粉チーズといわれて、おもいつくチーズの原型はイタリア、エミリア・ロマーニャ州にあり。エミリア・ロマーニャを代表する食品、パルミジャーノ・レッジャーノがそれだ。身近ゆえに、あまり知らなかった、この料理の名脇役について、WINE-WHAT!?はパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会 会長、ニコラ・ベルティネッリ氏から話を聞く機会を得た。
パルミジャーノ・レッジャーノ ミッレジマート

こちらが、今回、お話を聞いたニコラ・ベルティネッリ氏が手がけるパルミジャーノ・レッジャーノ「ミッレジマート」をカットしたもの。輸入されるときは40kgほどの重量になるホール状態です

イタリアチーズの王様

イタリア共和国の北東部にあり、州都はボローニャ。それがエミリア・ロマーニャ州。モデナ、パルマ、リミニ、ラヴェンナ、フェラーラ、ファエンツァと、ボローニャ以外にも大きな都市が存在し、イタリアのなかで、経済的にも文化的にも豊かな地域だ。

豊かさは世界的に知られるプロダクトの多さからも伺い知れる。例を挙げよう。バルサミコ酢、生ハムのパルマハムことプロシュット・ディ・パルマ、ボローニャソーセージとよばれるモルタデッラ、それからミートソースの原点、ボロネーゼはエミリア・ロマーニャ州出身。クルマはフェラーリにランボルギーニ、マセラティ、パガーニと世界最高のラグジュアリースポーツカーブランドが軒を連ねる。バイクも含めるならドゥカティもはいる。ワインはランブルスコ種から造る微発泡の赤ワイン、ランブルスコが有名。

これら世界から愛される産物、ブランドのなかでも、エミリア・ロマーニャの代表としてまっさきに名が挙がるのが、パルメザンチーズ。いや、その本家本元たる、パルミジャーノ・レッジャーノだ。

そこを間違えてはいけない。パルメザンチーズとは、パルミジャーノ・レッジャーノ風のチーズのことも含み、本物はパルミジャーノ・レッジャーノである、というのが、今回、WINE-WHAT!?が聞いた、パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会の会長、ニコラ・ベルティネッリさんの話の第一のポイントだったのだから。

ベルティネッリ社ニコラ・ベルティネッリ

パルミジャーノ・レッジャーノの生産会社 ベルティネッリ社社長にして、パルミジャーノ・レッジャーノ・チーズ協会の会長もつとめるニコラ・ベルティネッリ氏。パルミジャーノ・レッジャーノの伝統を守り、その特性をさらに先鋭化させた「ミッレジマート」を生み出した

その話を聞いたのは、8月の、台風が東京を直撃すると騒がれた夜のことだった。東京、神楽坂は、まさに嵐の前の静けさのなかにあったけれど、イタリア料理店「リストランテ・ステファノ」は貸し切りにて満席の賑わい。塩を中心に、世界のさまざまな食品を輸入するジャパンソルト株式会社は、この日、ここに同社が輸入するパスタ、米、ワイン、バルサミコ酢といった、エミリア・ロマーニャの食材を持ち込んだ。ニコラ・ベルティネッリさんが社長をつとめるパルミジャーノ・レッジャーノの生産会社、ベルティネッリ社のパルミジャーノ・レッジャーノのなかでもフラッグシップ「ミッレジマート」(24ヶ月熟成)とのペアリングメニューの材料として。そして、「リストランテ・ステファノ」のオーナーシェフ、ファストロ・ステファノ氏が料理の腕を振るった。料理はパルミジャーノ・レッジャーノづくしだった。

まず、テーブルに置かれたのは、今回の主役、パルミジャーノ・レッジャーノ、ミレッジマート(24ヶ月熟成)を切り分けたもの。かなり大きなブロックだ。ハードチーズながらにほどよくしっとりとした食感、口の中ではらはらとほぐれると、味も香りも、慎ましやかで、なんとも上品だ。

ベルティネッリ社のミッレジマート

原料は、牛の乳。前日に搾った牛乳を一晩置いてクリームが浮いてきたら、これを取り除いたものと、その日の朝に搾った牛乳を混合したものを用いる、というのがパルミジャーノ・レッジャーノの基本的な造り方だそうで、チーズがクリームっぽくないのには、こんなところにも理由がある。乳脂肪分が少ないのだ。

牛乳は酪農家から仕入れたものをチーズメーカーがチーズにするのが一般的。エミリア・ロマーニャ州では329のチーズメーカーと2,000を超える酪農家がいるそうだ。ワインでいえば、ブドウの栽培家とワイナリーみたいな関係だから、イメージ的にはシャンパーニュなどと近いのかもしれない。

しかし、シャンパーニュにも自社畑をもつシャンパーニュ・メゾンがあるように、329のチーズメーカーのうち、3社だけ、自社畑をもち、酪農からチーズメイキングまでを一貫して手がけるシャトーみたいな会社がある。1895年創業、家族経営のベルティネッリ社は、この分類でいくと、現在はシャトーにあたる。

そして、ベルティネッリ社をシャトー化したのが、ニコラ・ベルティネッリさんなのだ。かれは、ワインメーカーがブドウを細かく分類するように、仔牛を生んでからの日数に応じて母牛の乳を分類し、もっとも優れた、仔牛を生んでから100日までの母牛の乳のみをつかう、ミッレジマートという、同社の最高峰ブランドを生み出した。

フレーバーバター入りパルミジャーノ・レッジャーノチーズのリゾット
リゾットを仕上げるファストロ・ ステファノ氏

ミッレジマートを使った贅沢なリゾット。バルサミコ酢を少したらすとまた美味

チーズ造りでは、昔ながらの製法が用いられている。もちろん、中世そのままの道具や作業方法ではなく、現代化されているとはいえ、パルミジャーノ・レッジャーノのチーズ造りの基本は何百年も前から変わらない。「パルミジャーノ・レッジャーノはグローバリゼーションのなかでも競争に参加するのではなく、品質、独自性を守り、研ぎ澄ますことで価値ある存在として今日もある」

同地のチーズ造りは、地元の食糧事情や経済状態の改善と向上を図る修道院に原点があって、13世紀から14世紀ごろには、ほとんど現在とおなじようなパルミジャーノ・レッジャーノが完成していたようだ。農耕や荷運びの用途もあって飼われていた牛のミルクを保存する技術としてチーズ造りがなされ、製造には、牛の食べる牧草に起源がある特殊な菌が重要な役割を果たした。この菌は、修道院にも自然に存在していたそうだ。パルミジャーノ・レッジャーノの根幹は、シンプルかつ土着的なもので、そのアイデンティティは今日まで変わらず受け継がれている。

保存食としての性能は優秀だ。熟成は基本的には18ヶ月から36ヶ月だけれど、やり方によっては5年以上の熟成も可能だという。

ニコラ・ベルティネッリさんによると、100グラムのパルミジャーノ・レッジャーノは同量の牛肉と同等のタンパク質を含む。しかも、消化吸収の効率でいえば牛肉に勝る。

12ヶ月程度の熟成でパルミジャーノ・レッジャーノの原料たる牛乳のタンパク質は分解しはじめる。分解するほど、人間にとっては消化吸収が容易になる。24ヶ月も経つと、パルミジャーノ・レッジャーノのタンパク質は非常によく分解された状態になり、「牛肉であれば、食後、分解に4時間は時間がかかる。しかしパルミジャーノ・レッジャーノは食後45分で、すでに血中にタンパク質がめぐっている状態になる。体への負担が少ないから、赤ちゃんでも食べられるし、アスリートをはじめ、すばやく栄養補給をしたい人にとっては理想的だ。そしてなにより、美味しい」

ニコラ・ベルティネッリさんは誇らしげに微笑んだ。

さて、食べ方だけれど、いわゆる粉チーズの原点である。料理のアドオンとしての優秀さはいまさら論を待つまい。エミリア・ロマーニャの特産品であるバルサミコ酢との相性も良い。そのまま食べてもいい。デザートにも使える。

ヴェスヴィオ

Gentile社のヴェスヴィオという、山のような形をしたパスタ。生ハムとズッキーニのクリームソース、パルミジャーノ・レッジャーノのクリスピーのせ

パルミジャーノ・レッジャーノ ドルチェ

デザートはパルミジャーノ・レッジャーノが入ったジェラートとバルサミコ酢。パイはオレンジ風味でさっぱりと

「アンティパスト、メイン、ドルチェ。どんなふうにも使えます。あとはみなさんのイマジネーション次第です」

歴史をいまにつたえるナチュラルでオリジナルな産物。なんともイタリアらしいではないか。個人的にはすでにそこに強い魅力を感じる。

この記事を書いた人

WINE-WHAT!? 編集部
WINE-WHAT!? 編集部
「なんでこんなにうまいんだ!」


「フランスやイタリアの真似をして、たんにコピーをつくったところで尊敬は得られない。自然とどう関わるか」


「ワインも生きている。ブドウも土も、どれも」


「大事なのはひとの問題なんです」


「マニフィーク」



日本のワイン界のレジェンド、麻井宇介と彼の意志を継いだ若者たちの物語
10月20日公開 映画「ウスケボーイズ」より