アームチェア〝ワイン〟トラベラー Vol.9

少女のようだけど、激しい熱情を持っているのは誰?

1087-1

ヴァシュランモンドールでエロくなる

赤である。二度目の赤である。

ブルゴーニュタイプより、スクッと肩がなで肩になったスマートな瓶から、赤紫色の液体が流れ出た。

冷やしておかなくてよかった。いや、暖房をつけてない室内に置いてあったので、同じことか。ワイングラスに注いだワインは、少しひんやりとして、香りも味わいもまだ眠っているようだった。
だが、すうっと滑らかに舌に入り込んできた液体が、喉に落ちかかる刹那、ヒリっと赤ワインの凛々しさが顔を出す。ほのかな苦味をともなったぶどうの豊かさが、膨らんで消える。

とりあえず用意した熟成パルミジャーノと合わせてみた。ううむ、なにも変わらない。動きがない。

チーズはチーズ、ワインはワインと別の道を歩いている。では今度はヴァシュランモンドールではどうだろう。

チーズを口に含み、そっとワインを飲んで、噛んでみる。おお、エロくなったではないか。

しかも色気を帯びたのはチーズではない、ワインの方である。風船が破裂するように、隠し持っていた艶が口の中で破裂した。

面白い。パルミジャーノではよそよそしかったワインが、こちらにしなだれ、媚を売っているではありませんか。

こりゃあ料理の作りがいがあると、ワイン片手にキッチンに立つ。作るのは鶏モモ肉のソテーである。

皮に穴あけ、塩をふってフライパンで焼く。油は引かずに皮面から弱い中火で焼いていく。

じわじわ滲み出る脂を拭い取りながら、皮に茶色の焦げ色がつくまで、じっくり我慢して焼いていく。片手に持つワインも、じっと出来上がりを期待しているに違いない。

皮面が焼けたら裏返し、1分ほど焼いてから休ませた。さあ味つけはどうしよう。

一計を案じ、余分な脂を捨て、少量の水と手元のワインを入れ、こびりついたうま味を剥がしながら、煮詰める。

そこにチキンブイヨンの素を少量入れ、最後に発酵バターを入れ、黒胡椒を多めに挽き入れる。鶏を切り、皿に盛って塩と粒黒胡椒、バジル風味のオリーブ脂を添えてみた。

鶏を一口、ワインを一口。ふふ、狙い通りだね。ワインが鶏皮の焦げた香りを凛々しくさせる。これがなんとも胃袋を掴むのだな。

次にオリーブオイルをつけた鶏とワインを合わせると、今度はバジルの爽やかな香りが広がった。こいつは、隠し持った香りを引き出してやる、健気な奴らしい。

次は即席赤ソースをからめてみる。合う。当然合う。ソースと鶏肉とワインが同化していくような感覚がある。

この記事を書いた人

マッキー牧元
マッキー牧元
立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スィーツから居酒屋まで、日々飲み食べ歩く。まさに、「食べるグルメマップ」。多くのアーティストの宣伝・制作の仕事のかたわら、1994年には、昭文社刊「山本益博の東京食べる地図」取材執筆、1995年には「味の手帖」に連載を開始するなど、食に関する様々な執筆活動を行う。現在も、「味の手帖」、「食楽」、「銀座百店」、「東京カレンダー」など、多数の雑誌やWebに連載中。日本テレビ「メレンゲの気持ち」、「ぐるぐるナインティナイン」などに出演。

Related Posts

PAGE TOP