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ワインオーストラリアのセミナー「オールドスクール、ニュースクール、グッドスクール」その2

〜古典と最先端の比較で考察するオーストラリアワインのスタイルと品質〜

さる9月4日(月)、恒例の「オーストラリアワイン グランドテイスティング2017」で開かれたセミナー「オールドスクール、ニュースクール、グッドスクール その1」のつづきです。講師は、オーストラリアの売れっ子ワインジャーナリスト、マイク・ベニー氏と、日本在住日本人初のマスター・オブ・ワイン、大橋健一MW。いよいよテイスティングです。

 

第1フライト:リースリング

Crawford River Henty Riesling 2015
クロフォードリバー ヘンティ リースリング 2015

マイク「まず、クロフォードリバーのリースリング2015年が用意されています。もうひとつ告白があります。これらのワインを選ぶときに、本当に自分勝手に選びました。個人的に大好きで、好んで飲んでいるワインばかりです。これらのワインについて個人的な感情をどんどん挟んで話して行きたいと思います。

まずクロフォードは、ほかにはみられない独特の場所です。ある地域、ヘンティというワイン産地の地図にも載っているか載っていないかわからないぐらい産地で、カンガルーと羊以外は何もない、そんなところです。地平線まで茶色と緑しか見えません。ポツリポツリと林があって、そこに土着の木がある。羊牧場が広がるような田舎で、非常に冷涼な産地です。ヨーロッパの冷涼な産地と同じぐらいの気温帯です。

そんな場所で、オーストラリアで最も素晴らしいリースリングを作ろうと40年前にぶどうの木を植えたのがこのワイナリーです。このワインはオールドスクールとして選んでいますが、でありながらニュースクールで、いい形で融合しています。伝統的な方法、全房圧搾、フリーランジュースを使って、優しくつくられたワインです。シンプルにいいますと、オールドスクールとニュースクールのいいところをとってつくっている。このワインは醸造面を語るよりも、つくられている場所が重要です。好きなところは果実の凝縮度が高い、芯の強さがあるリースリングで、全体にエレガントなところです。オーストラリアでファインワインをつくれる文化の可能性を感じさせるワインです。

Ruggabellus ‘Sallio’ Eden Valley Riesling 2014
ラッガベラス「サリオ」イーデンバレー リースリング 2014

マイク「2番めのグラスは、ある意味、コップの外に出ているようなワインです。こちらは、リースリングが主体ですが、実は3分の1セミヨン、ほんのちょっとマスカットも入っています。お気づきの通り、オレンジワインです。この香りや風味、口に含んだ時の食感を感じてみてください。このワインをご紹介する理由もコンセプトにあります。

このワインのつくり手が若手であること、今のオーストラリアワインのトレンドをつくっている生産者、でありながら、その出身地は伝統的な産地です。今、スクリーンに映し出されている写真の男性、彼がエイブ・ギブソンです。彼はバロッサバレーで重要な人物ロブ・ギブソンの息子さんです。彼はエデンバレーのサブリージョン、フラックスマンバレーに小さな畑があります。ご近所のクリス・リングランドさんにいつでも電話で相談できるような場所です。クリス・リングランドというのはオーストラリアで有名な、パワフルで凝縮感のある、スケールの大きなワインのつくり手です。

エイブはいろんな影響を受けながら育ったんですが、バロッサバレーを独自のやり方で表現しようとしました。彼がつくる赤ワインはアルコールが低くて、フレッシュで果実味溢れるワインです。このオレンジワインは、多分、すごくアヴァンギャルドに映るかもしれませんが、実はたとえばジョージア(旧名グルジア)とか、伝統的な歴史ある産地のつくり方を反映しているんです。彼は若手ですので革新的なニュースクールに位置付けられるのですが、オールドスクールのアプローチでワインをつくっているんです。

もし今、60~70年前のワインづくりの歴史を遡ると、白ワインのスキンコンタクトをしてワインをつくるのはそんなに珍しいことではなかった。このワインほどではないかもしれませんが、ワインが安定するし、味わいに骨格が生まれる。時々思うですが、赤ワインはブドウの果皮からの影響を受けるのに、白ワインはそれがない。エイブはこのワインを非常に長いマセラシオン期間で醸造している。物によっては1年という長い期間もあります。それぞれ小さな仕込み容器で仕込んでいる。大きな樽もあれば小さな樽もある。樽だけではなく、セラミックのたまご型をしたものであったり、アンフォラであったり……小さな区画ごとのワインをブレンドする天才なのです。そうすることで彼の個性がワインに現れます。

私からは、以上です。ケンからもコメントをいただきたいと思います」

石田博ソムリエのコメント

大橋「これは、私から必ずリースリングは入れて欲しいと要望を出したフライトになります。実際に、先ほど、ずいぶん前のスライドでオーストラリアという国が非常に大きい、ヨーロッパが全部入っていますという図をみなさんに見ていただきましたが、リースリング自体も、我々にとっては有名なのはクレアバレーとか、今、すごくクールというか、寒いという意味も含めましてキャンベラのアランベートマンという小さな区画がありますけれども、ここのリースリングなんかも非常に人気があります。

そういう、我われが普通に知っているリースリングとは別のもので、 しかも最高品質のものをマイクは持ってきてしまっている。こういうことも、オーストラリアが最高品質のワインをつくっていることの証拠になると思います。今日は、皆様におかれましても、一所懸命オーストラリアワインから学んでみたいという方がたくさんいらっしゃる中で、日本ソムリエ協会副会長の石田博さんがいらっしゃってますので、この2つにコメントを少しだけいただきたいと思います」

石田「大橋さん、ご指名ありがとうございます。僭越ながら、クロフォードリバーのリースリングですけれども、フローラルで、深みがあって、成熟度が大変高く、後半、厳格さを感じるような印象がある。まさにこれがリースリングだなぁ、と長年のリースリング愛好家の方も実感してもらえるようなリースリングだったと思います。

またマイクさんがいったブライトネス、香りや味わいの輝かしさというか、反射するようなきれいな印象、やはり冷涼な気候からくる、そしてワインを知り尽くしている方のワイン醸造だと感じました。

続いてニュースクールのリースリング。これは香りは深みがあって華やかで、こういったワインはあまり経験したことがない、ショッキングな雰囲気があると思うんですけれども、酸化の印象がないということにこのワインの評価は集約されるということと、香りと味わいにとてもソフトな印象を受ける。最初のがリースリングの厳格さを表しているとしたら、このニュースクールの方は新たなフレーバー、奥行きを感じさせるワインだったと思います。

日本ソムリエ協会の会員の方は昔ながらのオーストラリアのスタイルで止まっている方が多いと思います。そういう意味では、オーストラリアというのはまさにダイバーシティ(多様性)のあるワインという打ち出しがまさに必要だと感じます。そんなリースリングだったと思います」

大橋「石田さん、ありがとうございます。ま、かつてはリースリングというのはどちらかというと安い、ヘンなリースリングもたくさんありましたけれども、今、有名なパイオニアさん、ジェフリー・グロセットさんであったり、こうしたクラシックなヘンティのクロフォードリバーはジャンシス・ロビンソンの『アトラス・オブ・ワイン』にも必ず載っています。

ラッガベラスに至っては、ペンフォールドの醸造長の息子さんがつくり手です。その方がこういったオレンジワインをつくるダイナイックさ。こういったところを、新しいワインのグッドスクールとして楽しんでいただけたら、と思います」

マイク「おふたりともインサイトフルなコメントをありがとうございました。私も、経験は浅いのですが、今のオレンジワインは、ウニと楽しむことがあります。そして、このオレンジワインの色調はボンダイビーチの夕暮れを思い起こさせます。なので、これをオーストラリアに持って帰りたいと思います。もし最初のフライトがコントラバーシャルでショッキングな内容であったら申し訳ないのですが、でもそういう風に選びました。ですが、皆様の脳、視覚を刺激するために選びました。なので、次はもうすこし穏やかにいきたいと思います」

第2フライト:シャルドネ

Sorrenberg Beechworth Chardonnay 2015
ソレンバーグ ビーチワース シャルドネ 2015

マイク「オールドスクールとニュースクールを較べるときにシャルドネはお手本になる品種です。1980年代、オーストラリア・イコール・シャルドネというイメージでした。濃いブルーのアイシャドー、肩パッドが入った時代です。過去を振り返るとちょっと恥ずかしい気もします。でも、それがまさに当時のオーストラリアのシャルドネのスタイルを表しています。

たとえば、この時代、リンデマン(Lindeman’s)のBIN45の輸出量が単独で他のワインの総輸出量を上回っていた。それがオーストラリアのスタイルを表していました。グラスの中から太陽が輝いているようなワインだったんです。もうちょっと技術的にいえば、よく熟した果実味、マロラクティック、新樽、そういったワインが世界中で生まれるようになって飲み手たちをある意味洗脳していった。

ですが、この10年で変化がありました。私たちはどういったシャルドネをつくるのか、つねに考えています。また告白しますが、もしかするとオーストラリアワインのシャルドネのスタイルは極端に振れ過ぎているかもしれない。

オーストラリアのワインづくりは、フルーツの純粋な成熟度以上に、少し還元的なニュアンスであったり、少し硫黄を感じるような、フルーツよりミネラルが勝ったようなスタイルに象徴されます。そういった極端に振れた線の細いシャルドネが多くつくられた時期もあったのですが、現在は、少し振り子が戻ってバランスが取れたシャルドネが戻ってきている。今回2つのシャルドネによって、オールドスクール、ニュースクールというコンセプトをお伝えさせていただきたいと思います。これもセレクトに関しては私の個人的な好みが反映されています。

もしかしたら、ソレンバーグというつくり手はあまり知られていないかもしれません。でも、ジャコンダというとどうでしょう。多くの方がご存知じゃないでしょうか。

ジャコンダはオーストラリアで最も権威のあるシャルドネのつくり手です。ソレンバーグは、ジャコンダのすぐそばにあるワイナリーです。ビーチワースという、プレミアムワインづくりに特化した産地です。非常に冷涼で、この地域を私たちは“サブ・アルパイン”と呼んでいます。小さい山ですけれども、とはいえビーチワースのブドウ畑は標高300~600メートルの高地にあります。

私が好きなのは本当に芯をついた素直なワインです。ずっとバイオダイナミクスで職人気質でつくっている生産者です。誰も介入しないつくり方ですね。とはいえ伝統的なワインづくりということで樽も正しく使いますし、非常に自然な、シャルドネ本来の味がしている。シャルドネというブドウ品種は非常に深みのある味わい、ワインとして完成度の高い素晴らしい偉大な白ワインになります。このワインはそういった要素が非常にバランスしている」

Mac Forbes ‘Woori Yallock’ Yarra Valley Chardonnay 2016
マック・フォーブス「ウーリ・ヤロック」ヤラバレー シャルドネ 2016

マイク「2つ目のグラスは、マック・フォーブスという若手のリーダー的存在のワインになります。

マックはヤラバレーの中でもサブリージョンに注目し、すべてシングル・ヴィンヤードのワインをつくっています。彼は持っている時間の9割以上を栽培に費やしています。醸造や、マーケティングにはあまり時間を割きません。マーケティング予算はまだ少ない。ワインそのものが語ってくれるワインづくりを行なっています。それまでのシャルドネは風味豊かだったのに対して、マックのシャルドネは非常にエレガントで、フレッシュで、より軽やかなスタイルだと思います。なんですけれども、線が細過ぎるということはない。

ですが、この2つを比べると、オーストラリアのシャルドネが、どこの方向に向かっていのかと感じていただけるのではないでしょうか。

マックは彼自身のワインを語るときに、面白い考えを持っています。ブドウ品種はさほど重要ではない。彼は畑の表現が重要であって、ワイナリーではあまりすることがない。ブドウがつくられた年、畑の特徴をワインを通じて表現したいと言います。ヤラバレーは冷涼な産地ですが、2016年はほんの少し親しみやすい。そんな印象を得ます。なぜなら2016年は少し暖かかったから。そんな気候の特徴がこのワインから感じられます。こういったほんの小さな特徴がワインから感じられる。多くの場合は潰されてしまうのですが、細部にわたった特徴を発見していけるのも面白いことです。ケンの話を聞いてみたい」

大橋「はい、マイクありがとうございます。ビーチワースというのは、私の中ではもうオーストラリアのトップクラスのシャルドネをつくる産地です。ジャコンダという生産者のことは、ちょうど私が2000年にワインアドバイザー選手権のご褒美で呼ばれたときにメルボルンのショップで、“これからスーパースターに輝く生産者のワインはないか”と聞いたら、“間違いなくジャコンダだ”といわれたのを覚えています。そのときにお店にシャルドネとかシラーとかピノ・ノワールとかがありました。全部買い占めたのを覚えています。ビーチワースはその頃まだ頭の中にないデータだったので、ビーチワースを見てみると、すごいつくり手がいっぱいあります。そのひとつがソレンバーグさんで、シャルドネだけじゃなくて、世界最高峰のガメもつくっています。

それと、何といっても我々には馴染みがあるヤラバレーのシャルドネ。これ、オーストラリアの方はよく使うのですが、“スケルター(骸骨のような)”という言葉をマイクは今、使ってました。あまりいい言葉じゃないかもしれませんが、“拒食症的な”とか、そんな形容詞を使うのですが、ウーリ・ヤロックのシャルドネと、ソレンバーグのシャルドネ、この2つのシャルドネが思いっきりダイバーシティを生んでいると。それでは次のフライトをお願いします」(その3につづく)

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