未知なる羊との出会いを、アイスランドで

アイスランドラム✕ワイン+シングルモルトウイスキー

9月に集められた羊たち。タグと耳の切れ込みが農家ごとにちがい、これにしたがって各農家ごとに仕分けされ、生まれた農家まで歩いて帰る

Roaming Free, Since 874

アイスランドの羊は歴史をたどれば西暦874年に遡るという。それはノルウェーから最初の入植者がやってきたとされる年でもあって、羊はそのとき、アイスランドの地を踏んで以来、その肉も毛も、人の暮らしに欠かすことができない。最近こそ、地熱やビニールハウスといったテクノロジーの利用によって野菜、果物も多少は生産できるアイスランドではあるけれど、この地に人の食料はほとんど育たない。自生する草を、あるいは生やすことのできる草を食べて、人の食べられる肉にしてくれる羊を育てるというのは、アイスランドの人間の生死を左右する農業といっても過言ではない。

1000年を越える年月を雑交なし、純血を保ったままで過ごしたアイスランドの羊は、2,000軒の羊農家(すべて家族経営だ)によって飼われている。そして、この農業を存続させるために、羊農家の協会も存在している。

協会の活動は徹底している。アイスランドにもぐりの羊農家はない。なぜなら、現在、アイスランドの羊はすべてが固有の番号をもっていて、どう生まれたか、色、筋肉の量、血統、どこで暮らし、どうやって羊毛に、食肉になったのかまで、すべて管理されているからだ。農家によっては50年前まで辿れるという、この完璧なトレーサビリティのおかげで、不明な羊はマーケットに参入できない。

羊たちの血統書。羊は7-8月にわたって年に1、2頭の仔羊をうむ。農家は羊の世話のほか、羊の餌となる草のために、土壌や芝生を整える

天候が安定せず、雨もおおいアイスランドでは、仔羊たちが最初にたべる芝生をこのように整えるのは農家にとってもっとも神経を使う仕事のひとつ

遺伝子組み換えの飼料、除草剤、殺虫剤は使用禁止。抗生物質の使用は、羊が病気にかかり、しかもそれが伝染性のものであるなど、産業にとって喫緊の場合のみ。世界でもっとも安全な肉のひとつであり、動物愛護の観点からいっても、アイスランドはノルウェーとならんで世界トップ。たとえば、羊を去勢する、というときには麻酔をかけるとかいった、細かなルールもそれをあらわしているのだけれど、そもそも育ちからしてちがう。

アイスランドで羊は5月に、羊農家の羊小屋でうまれる。その後、数日を親とともに過ごして、この時に、前述の番号が与えられる。その後、羊たちは屋外に出て、歩きまわって草を食み、9月に農家によって、再び集められるまで自由に暮らす。9月には、約55万頭が屠殺され、3万頭程度が繁殖用に残って冬を羊小屋で過ごす。

驚くべきは、育つ期間の短さだ。我々の馴染み深いオーストラリアやニュージーランドの羊は、だいたい、12カ月まで育てて屠殺する。ところが、アイスランドの羊はたった4-5カ月でおなじくらいに大きく育つというのだ。

これを可能にしているのが、アイスランドの生命の希薄さと大地のエネルギー。羊を遮るもの、脅かすものは何もない。広大なアイスランドを自由に動き回り、草の新芽を中心に、栄養価が高く、おいしい草花だけを自分で選んで食べる。行きたくないところに行く必要も、食べたくないものを無理やり食べる必要もない。春は温暖な平地、夏にむけて徐々に冷涼な山へと場所をうつせば、季節のうつろいとともに、つねに、おいしい草花にありつけるのだ。

自生する草花は、人間にとってはハーブティーの材料になる場合もある

この絵に描いた餅のように理想的な環境を維持してゆくこと、あるいは、発展させていくことが、協会の目標だ。

「問題があるとすれば……」と協会のスヴァーヴァ・ハルドーソンはいう「このアイスランドの優れた羊農業が、知られていないことです。我々にとってはあまりに身近で、海外にとってはあまりに遠くて」

訪問客の爆発的な増加にもかかわらず、アイスランドラムの消費量は増えなかった。2015年、国内外向けにマーケティングプログラムを開始すると初年度で5.2%の消費量増を記録した。2017年は10%増は確実。まだまだ伸ばせる余地があるとみている。

「フランスのワインやチーズ、イタリアのハム。アイスランドラムはそういった世界的に知られる食品に勝るとも劣らない、歴史と文化、そして高い品質があります。これを知ってもらいたい。国際的な認証をいま、申請中です」

ほとんどの認証において獲得の必要条件は、とうの昔にクリアしている。あとは書類を揃え、承認を待つこと。そして、仕向国各国の要請にあわせた出荷体制を整えること。攻略すべきマーケットとして名前があがっているのは、アメリカ東海岸、ドイツ、フランス、そして日本だ。

というわけで、WINE-WHAT!?は、アイスランドへと招聘されたのであった。

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