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スターレーン 「鮨 からく カリフォルニア プレイバックディナー」

ボルドー種の「スターレーン」&ブルゴーニュ種の「ディアバーグ」に江戸前鮨を合わせる                                        

10月25日(金)の夜、米国カリフォルニア州サンタバーバラのワイナリー、スターレーンと江戸前鮨の名店「鮨 からく」のコラボレーション・ディナーが開かれた。ワインと鮨のペアリングはWINE-WHAT!?でもとりあげているけれど、このペアリングを10年以上にもわたって追求しているのが、「からく」の大将の戸川基成(とがわ・きみなり)さんなのだ。

「鮨 からく」の大将の戸川基成さん。「奈可田(なかた)」で修業後、1989年に「からく」を創業。ワインと江戸前鮨のペアリングの魅力を伝える第一人者。英国ワイン&スピリッツ協会(WSET)認定の資格を持つソムリエでもある。手に持っているのは、2017年のスターレーンのワイナリーでのイベントを記念してつくられた写真集。

ジャミン・ディアバーグさんの思いつき

2年前の2017年5月1日、サンタバーバラにあるスターレーンのワイナリーで、「からく」の江戸前鮨とワインのペアリング・イベントが開かれた。スターレーンのインターナショナル・セールス・ディレクター、ジャミン・ディアバーグさんの発案だった。「からく」30周年でつくられた小冊子にジャミンさんがこのときのことをこう書いている。

「戸川シェフによる江戸前鮨とワインのペアリングを銀座の彼のお店『鮨 からく』で体験するまで、主人(マイケル)も私もアメリカの誰もがそう思うように、お鮨の最高の相棒は日本酒だと考えていました。

畳の敷かれたカウンター席に座り、最高の江戸前鮨とワインのペアリング、戸川シェフとの掛け合い、彼のおもてなし(日本スタイルのホスピタリティ)を楽しむ事は、東京滞在中の私の最も好きな儀式の一つとなりました。私は感銘を受け、戸川シェフにこのユニークな体験をアメリカへ持ち込めないだろうかと相談しました。彼は喜んで賛同してくださいました!」

戸川シェフとは、もちろん「からく」の大将の戸川基成さんのことで、戸川さんはネタを医療用の保冷機に入れてアメリカに持ち込み、メディア関係者20人を含む60〜70人のゲストに見事なペアリングを披露した。ジャミンさんの思い通り、鮨とワインのペアリングの可能性を海外でも認知させるパイオニア的なイベントとして、大成功を収めた。

左からアンドレイ、ジャミン、マット。アンドレイはソムリエの最高峰マスター・ソムリエの資格を持つ。マットはサンフランシスコのミシュランふたつ星のレストラン「レイジー・ベア」のヴィヴァレッジ・ディレクター。

このイベントを手伝ったのが、ジャミンさんの友人の若いソムリエ、アンドレイ(Andrey Ivanov)さんとマット(Matt Dulle)さんの2人で、この2人が日本酒について学ぶべく来日したのを機に、2017年5月1日のあの日を「からく」で大将に再現してもらおう、ということをジャミンさんは思いついた。

かくして2年前の5月のイベント同様、スターレーンの日本の輸入元のモトックスと酒卸問屋の佐々木酒店の再協力を得て、10月25日(金)19時から、「鮨からく カリフォルニア プレイバックディナー」と題した、定員23人のイベントが開かれた。

WINE-WHAT!?はこの会に招かれる僥倖に恵まれたので、以下、海の向こうの食通も唸らせた、戸川シェフによるワインと、江戸前鮨&日本料理のペアリングを報告したい。

前菜は、イカ、ウニ、キャビア。

スターレーン ソーヴィニヨン・ブラン 2005

シャンパーニュとイカ、ウニ、キャビアの前菜から始まったペアリングのその1は、「スターレーン ソーヴィニヨン・ブラン サンタ・イネズ・ヴァレー 2005」と、カンパチのワイン漬け、タイの昆布〆に、魚介のバジルソース合えの3点セット。

「カンパチのワイン漬け」と「タイの昆布〆」。

バジルとソーヴィニヨン・ブランがピッタリ。

2人の若いソムリエに、記者が感想をたずねると、アンドレイが2005年のスターレーンのソーヴィニヨン・ブランを評して、こう言った。

「ボルドーの白と同じように熟成できるポテンシャルを持っている。つい最近、1978年のボルドーの白を飲んだけど、ファンタスティックだった。アメリカにはワイナリーがたくさんあるけれど、でもソーヴィニヨン・ブランを熟成しているところはなかなかない。スターレーンのこれにはいつも感動している」

「スターレーンの醸造家のタイラー(Tyler Thomas)と会ったとき、彼はこのワインを飲んで、ここの畑のポテンシャルに惚れてやってきたと語っていた」と付け加えたのはマット。

「熟成すると、若いときのオークの樽の甘さが旨味に変わってくるのでとてもいい」とはふたたびアンドレイ。さらにアンドレイさんはワインと料理のペアリングについて、この2017年のイベントの再現にとって、いや、現代の食文化にとってとても重要なことを語った、と記者は思った。

熟成に耐える、スターレーンのソーヴィニヨン・ブラン。

「ワインと食事のペアリングは、かつては1つの料理に基づいていました。フランス料理です。でも、今は根本的に違っています。江戸前鮨は、ワインそれ自体の状態、熟成具合とかテクスチュアによって、いろんな料理と合わせることができる。カベルネ、シラー、ピノ・ノワールなどの赤ワインを、鮨、刺身と合わせることもできます。伝統的なペアリングというより、いろんなワイン・ペアリングを、より広く、われわれは楽しむことができるのです」

赤ワインだけを飲んでいた世代は徐々に退場し、若いひとたちの時代になりつつある。鮨と日本酒を喜ぶ東洋趣味から、鮨とワインという純粋な味覚の冒険を楽しむという、西も東もない、いい意味でのグローバルな感覚が食の世界で広がりつつある。

ディアバーグ シャルドネ 2016

ペアリングのその2は、「ディアバーグ “ドラム・キャニオン・ヴィンヤード” シャルドネ Sta. リタ・ヒルズ 2016」と、次の料理である。

「鯛のごま醤油 皮のあぶり」。ごまと樽熟成されたシャルドネはとてもよく合う。

「カニとフルーツトマトのミルフィーユ」。トマトのフレッシュな酸味とシャルドネの酸味がピッタリ。

「やっぱりドラム・キャニオンのシャルドネはいいっすねぇ」と明るい感想をいったのは、モトックスの塩尻隼土(しおじり・はやと)さん。首都圏業務用営業部課長にして、JSAのソムリエの資格を持っている。

ソーヴィニヨン・ブランもシャルドネもすばらしい。そのすばらしいワインに合わせた料理もすばらしい。その1の「タイの昆布〆」も、その2の「鯛のごま醤油 皮のあぶり」も、ほどよく熟成=発酵されていて、まるで練り物のようにモッチリしている。「鯛のごま醤油」は鯛茶漬けを握りにしたもの、と大将の戸川さんはいう。

「醤油に、水分をしっかり抜くまで浸けて、それから出して、熟成させる。水分を抜いてスルメイカにすると1年持つのと同じです。お醤油につけるのは、水分を抜くための仕事です。江戸時代、鮨はあくまで屋台で出すものでしたから、味をおいしくするためにやったことじゃなくて、保存性をよくするためにやった。たとえば、水分量を少なくして、酢で殺菌したのがコハダです。水分が多いと生臭くなる。ワインもそうですよね。ドライフルーツのほうが合わせやすい。フレッシュなフルーツだと合わせにくい」

300年前に生まれた江戸前鮨の文化とワインが合うことがわかってきた、と戸川さんは楽しそうにこう続けた。

2人におもてなしをする大将。

「今までは、鮨、刺身にワインは生臭くなっておいしくない、というのが通例だったんです。魚は白だと。でも、じつは白ワインのほうがむずかしい。なぜかというと、白ワインは繊細ですから。今日はどうぞ生きがいいのが入ってますから、と鮨屋でいわれたときに、シャブリとかと合わせますよね。どこの鮨屋でも置いてあるのがシャブリなんですよ。あれは、酒屋さんの要望なのか、インポーターの陰謀なのかわかりませんけど、なぜか知らないけどシャブリが置いてある。シャブリはたくさん輸入されていましたし、牡蠣に合うんだ、海のものだから当然刺身にも合うだろうという単純な考え方だったと思います。シャブリはミネラルがあって、牡蠣には合うんですが、やっぱり鮨には合わない。

でも、それは出すほうがわかっていないだけの話です。そこでは、樽のきいたシャルドネだとかムルソーだとかのほうが合う。

このあいだ、シャブリをつくっているところのフランス人の社長が来まして、イワシを焼いてマリネして、ポン酢をかけて出したんです。イワシそのものを出したら生臭いから。私、聞いてみたんです。社長、シャブリを飲むときに、フランスはお魚料理はなんですかと聞いたら、フランスもイワシを食べる、と。でも、イワシとシャブリは合わないと思う。私が食べるときはマリネして酢をかける、とおっしゃってました」

だけどねぇ、やっぱり鮨には日本酒でしょう、と隣の席の塩尻さんに、少々アルコールが回ってきた勢いもあっておたずねすると、JSA認定SAKE DIPLOMAの資格も持つ塩尻さんは記者にこうやさしく語った。

「日本酒は糖分で合わせているんです。糖分がベースなんで、合わせやすい。臭みが出ないんです。でも、ワインは酸味がベースなんで、文化が違う。そうなると、生臭みが出やすい。
一般的なシャブリというのは、もっとすっきりとして、より酸味を感じるスタイル。日本酒のような柔らかいスタイルに近いのはこのシャルドネといえるかもしれないですね」

ディアバーグ ピノ・ノワール 2016

塩尻さんの解説に思わず唸っちゃう記者……はどうでもいいとして、料理の紹介を続ける。その3は、ディアバーグの同じく“ドラム・キャニオン・ヴィンヤード”のピノ・ノワール 2016とこちらの握り&料理である。

「サーモンの醤油漬け バジルソース」

「中とろ とろタク ワイン塩」

「マグロの醤油漬け」。ワインと料理、色で合わせている。

マグロのヅケは、醤油漬けによって水分が抜かれてモッチモチだ。

それでまた、ディアバーグのピノ・ノワールが、「ブルゴーニュ」といわれても記者にはわからないほど、ブルゴーニュな感じがする。そうつぶやくと、隣の塩尻さんがこう語った。

「レベルが高いと思います。ブルゴーニュだったら、プルミエ・クリュとか。同じヴィンテージのブルゴーニュではまだ若くて硬さが出てしまうので、このように香りの開いた状態で楽しめるまでにはもう少し時間が必要でしょうね」

なお、ディアバーグは、ディアバーグ・ファミリーがつくっているブルゴーニュ品種のブランドで、海から20kmほどしか離れていない、冷涼なサンタバーバラ渓谷の西の端っこに畑がある。ボルドー品種のスターレーンは、サンタバーバラの200〜500m弱の海抜のところに畑がある。醸造家はともにタイラー・トーマスさんがつとめている。

スターレーン カベルネ・ソーヴィニヨン 2015

ペアリングその4は、「スターレーン・カベルネ・ソーヴィニヨン ハッピー・キャニオン・オブ・サンタバーバラ 2015」とこちらのお料理。

「とろの炙り」

「ブリの照り焼き フォアグラ添え トリュフ」

スターレーン “アストラル” 2011

大トリが最高峰の「スターレーン “アストラル” ハッピー・キャニオン・オブ・サンタバーバラ 2011」のマグナムと、こちら鮨3種。

「煮穴子」

「鰻」

「かんぴょう巻」

スターレーンのフラッグシップ“アストラル”は、同じハッピー・キャニオン・オブ・サンタバーバラAVAの、標高500mの畑で収穫した最上級のキュヴェのカベルネ・ソーヴィニヨンと、カベルネ・フランを少量ブレンドしている。よい年にしか発表しない。フツウのスターレーンのカベルネ・ソーヴィニヨンが、いい意味でカリフォルニアの太陽を感じさせるのに対して、こちらは厚みがあるけれど、開くのに時間がかかる印象を受けた。

2011年は、じつは出たときの評価はそれほどよくなかった、とジャミンさん。でも、いまはベストという評価に変わっていて、2011年のスターレーンはもう売るものがないという。

塩尻さんがこう補足した。

「2011年は一般的に冷涼なヴィンテージで有名ですが、こういうヴィンテージのワインが熟成するとよりきれいな熟成を見せて素晴らしいですね。世界的にも冷涼なワインのスタイルが、いまは人気なんですよ」

最後に、2人の若きソムリエに、どれがベスト・ペアリングだったか、聞かせてもらった。

アンドレイさんは、「シャルドネとゴマとピーナッツ」、マットさんは「カニとトマトは普通は合わせない。絶対好きじゃないと思ったのに……」と、2人ともシャルドネとのペアリングを賞賛した。

「私もワインと鮨が合うと思っていなかった。20年間、日本酒だけ。それがこの10年で、ワインと寿司が美味しいのがわかったので、80%、ワインが多めになったんです」と戸川さんはしみじみと語った。

右端が、「越後鶴亀 ワイン酵母仕込み 純米吟醸」。

食後に、ワイン酵母を使った日本酒というものを大将に初めて飲ませてもらった。シャルドネのようなフルーティさを持つそれは、日本酒ではなかった。

でも、そのあと、いや、やっぱり日本酒だ、と思いなおした。新しい世界が始まっていることを、記者は体験したのでした。

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