南アフリカの黒人女性としてはじめて「アスリナ」というブランドを立ち上げた醸造家、ヌツィキ・ビエラさん。彼女のワインと東京 日本橋室町のワインレストラン「ドミナス」の料理がセットになったお取り寄せセットが販売中だ。今回、WINE WHATはこれを試す機会に恵まれた。

今回のセットの詳細は以下から。
https://aslina.co.jp/2020/07/aslina-dominus/

今回のセット。販売価格は9,000円。税込・全国送料無料

ブルゴーニュをおもわせる上質なシャルドネ

南アフリカの黒人女性ではじめて、自らのブランドをもったワイン醸造家、ヌツィキ・ビエラさんに会ったのはもう1年ほど前のことだ。筆者の率直な感想は、黒人女性醸造家という彼女の社会的重要性がなくとも、彼女のワインは優れている、というものだった。

彼女がヌツィキ・ビエラさん

話題性とワインへの高い評価で、一気にスターとなったものの、ワイナリーを運営していく、という意味では彼女もまだまだこれから。日本市場にも登場したばかり。そんな彼女のワインを、日本橋室町のワインレストラン「ドミナス」の料理とセットにしたて宅配してくれる商品が登場している。プロの料理人が食を合わせたら、彼女のワインはどんな表情を見せるのだろう?

単一品種で造られた「ソーヴィニヨン・ブラン」、「シャルドネ」、「カベルネ・ソーヴィニヨン」、そしてカベルネ・ソーヴィニヨンを主体にカベルネ・フラン、プティ・ヴェルドをブレンドしたボルドースタイルの「ウムササネ」。このアスリナのすべてのワインとのペアリングコースが用意されている。今回、筆者が体験したのはシャルドネのセット。

しっかり冷蔵便で送られてきたパッケージをあけると、このような形で、ワインの説明と料理の説明が記載された紙とともに、ワインと食材が入っている。

パッケージから出すとこのような内容。これで2人分。

まず、ワインを試す。10℃よりも少し低めの温度から飲み始めてみると、決してトゲトゲしくはないけれど、はっきりとした酸味を感じる。全体の印象はとてもさっぱりしている。その後、口の中で、ワインがほどけるように、よく熟した果実の濃厚さが広がる。全体の44%を10ヶ月間樽発酵・熟成させている、というのだけれど、ダイレクトに樽の印象はほとんど感じない。2017年ヴィンテージのせいもあるかもしれないけれど、ワインに溶け込んでいるのだろう。アルコール度数は13%と、白ワインとしては標準的で、温度が高くなっていっても、さっぱりとした印象が基調だ。ここに、低い温度では目立たなかった、甘み、旨味、まろやかな口当たり、果実のふくよかさがよりあらわれてくる。

他のワインに例えるなら、ブルゴーニュ地方のマコンなど南の方の白ワインのイメージ。これならば、およそどんな食事にも合うだろう。マコンでいえば、シンプルな味付けの根菜に白身魚、といったところだろうか? ちょっと臭みのあるような魚でもいいだろう。

今回の料理もそんな感じかな? とパッケージをあけて、前菜から試してみた。

和風な前菜

アミューズとオードブル。トマトは筆者によるつけあわせです。

最初はスモークされたうずらの卵である。袋のまま、お湯で温める。シャルドネで作った「八方だし」で煮込んで、桜でスモークしているとのこと。かなりしっかりと味が染み込んでいて、スモークの香りもはっきりしているので、やさしくまろやかなワインの骨格をぐっとはっきりさせる。初手から力強い。

続いて「ノルウェー産サーモンのスモークと人参のリエット」。こちらはクラッカーに乗せて食べてみた。人参の甘みがあり、サーモンは控え目に旨味を添える。サーモンの臭みはうまくワインが中和してくれる。お互いのよいところを引き出しながら、ワインと食事が組み合わさることで完成するペアリングだ。

うずらの卵のシャルドネ八方地煮込み・スモーク
シャルドネで作った八方地で煮込んで、桜のウッドでスモーク。ワインの樽香の後味とスモークの余韻の相乗効果を狙っているとのこと。位置づけはアミューズ・ブーシュ。

ノルウェー産サーモンのスモークと人参のリエット
クラッカーは筆者が用意したもの。メルバトースト、サラダのトッピングでもオススメとのこと。卵のスモークの次は、魚介のスモークとの相性の違いを楽しんで欲しいという。

いきなりワインのキャラクターを2方向からみせてくれる展開で、なるほど、と感心する。とはいえ、ここでガブガブ飲んでしまうわけにもいかないので、「金華サバの自家製シャルドネビネガー」と「真鯛のスモーク焼き 霜降りのカルパッチョ 自家製シャルドネビネガーのドレッシング」に移る。

金華サバの自家製シャルドネビネガーじめ
塩とオリーブオイルで味付けをした。わさび醤油でしめ鯖として食べてもよい、とのこと。脂の乗った金華サバがワインのクリーミーさを引き立てる、という狙いで用意されているという。

真鯛のスモーク焼き 霜降りのカルパッチョ 自家製シャルドネビネガーのドレッシング
昆布締め後マリネをして桜のウッドでコールドスモーク、ガーリックごまオイルをナッペして、皮目のみバーナーで炙っている。自家製シャルドネビネガーのドレッシングと、マンチャンティのエキストラヴァージンオリーブオイルで味付けしている、という手の込んだ仕事。

いずれも、袋から出してそのまま食べられるカルパッチョなのだけれど、サバはややスモーキーなしめ鯖、という印象。これはやや、サバは高めの温度でサバの脂の旨味を引き出し、ワインは低めの温度でサバの臭み消すような方向性で合わせてみると、いいペアリングとなる印象。一方、真鯛のほうは、かなり手の込んだ仕事がなされているのだけれど、食べた感想は、まさに鯛。鯛の美味しさを引き出している。うまい刺身とうまいシャルドネ。旨味に旨味、だ。

パスタ、メインとつづき、満足感は高い

さて、ここまでが前菜。もう、これだけで、結構な満足感があるけれど、この次はパスタ。温かくても、冷製でもよい、ということなので、夏っぽく冷製でつくってみた。つくるといっても、麺をゆで、パッケージに入ったジェノベーゼソースとあえるだけ、なのだけれど。

ジェノベーゼソース&ルスティケーラ ペペロンチーノ トンナレッリ
トンナレッリはスパゲティとスパゲッティーニの間の約1.85mmの太さ。シャルドネのストラクチャーを強くする、という狙いで、唐辛子を練り込んだパスタを選んでいるとのこと。

このパスタには、唐辛子が練り込んである。唐辛子はあまりワインと合わせないような印象だったのだけれど、ジェノベーゼソースのおかげか、このパスタの特性ゆえか、辛く感じるのは、食べた後。ゆえに、麺とソース、そしてワインのペアリングが過ぎたあとに、ぴりっと辛味がやってくる。これなら、唐辛子の辛味とワインが両立する。後味の辛さは次の一口で中和される。後を引く。

最後にメイン。「米澤豚もも肉のコールドスモークアイススパイン」。これも説明をみれば複雑な調理がなされているのだけれど、ほろほろの豚肉がさっぱりしていて、とてもシンプルな豚肉料理と感じる。あとから複雑な味わいが広がるワインの印象と近く、この料理は、よく味わって、ワインとあわせることで、豚肉の味が広がってくる。さっぱり食べてもいいし、ゆっくり味わってもいい。

米澤豚もも肉のコールドスモークアイススパイン
袋ごとお湯に入れて温めるだけ。塩漬け熟成後、コールドスモークし、4分の1に煮詰めたシャルドネで66℃、32時間以上真空調理。その後、脂を焼いて風味を上げたという料理。フライドポテトや温野菜を付け合わせてもよいとのこと。

パッケージを開けたときは「これで2人分はちょっと少なくないかな」とおもったのだけれど、結果、おなかいっぱい。夕飯に十分な満足感だった。

ここしばらく、新型コロナウイルスの影響もあって、すっかり、プロの料理人による技を体験する機会が減ってしまったことを痛感した。

プロなら、リモートでも、一本のワインからこれだけ、色々な表情を引き出し、さまざまな食を体験させてくれる。時には挑みかかるようにアグレッシブ、時には手を携えて世界観を広げる。意外性、発見の驚きが嬉しい。アスリナのワインは見事にまとまっているので、ちょっと優等生的すぎる印象もある。造り手、ヌツィキ・ビエラさんは、こんな刺激的な料理との組み合わせをどう評価するだろう。議論好きの彼女にまた会えたら、聞いてみたい。