創業1880(明治13)年を誇る浅草の老舗「すき焼 ちんや」は「適サシ肉宣言」中!  それって、一体どういうことなのか?  「適サシ肉」(商標登録出願中)ということばをつくった六代目の住吉史彦さんにインタビューした。

「適サシ肉」宣言!

昭和50年代に回帰せよ

いま、「適サシ肉」というワードが話題になっています。住吉さん発案とうかがいました。

表現はオリジナルですが、考え方としては、まともな肉屋さんがここ10年くらいずっと言っていたわけです。ようは、霜降りの基準が昔とは全然違ってきたんですよ。脂肪の等級は量によって分類され、A5が最上級とされますが、肉市場の古株に言わせると、脂肪の量は「30年前の倍」。ときにはお客に嫌がられるほどのレベルになってしまったのです。

そこで、昭和50年ごろに霜降りとされていた肉へ回帰しようと。級としては4等級になる脂肪量ですが、サシは細かく入り、脂の質も高い肉を選ぶ。それを「適サシ肉」と名づけて、「適サシ肉宣言」を出したのです。

そしたら、「業界激震」「爆弾発言」「問題提起をした」とマスコミから言われましたけど、僕のやったことは店と客の間のコミュニケーションだけなんです。「こういうお肉を出します」と宣言して、A5肉が召し上がりたい方は他へ行っていただく。A5を否定したわけではありません。とはいえ、A5であることと、おいしいことは違うんですよね。

牛肉のおいしさのポイントとは?

脂の量ではなく、質の問題。質が落ちてきた原因はハッキリしている。短期肥育のせいです。質の低下は1980年代から始まり、今世紀に入って加速しています。

BSEや口蹄疫の問題があって、ウマイ・マズイよりも安全・安心・トレーサビリティが大事という流れになり、とにかく大打撃から立ち直るために「なんとかすぐにお金がとれる畜産にしなければ」という話になって、それまで重視されていた「30カ月以上肥育しないと美味しくないよね」という常識が軽視されるようになりました。出荷するまでの月齢がどんどん下がると、畜産の回転率が上がるんですね。

コストダウンになると。

そうです。でも、短期肥育だと成長ホルモンが出ている間に脂を付けさせることになって、そうすると脂の質が固くなり、不飽和脂肪酸が増える。肉の業界では、本来「熟女」のほうがいいと言われます。メスのほうがもともとオスより脂の融け方がよいので。でも「女子高生」はまだ脂が固い。もっと胃がもたれるのは、「相撲部の男子」です。

現在、注目している産地はありますか?

どの産地の牛も血統が似てきたり、個性がある産地では逆に近親交配をやり過ぎたり……。昔は産地ごとに個性があったんですが、みんなが同じ目標で突き進み過ぎてしまった。

産地ごと、県ごとに「去年よりA5の出現率が上がった。いぇーい!」「あの県、すげぇ!」と追っかけあうだけ。地方は、とにかくブランド化したがりますよね。「有名=ブランド」と勘違いし、むちゃくちゃなマーケティングをしながら広告の予算をつけ、産地をアピールするCMを作ってしまうところも多々ありました。CMでは青い空、緑の大地でさわやかなイメージなのに、実際売っているのは、ただただ脂っこい肉という乖離(苦笑)。

でも、ブランドのベースは「あそこの肉はおいしい」という信用でしょ。われわれ側からすると、それはお約束というものです。

今回の「適サシ肉」も、意味としては「こういう肉だけをお出しします」という世間に対してのお約束。そこを信用してもらって来ていただくのが、ブランドのベースです。

となると、産地についても有名かそうでないかではなく、生産者それぞれ個別の考えに尽きるんです。結果、昔ながらの作りをしている人の和牛がいい。

昔ながらの生産方法を守っている方もいらっしゃるのですね。

変な人が多いですけど(笑)。普通とは違ったことをしているわけだから。今後は、産地ごとに「わが県は、こんな風に育てています」と違う牛を作ればいいと思いますが。

商標「適サシ肉」出願中
すき焼き「ちんや」は本年2月6日、特許庁に商標「適サシ肉」を出願。「適サシ肉」とは「適度な霜降肉」のことで、サシの入り方が過剰でないことを指す。具体的な条件として、1.黒毛和牛のメスであること。2.脂肪の量が、日本食肉格付協会による牛枝肉取引規格で「4等級」であること。3.充分な月齢(30カ月)まで牛を肥育することにより、脂肪の融け方が良いこと(=脂肪の融点が低いこと)。4.サシの形状が「粗ザシ」ではなく「小ザシ」(=サシの入り方が細かい)であること。5.加熱した場合に、サシと赤身の境界線から「和牛香」を発生させることなど。「ちんや」は今後、A5は出さないという。



カベルネよりメルロ

「ちんや」のすき焼きに合わせるべきワインを教えてください。

夜だと一人あたり1万円超の予算となるすき焼きだが、地下のカウンターレストラン「ちんや亭」には「ちょい食べ」(2,500円)がある。話題の「適サシ肉」、ぜひ挑戦したい(※写真はイメージです)。

すき焼きは、甘くて辛くて旨みがある。3つとも強烈。味わいの五角形をすべて埋めていく理屈でいくと、あとは酸や渋味をワインで補い、デカい五角形にすればいい。

肉の持っている旨みはアミノ酸で、アミノ酸とワインはぶつかる関係性ではない。

だから、単純に酸やタンニンが多いワインを合わせて実食してみる……んですが、タンニンが重すぎてもつまんない。そして、何が面倒くさいって、酸と脂の関係性です。

ビールや日本酒ならだいたい合うのにねぇ。

赤身よりも脂の部分にワインを合わせるのが難しい?

そんな感じがしてる。そんなに脂を喰わない西洋料理とくらべ、日本のすき焼きはガンガンの脂。アミノ酸も相当いっぱい含まれている。

ただし、動物性とはいえ脂に含まれているオレイン酸はオリーブオイルにもあるわけですし、手前どもの扱う肉に限れば、飽和脂肪酸の多い世間一般の肉よりも脂の融点は低い。いわゆるワインと料理の方程式とは微妙に違ってくるんです。

最近は、「五角形がデカくなりすぎるのも、そんなによくないのかな、それよりアルコールで流したほうがいいのかな」という気持ちも出てきて……。

まあ、普通の赤ワインであれば、全然合わないというほどではないんですけどね。

赤と泡を並べる?

呑んべいの発想ですが、赤とスパークリングを2種類並べておく手もありますよ。すき焼きの合間に重い赤を飲んで、重いなと思ったら泡を飲めばいい(笑)。

最近は、近所の酒屋さんと相談しながらマッチングの研究を続けています。

基本は品種別に探していて、体感的には意外とカベルネよりメルロがよかった。でもワイン好きの人って、マッチングが外れるのもまた面白いんでしょ。「ちんや」では10mlにつき10円の持ち込み料でワインをご持参いただけますが、みなさん「合わねぇな~」と楽しそうにやってますよ(笑)。



すき焼 ちんや
住所:東京都台東区浅草1-3-4
営業時間:月、木、金曜 12:00~15:00、16:30~21:30
水曜 16:30~21:30
土曜 11:30~21:30
日曜・祝日 11:30~21:00
(土曜・日曜・祝日は休憩なし)
火曜定休(祝日、祝前日は臨時営業)
電話番号:03-3841-0010(代)
www.chinya.co.jp

この記事を書いた人

WINE-WHAT!? 編集部
WINE-WHAT!? 編集部
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