オーガニックはいまどき基本です。
そういえば、「そりゃそうだ」とみんなが納得します。ワインに関しては、です。他の農産物に関しては当てはまりません。
なぜかと考えると、ひとつの答えしか思いつきません。農薬を使った味がわからないような鈍い味覚ではそもそもワイン自体が楽しめない。つまりワイン・ファンはみんな、オーガニックの味とそうではない味の区別がつき、前者を支持するということです。
とはいえオーガニック・ワインというと日本ではフランスばかり目立ちます。頑張って造っている感じの、努力の味のするフランスのワインもいいのですが、いまやオーガニックは特殊なことであるどころか当然至極の話なのですから、さらっと普通に当たり前にオーガニックな味のするワインが日常の食事にもっと登場してほしいと思います。
そこでオーストラリア。世界中のオーガニック農地面積の3分の1近い1200万ヘクタールがオーガニックという、圧倒的に世界最大のオーガニック大国であるという事実もさることながら、この国のノリ自体がオーガニックな感じ。大自然の中にぽつんぽつんブドウ畑があって、都会のあれこれのノイズからフリーな感じ。カウラを訪ねた時だって、丘の上から見渡すかぎり、周囲にまったく人の気配がありません。レストランもコンビニも自販機も何もありません。そのまっすぐなナチュラルさは、確実にワインの味に表現されています。
ではオーストラリアのどこか。私たちは今回、シドニーのあるニュー・サウス・ウェールズ州(NSW)を訪ねました。ここではほぼ一様に、肩に力の入っていない味、自己主張に溺れていない味がするからです。それは日本で一般的な「オーストラリア・ワイン=パワフル」というイメージからはほど遠い、むしろ素朴で控えめで優しい個性。それがオーガニックによってさらに強められ、さらには地に足のついた充足感へとつながっていく感覚を伝えたいと思いました。
今回訪問したカウラ、マジー、ハンター・ヴァレーのブドウは自根です。自根のワインはストレスがなく、混じり気がなく、大地のエネルギーを直接に伝えてくれる、おおらかで安心できる味。どんなに頑張っても、自根ワインの特別な個性は接ぎ木ワイン(=世界の大半のワイン)には出せません。「普通のオーガニック・ワイン」にとってこれは大事なこと。次はみなさんがNSWを訪れ、自分の目と舌で自然なワインとはなにかを確認してください。
ミューズ・キッチン
新進気鋭シェフの現代的味わい
行列のできるオーガニック・レストラン
Muse Kitchen
Cnr. Hermitage and Deasys Roads,
Pokolbin, New South Wales 2320
テュロック・ワイナリーに併設のレストラン。「オーガニック素材を使ったりしてナチュラルな味の店はどこですか?」と別のワイナリーで聞いたら、こちらを即答。平日ですからほかの店は空いていたのですが、ここは行列ができていました。
小さくとも客席間のスペースがたっぷりしているのがオーストラリア。
テュロック・ワイナリーの向かいにあります。
ホワイト・ラビット・テリーヌ。さらっとしたくせのないウサギ肉に、この地の名物ワインであるセミヨンが合います。早摘みしてソーヴィニヨン的なハーブとレモンの香りに、意外なまでのしっとりした質感。現代オーストラリアらしい垢抜けて明るい味わいが生まれます。
パイプクレイ・ポンプハウス
地元の肉の味がわかるレストラン
自家製シャルキュトリーが美味
Pipeclay Pumphouse
Pipeclay Lane, Mudgee,
New South Wales 2850
ロバート・シュタイン・ワイナリーに併設のレストラン。恵まれた自然の力を感じさせる素材をストレートに生かしつつも、洗練された料理が特長です。ほかのワイナリーで、「地元の肉の味がわかるレストランはどこですか」と聞いたら、ここを教えてくれました。
外装はトタンで、ざっくりとした雰囲気がマジーの土地柄を表しているようで落ち着きます。
メインストリートからはずいぶん離れた場所にあるだけに、自然に囲まれての食事が満喫できます。
自家製シャルキュトリー盛り合わせ。自家農園で飼われている豚や鴨を使っています。やわらかくてクリーンでやさしい味はまさにマジー。少し残糖分のあるカベルネとシラーズのセニエ・ロゼが清潔な味わいを強めます。
レッド・ハイファー・ビストロ
オージー・ビーフのおいしさを発見!
ステーキを自分で焼いて食べる店
Red Heifer Bistro
Lauson Park Hotel, 1 Church St, Mudgee,
New South Wales 2850
マジーの街中にあるホテルのレストランです。自分で好きな部位の肉を選ぶと、塊をドンと渡され、グリルかグリドルかを使い、好きな焼き加減で調理できます。ステーキ好きなら、こんな理想の店はありません! オーストラリア・ビーフのおいしさを発見できます。
ローソン・パーク・ホテルの中にありますが、ホテルな雰囲気はありません。ほとんど無意味なくらいに広い店内。サービスらしいサービスなんてありませんが、それがまたいい。
牛肉にはさっぱりしたグラスフェッドもジューシーなグレインフェッドもあります。
アンガス・サーロインは500g、リブ・アイは450g。このぐらい大きいと肉の味がしっかりとわかります。
ラーク・ヒル
取材お断りの高名なワイナリー、の併設店
行ってよかった!
Lark Hill
Cnr. Joe Rocks & Bungendore Rd,
Bungendore, New South Wales 2621
高名なワイナリーですから取材依頼したのですが、断られました。しかしラーク・ヒルに行かずしてニュー・サウス・ウェールズはわかりません! ありがたいことにレストランが併設。野菜はビオディナミの自家農園産ですし、他の素材もナチュラル。行ってよかった!
標高が高く、空気が澄み切っているので、料理もさらにおいしく感じられます。
ラーク・ヒルの素晴らしいワインがどれもグラスで楽しめます。
ポーク・ベリー・クロケット。ようするに豚バラ肉メンチカツです。驚くほど清冽な香りの豚の脂が口の中いっぱいに広がり、それにラーク・ヒルの代表作といっていい「グリューナー・ヴェルトリーナー」を合わせた時の至福の味わいといったら!
ボッテガ・デル・ヴィーノ
「センスで勝負!」のワイン&食料品店
日本にも欲しい!
Bottega del Vino
1/77 Macleay St(beside Woolworths),
Potts Point, New South Wales 2011
シドニーの街中を歩いていると、ワイン・ショップやワイン・バーがたくさんあります。ワイン文化の充実を感じます。サンドイッチ等の気軽なランチをテイクアウトできるこの食料品店に入ると、中にはワイン・ファンをうならせる見事なセレクション。こんなお店が日本にも欲しい!
棚は品種別に分類。オーストラリアはむろん、世界各国からワイン・ファン垂涎のオルタナティブ系ブティック・ワイナリーの作品は、見ているだけで興奮します。マネージャーいわく、「小さい店だし、近所に有名店があるから、センスで勝負しないと」。
店名以外はあまりワイン・ショップな感じがしません。お客さんの多くはイタリアのチーズや惣菜、サンドイッチを買っていきます。