未知なる羊との出会いを、アイスランドで

アイスランドラム✕ワイン+シングルモルトウイスキー

羊の群れは一度、写真奥の人だかりがある中央の広場に集められて、仕分けられ、中央から放射状にひろがる区画に移動。揃ったところで、生まれた農家へと帰る

Taste of ICELAND

9月14日にアイスランドに到着したのには理由がある。野山を自由に歩き回っていた羊は9月に農家によって集められるといったけれど、実はアイスランドの人々は、8日前に馬にのって野山にでて、羊を追って、9日目の9月15日、羊を一箇所に集めていたのだ。たった9日で、2,000軒の農家が仔羊だけでも60万頭いる羊を集める。いや、年によって、地域によって、数日のズレはあるのだけれど、逆に言えば、この数百年間、広大なアイスランドにおいて、その日は、数日のズレしかない。

日本的に言えば稲刈りに近いのかもしれないけれど、その日はお祭りで、地域、そして平素はレイキャヴィークに暮らす一族郎党も総出で羊にかまける。現地においてはリエッティルと呼ぶ。

起伏にとみ、遮るもののない大地を、何10kmも移動する場合もある羊。今も昔も馬で追う

生まれた農家へと帰る羊たち。羊がどくまで、当然、クルマは走れない

リエッティルの定番の食事は羊の肉で出汁をとったスープだ。加える野菜(おもに根菜だ)や味付けに、地域ごと、担当シェフ(名のあるフレンチレストランのシェフまでもが、羊毛のセーターを着て地元に帰り、数日前から仕込んでいるスープをふるまう)ごとの差はあるのだけれど、総じて、味はアメリカのチキンスープに近い。寒い地域だから、ということもあるのだろう、アイスランド人は酒好きで、一段落ついてスープとともに楽しみにしているのは、酒である。自国の酒は少ないけれど、あらゆる酒を愛するアイスランド人は、リエッティルの日の午後は、すっかり出来上がっている。

スープをふるまっているのは、普段、レイキャヴィークでフランス料理店を営むシェフ

リエッティルの日は、羊小屋が宴会場となる。9月でも寒く、羊毛のセーターは欠かせない

では、アイスランドラムと酒の相性は? まずは、簡単にアイスランドの食事情を紹介したい。

アイスランドはいま、グローバリズムに直面しているといったけれど、食についてもまさにそうで、ヨーロッパで腕を磨いたシェフたちは、故郷の名産、ラムの美点を引き出した料理を提案している。その根本にあるのが、極力、肉を熱さないという考えだ。

火を加えれば固くなり、匂いも強くなる。これを嫌ってアイスランドでは低温調理がそもそも伝統で、週末は65℃以下のオーブンで何時間もかけて火を入れたローストのラムを食べる。

生後4-5カ月で食肉となること、完全なグラスフェッドであることから、アイスランドラムは生肉に鼻を近づけてもほぼ無臭。牛やマグロにも通じる新鮮な赤身肉だ。なめらかなテクスチャーは、口のなかで少し甘みがあり、若草のような香りを感じさせる。これを最大限引き出そうというのである。現代では、香味野菜やキノコをそえた、生の、あるいはわずかに火を入れたラム料理をタタキ、と日本語でいうこともある。

週末の定番料理は左のモモ肉のロースト。根菜とともに熱を入れ、ハーブと塩コショウで味付けする。右はアイスランド最高のアイスランド料理店といわれる「VOX」の料理だけれど、発想は同様

部位は背肉が一番上質で、そこに肩ロースが次ぐけれど、脚の肉でも多少、筋がはいるくらいで充分に美味しく、農家ではこれを食べるのが一般的。特に、何カ月もかけてバーチのチップでスモークしたモモ肉のハムは、濃厚な塩気とクセのない上品なラム肉の味が絶品で、現地ではクリスマスのご馳走である。

ところが荒くれ者を祖先に持ち、寒い地域でたくましく暮らすアイスランド人の気質ゆえか、どこにいってもワインをはじめ、酒が食とあまり合っていない。総じてアルコールも味も力強い酒が合わせられ、羊肉の繊細さに勝ってしまう。

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