。これって前からそうだったっけ? やっぱり温暖化の影響?

今回は、秋の虫の声を聞きながら、ちょっと不安定な天候にも対応してくれそうなアペリティフを提案したい。

秋の味覚にブラン・ド・ブラン

僕がパリに住んでいた頃、サンクトペテルブルク出身の友達がパリには秋がなくて不満だと言っていたのだけれど、調べてみたところ、サンクトペテルブルクの秋はとっても短いらしい。パリでは秋が体験できると期待していたのだろうか。日本人の僕は、虫の声がしないのと、なにより、料理に全然、季節感がないことが不満だった。

フランス料理の名誉のために言っておくと、もちろん、フランス料理には季節感がある。ただ、フランスに住んでいるからといって、いわゆるフランス料理が毎日食べられるわけじゃない。さらっと簡単に済まそうとおもった場合、たしかに、夏になればモモ、秋になればキノコ、程度の季節感は演出できるけれど、昼食はサンドイッチ、アペリティフといえばオリーブとかナッツで、家で食べる夕飯は、バゲットにステーキにサラダというのが一年中基本形だ。

日本の食事がステキなのは、なんでもない日常にも季節感があるところ。秋の虫の声を聞きながら、秋の味覚でアペリティフなんて風流じゃない? じゃあ、それに合うワインってなんだろう。僕は、シャルドネ100%のブラン・ド・ブランを推したい。柑橘系の香りやシャープな酸味が注目されがちなブラン・ド・ブランだけれど、注目したいのはミネラリーな旨味のある苦味。これが、秋の味覚にすごく合うとおもうのだ。

といってもシャンパーニュのブラン・ド・ブランは、美味しいけれど、お値段も張る。特別なものですからね。

それで先だって、南アフリカを代表するキャップ・クラシックの名手、グラハム・ベックのブラン・ド・ブランを飲んで、感動してしまった。これで3,500円以下っていいんですか?

グラハム・ベック ブリュット ブラン・ド・ブラン 2017 ¥ 3,465 / モトックス

キャップ・クラシックは今年で誕生50周年を迎えた、南アフリカで造るシャンパーニュ式のスパークリングワイン。いまちょっと人気だ。

ウンチクを言うと、1968年にステレンボッシュの醸造家 フラン・マランが、シャンパーニュを訪れ、その製法に感動して、1971年に収穫したブドウを、シャンパーニュ同様のスパークリングワインとして独力で完成させた。そのワインがケープのスパークという意味の『カープス・ヴォンケル』という名前だったことが、こんにち、南アフリカのこの方式のスパークリングワインをキャップ・クラシック方式という元になったらしい。

グラハム・ベックは、このキャップ・クラシック方式のワインを代表する造り手で、温暖化した現在、なぜ、南アフリカではこんなに美しい酸味と複雑さをもったスパークリングワインが造れるのか、シャンパーニュの造り手も勉強しに来るのだそうだ。

子持ちししゃもでシンプルに

今回の食材選びの基本は、苦味や土っぽさがあって、レモンが合う食材であること。ただ、レモンでシンプルにいくのではなくて、ブラン・ド・ブランの上質な酸味、そして、旨味、苦味で、食材を引き立てようという寸法だ。

そういう秋の味覚であれば、サンマでもキノコでも天ぷらでも、なんでも合うと思うのだけれど、今回はアペリティフなので、シンプルに、子持ちししゃもを焼いてみた。

それから、パリでアペリティフといったらオリーブとナッツで芸がないみたいに言っておいてなんだけれど、オリーブは絶対合う。ただ、ここはアンチョビ入りのものを選んだ。

アンチョビの塩辛さやクセが、さらにブラン・ド・ブランを引き立ててくれる。

このワインには長期の熟成からくるイースト香があって、爽やかなだけではない複雑味と余韻の長さから、しっかりした味わいの料理も引き立ててくれる。先にも言ったように、サンマとかキノコとか、スライスしたゴボウを焼いたものに合わせてもいけるはず。

ブラン・ド・ブランは夏向け、とおもっている方にも、秋の虫の声を聞きながらのブラン・ド・ブランをオススメしたい。

この記事を書いた人

ムッシュ鈴木
ムッシュ鈴木
東京生まれ。信州人になりたいとおもっている。パリ大学でフランス文学の研究をしていた。果物の仕事をしてから、ワイン業界へ。

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