壮大なスケールのMERANO WINE FESTIVAL
イタリア北部トレンティーノ=アルト・アディジェ州メラノは風光明媚な温泉地として知られています。
周囲を雪山に囲まれた街の中心には川が流れて清涼感に包まれています。
25周年を迎えるMERANO WINE FESTIVAL(メラノ ワイン フェスティバル)では、イタリア内外からトップレベルの450のワイナリー、200の食品関連業者、15人のトップシェフが集結し、5日間にわたってさまざまなプログラムが行われます。
この数値だけでもその桁外れな規模は推測できますが、さらには主催者の「これはただのイベントではなく、ワインと食のシンクタンクである」というモットーにより、さまざまなアカデミックかつ実験的なプログラムやセミナーが開催されていました。
私は以下の2つの試飲会とセミナーに参加しました。
BIO&BIODYNAMICAの試飲会は、街の中心部のクアハウスのシャンデリアの飾られた豪華なバンケットルームで開催されました。約200のワイナリーが集結する本編の試飲会とは別に設けられているにも関わらず、ここにも100近い生産者が集いました。それだけイタリアのビオやビオディナミコの層が厚く、もはやイタリアにおいては当たり前のジャンルであるといえるでしょう。
垂直試飲での衝撃
バジリカータ州のアリアニコ種の垂直試飲セミナーでは、1925年創業のワイナリーPATERNOSTER(http://www.paternostervini.it/index.jsf)の創設者の名にちなんだワインDON ANSELMO(Aglianico del Vulture D.O.C,アリアニコ100%、50%スロヴェニア産大樽、50%フランス産バリックで20ヶ月熟成後瓶熟成4ヶ月)を2013、2012、2010、2007、2006、2004、1997年まで遡って試飲しました。
これまでに3年から5年程度の垂直試飲の経験はありましたが、ここまで古い年代のものは私にとっては初めての経験でした。
PATERNOSTERはバジリカータ州の海抜600mのVulture山腹に位置しています。イオニア海とティレニア海両方の風が交わる火山性大地がワインにミネラルと複雑さと骨格をもたらします。
現在はヴェネト州に本拠地を置く1902年創業の名門ワイナリーTOMMASI FAMILY ESTATES(http://www.tommasi.com/)が所有し監督をしています。
TOMMASI FAMILY ESTATESはこの他、ロンバルディア州、トスカーナ州、プーリア州のワイナリーも所有し総監督を務めています。そのTOMMASI FAMILY ESTATESの4代目を担うENOLOGO(醸造責任者)のGIANCARLO TOMASSI氏のガイドによってセミナーは進行しました。
後日、彼の案内によりヴェネト州のワイナリーTOMMASIにて光栄にもかの高級ワインAMARONEを試飲するという機会に恵まれましたので別の機会に記事にしたいと思います。
南イタリアを代表する品種アリアニコの一般的な特徴として、豊富なタンニン、酸味、ふくよかな果実味、滑らかな舌触り、複雑実のある骨格のある風味が挙げられます。
ベースとしてその特徴を保ちながら、年代によって全く趣が異なることに驚きました。ワインはその年の気候、特に夏と収穫期の温度、雨量に影響を受けます。
以下覚書程度ですが各年別の印象を列挙します。
2013年:気候に恵まれた年、甘い果実味、バニラ、鉄分、ほどよいタンニン後味
2012年:高温と水不足に悩まされた年、スパイス、バルサミコ、カカオ、しっかりした骨格
2010年:収穫期の9月の雨で湿気の影響あり、チェリー、酸味、若干の青臭さ
2007年:高温の年、ジャムのような果実味、バルサミコ、ミネラル、後味ひかない
2006年:収穫期の雨で困難を極めた年、タンニンの角がとれてない
2004年:気候に恵まれた年、バランスがとれている、スパイス、滑らかなタンニン
1997年:気候に恵まれた年、カカオ、スパイス、大地、タバコなどの複雑さと統合された成熟さ
垂直試飲は時間旅行?!
年によってはタンニンがキシキシしたり、あるひとつの特徴が突出していることもありましたが、時代を過去に遡れば遡るほどそのぶれが少なくなり、その品種そのものの個性というか「在りかた」が研ぎ澄まされて、それでいて調和を持って顕れることに気づきました。
このワインが20年かけて熟成を迎える間、自分は20年間何をしてきたのか、どう生きてきたのかと深く考えさせられました。
上記のそれぞれの年に起きた自分の社会生活やプライベートでの出来事に思いをはせ、自らを省みる良い機会となりました。
これまではイタリア各地の土着品種を追い求め、旅をして多くのワイナリーを訪問して試飲してきました。
新しいワイナリー、ブドウ品種、造り手との出会いは、いわば未知との遭遇で、心は驚きと発見の喜びでいっぱいとなり、水平方向に外へ外へと拡がっていきます。
これに対して今回の垂直試飲では、ワインと共に心の内側へ内側へと時空を旅するような体験をしました。垂直試飲、それはまさしく過去との邂逅でした。