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ムッシュ鈴木のおひとりさまアペリティフ

Vol. 3 ぎんなんに合うワインを探して

ずっと編集や執筆でお世話になっている木村千夏さんから『ぎんなん』をもらった。曰く「ムッシュ鈴木ならぎんなんにどんなワインを合わせます?」とのこと。

これは挑戦状だ!

まずはイタリアのふくよかな白ワイン

これが、今回の挑戦状だ。

僕は東京人なのでイチョウとは長い付き合いだ。幼少の頃から、毎日、街路樹のイチョウを見ていますからね。

ただ、特に理由はないけれど、ぎんなんをあまり食べてこなかった。木から落ちてくるぎんなんはお馴染みでも、食べるぎんなん、というのが、どんな味や香りだったか、どうも詳細に思い出せない。

しかも、今回頂いたぎんなん、木村氏がとある有名な神社から頂いてきたものを、剥いて洗って自宅ベランダで干したものだそうだ。この時点で特別品だ。しかも、そもそも大粒なことに加えて、上の写真の右のものは、3本の筋が入っている「金運アップ」のご利益アリなのだとか。

ぎんなん初心者にも関わらず、いろいろな属性の乗っかったものをもらってしまった……とはいえ、このときの僕には、勝算があった。

おぼろげなぎんなんの記憶を頼りに考えたアペリティフは、イタリアはガルダ湖周辺の産地、ルガーナの白ワインだ。

例えば、ヴェネト州のワイナリー「トンマージ」の新商品 『 レ・フォルナーチ ルガーナ 』はどうだろう。

トンマージ 『レ・フォルナーチ ルガーナ』 ¥ 2,970 / 日本リカー

このワイン、香りが特徴的で、甘く熟したブドウの華やかなイメージがある。味わいは、フレッシュな白ワインとしてはしっかり目。酸味とともにふくよかさも感じられるけれど、苦味もあって、きゅっと引き締まった印象。ややアーモンド的な余韻もある。

つまり、ぎんなんをナッツ的に考えれば合いそう、というのと、ぎんなんのもつ独特の臭みや渋みを、このワインはほどよくカットしてくれるのではないか、という発想だ。

軽くフライパンで殻ごと炒ったぎんなんと合わせてみると、想定通り。トンマージ『レ・フォルナ-チ ルガーナ』はうまい具合にぎんなんを受け止めて、まとめてくれた。ワインの個性がぎんなんに塗りつぶされるようなことがなく、かといってぎんなんを抑制しすぎない。ぎんなんが、ワインを楽しむおつまみ、として成立しているようにおもう。

ただ、なにかひっかかりが残った。これでは、優等生すぎはしまいか? 木村氏からの挑戦に対して、これでおしまいにしていいのだろうか?

あえてにぎやかにしてみる

そもそも、もっと一般論で考えてみると、辛口のスパークリングワインや、ちょっと樽を効かせたシャルドネ、あるいは日本ワインならデラウェアのスパークリング、などというのも、ぎんなんに合うはずだ。トンマージ『レ・フォルナ-チ ルガーナ』はそこに、あえてのひねりも利いているようにはおもう。

ただ、このぎんなんは、それ単体でも十分美味しく、個性的だったのだ。ほんのりとした甘み、ねっとりとした食感、苦味、さらに、ぎんなん特有の臭みもまた、魅力的に感じられた。そこが、ひっかかりの原因だった。

このぎんなんの風味を強く出して、さらにそこにワインの風味を足すことで、にぎやかな感じにしたら、どうなるのだろう。 僕はそれをやってみたい気持ちを抑えられなかった。

基本的な路線は、あくまで、ぎんなんの風味を殺してしまわない、重たすぎないワインだ。酸味の切れ味、甘みやまろやかさもやはり欲しい。しかし、その範囲で、しっかりと主張をするワインはないか。ワインならではのタンニンや苦味、スモーキーさを、このぎんなんに加えたらどうなるのだろう。 たとえば、一部のピノ・ノワールであれば……

とはいえ、そういう、個性のあるピノ・ノワールとなると、おもいつくワインはどれも高級で、アペリティフにはちょっと贅沢すぎる。

ああ、こんなふうに悩んでいる間に10月が終わってしまう。11月っていったらもう、ヌーヴォーの季節じゃないか……とおもったときにひらめいた。ボジョレーだったらどうなるのだろう?

ヌーヴォーもいいけれど、まだ時期ではないから、ボジョレーのヴィラージュであれば、手軽で、かつ、味わいも望み通りなのではないだろうか? 早速やってみようと、 ルイ・ジャドの『ボージョレ・ヴィラージュ コンボー・ジャック』をインターネットで注文した。

ルイ・ジャド『ボージョレ・ヴィラージュ コンボー・ジャック』 ¥ 2,420 / 日本リカー

ぎんなんのほうも、一工夫してみる。

ぎんなんをくれた木村氏からのアドバイスなのだけれど、封筒に入れて、電子レンジで40秒程度あたためるといいとのことなのだ。

そのアドバイスに従ってやってみると、ぎんなんがポップコーンのように、ぽんぽんと弾ける。ほっこりと温かくなり、ぎんなんの香りが広がってくる。これなら、より、ぎんなんの個性が際立ちそうだ。

ぎんなんの苦味や渋味も残したいから、薄皮をむきすぎないようにして用意。万全の体制だ。さぁ、この濃厚なぎんなんに、コンボー・ジャックを合わせたらどうなる……いざ、いただきます。

これだ! いやこれなのか?

予想を上回るにぎやかさだった。そもそもこのワインが、ボジョレーのなかでも、ルイ・ジャド社が選んだ優れた畑のブドウを使ったちょっと特別な作品だけあって、酸味やタンニン、甘みや香ばしさが複雑にバランスをとる業物だ。単体でも非常に美味しい。そこに、ぎんなんの個性がこれでもかとやってくる。両者は、ぶつかり合わない。互いが互いを尊重し、ワインとぎんなん、両方の個性が口中で鼻腔で広がる。大騒ぎだ!

比較しようと先のルガーナも引っ張り出してくると、今度は、ルガーナ、ボジョレー、ぎんなんと、3者が組み合わさって、それはそれでストーリー性が感じられ、さらにわからなくなる。

こうかああかと試すうち、食べすぎには気をつけるように、と言われていたぎんなんを、だいぶ食べてしまった。

それに比例して、ワインもだいぶ減っていた。木村氏からの挑戦状に対して、これだ、という正解は出ていないような気もするけれど、正解が見つからなくても、いいんじゃないかとおもえてきた。美味しいワインを堪能して、ぎんなんも美味しい、気分のよい週末の夜を迎えられたのだから……

この記事を書いた人

ムッシュ鈴木
ムッシュ鈴木
東京生まれ。信州人になりたいとおもっている。パリ大学でフランス文学の研究をしていた。果物の仕事をしてから、ワイン業界へ。

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