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ニッポン鶏肉業界を、アマタケに聞きました

ひよこからサラダチキンまで

ひよこから加工品の開発、販売、さらに研究やマーケティングまで、一切合切を自社主導でおこなう稀有な鶏肉の総合メーカー「アマタケ」にブロイラーのことを聞きました。

年間500万羽。抗生物質一切なし

「外部の研究機関と共同で、どうしたらもっと美味しい鶏肉がつくれるか、多項目にわたるデータと、実際の試食を繰り返して、飼育の研究をつづけているんですが、アマタケは19年前から、抗生物質、合成抗菌剤など、飼料や水に入れる動物薬は一切使っていません。鶏は生まれてから
50日くらいで肉になりますから、短期間で効率よく大きくするために、餌の吸収を良くしたり、成長を促進したりする薬を使うのが普通。鶏肉の品質云々の前に、経験のない研究員さんですと、まずどうやったら薬を使わないで安定的に鶏を育てられるのかがわからないんですよ」

と、株式会社アマタケの執行役員、佐藤優氏は語る。年間500万羽の生産量は、鶏肉業界では決して大きいわけではないけれど、アマタケのように薬を使わずにそれをやる企業は日本には少ない。

創業は1964年。本社は岩手の大船渡市にある。32年前から「南部どり」の名前で売られているアマタケの鶏肉は、特別飼育国産銘柄鶏という分類になる。

「創業から54年間、ずっと鶏肉メーカーですが、同じ品種でやってきたわけではないです。54年前といえば日本でブロイラーをつくり始めたころ。アメリカから国策として種鶏と飼料用コーンなどが入ってきた。それでアマタケもやりはじめたんですが、最初はノウハウがまったくないから、飼育が難しくて。30日たっても、成長しなかったり、一夜あけたら、バタバタ死んでいるんだけれど、原因がわからない。そんな状況でした。鶏舎に寝泊まりするような状態で試行錯誤して、研究していったそうです」

短期間で成長するブロイラーは、種鶏のかけあわせで肉用の鶏として「高性能化」していった。日々、研究開発がすすみ、その血統は複雑かつグローバルだ。

我々が食べる鶏肉になるまでには、まず「基礎鶏」という、世界に何種類かいるらしい、という程度しかわからない企業秘密の塊のような鶏をかけあわせて「原原種鶏」をつくる。そして、「原原種鶏」をかけあわせて「原種鶏」、次にその「原種鶏」の子供の「種鶏」ときて、この「種鶏」の子供が肉鶏として市場に流通する。

アマタケは現在、アマタケセレクトの「原種鶏」を、フランスからひよこの状態で輸入し、岩手の隔離された農場で大切に育て、これをかけわせて生まれる「種鶏」のうちのオスと、日本の特定のブロイラーのメスをかけあわせることで、「南部どり」を生み出している。
 

種鶏場、孵化場、鶏を育てる農場、生鳥処理場、加熱加工場、営業と、それぞれの行程には専門家がいて、高度に分業化されているのがあたりまえの鶏肉業界で、アマタケのように、ひよこから加工、販売まで、全行程に関わる企業はない。

鶏舎と南部どり。鶏舎は床暖房完備!「うちの鶏舎は静かで清潔です。腸内環境がいいから、臭くない。人間とおなじです。鶏はそこで食っちゃ寝、食っちゃ寝して暮らしています。餌には納豆菌、乳酸菌、オリゴ糖、抗酸化物質などがとれるものを使っていて、ストレスもなく、健康で、体調がいい。わずか50 日程度ですが、飼料を与えるタイミングや期間、温度や湿度などの飼育環境で、旨味のもとであるグルタミン酸の量に差が出ます」右は南部どりの親、種鶏で、赤毛がオス。両親はフランス生まれ。白が日本の鶏。

サラダチキンのオリジネーター

なぜこのような企業になったかといえば、創業当初に、東京のスーパーマーケットで売る美味しい鶏肉をつくる、という理想があって、それを追求していった結果だ。いまも、売り先は小売店。小売店と消費者に買い続けてもらうことが、アマタケのすべてだ。

魚粉のような、鶏が本来食べないものを餌に入れたり、薬に頼れば、その味が肉にまざり、それで客が離れる。ブロイラーとしての生産効率は高いまま、雑味のない肉の鶏を育てるには、健康な鶏を育てるしかなかった。清潔で快適な鶏舎、抗酸化力や免疫力を高く保つ餌、50日という短い期間で旨味のピークがきて、かつ、流通にもちょうどよいサイズになるような鶏が必要だったし、家庭で調理されるまで品質を維持するには、肉になったあとも菌を増やさないよう、処理の段階で、菌が繁殖しやすい品温が40から50℃の温度帯から素早く2℃まで冷やす、設備の整った工場も必要だった。これらを自前で用意していった結果、あらゆる行程を自社で管理する「鶏メーカー」となった。

また、卸問屋に流さないため、特定の部位だけ売れない、という現象もリスクになる。特に鶏肉は、世界的には、モモよりムネのほうが需要がある。だからブロイラーはムネ肉がたくさんとれるような形をしている。いっぽう日本では、モモが圧倒的人気。ブロイラーの種鶏開発社は世界を相手にしているから、日本のマーケットのために、わざわざモモ肉が多くとれるブロイラーをつくってくれない。

これを解決するべく、30年前から鶏肉の加工食品も製造していて、ミートボール、ローストチキン、カツなど、なんでもつくった
結果、加熱加工品に関しても独自のノウハウがある。特に有名なのが「サラダチキン」。ライフスタイルの変化と調理法が知れ渡ったことで、ムネ肉は現在ブームだけれど、それとあわせて一気に人気が出た。元祖はアマタケだ。

アマタケサラダチキン

南部どりのほかにもアマタケのサラダチキンには種類があり、また、さまざまな味がある。プレーン味なら、食べる前に少し温める、サイコロ状にしてネギとおなじくらいのタイミングで鍋にいれる、溶けたチーズを組み合わせる、という食べ方もオススメだという

おいしい鶏とは?

「いまは安くておいしい食べ物が豊富にあるのに、鶏肉本来の味を隠すほど味をつけたり、臭みを消す調理をしたり、そこまでしてまで鶏肉を食べるというのは、私たちからするとナンセンスにおもえます。南部どりのファンはシニア層が多いのですが、食感も柔らかいほうがいいかといえば、それは実はちがって、適度な歯ごたえがあるほうがいいというデータも得ています」

もちろん、これは調理を否定するものではないけれど、「まずは、いい塩や柚子胡椒などシンプルな味付けで食べてみてほしいです。モモ肉なら、焼くとメイラード反応で旨味がぐっと増します」という。「胸肉は蒸して食べるのが美味しいですが、均一に、しっとりと加熱するのは家庭では難しいので、サラダチキンもオススメです」

アマタケの鶏肉は「南部どり」という焼鳥店と3月にオープンしたばかりの「肉菜(ニクサラダ)」という居酒屋でも味わえる。「肉菜(ニクサラダ)」にはワインもあるぞ!

お話をきいた、株式会社アマタケの執行役員 佐藤 優氏とマーケティング担当の巴 由紀子氏。おりからのムネ肉、サラダチキンブームで、新聞やテレビの取材が絶えず、対応にてんてこ舞い。東日本大震災での喪失とアマタケ再生をつづった書籍『ひと手間カンパニー。岩手の端っこで“ 南部どり” を育て続ける会社のはなし』(ダイヤモンド社)にも関わっている

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WINEWHAT
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