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「ニュートン」 ジャン バティスト リヴァイユに聞く

フランス的なるワイン、カリフォルニア的なるワイン

ブルゴーニュっぽいとかナパっぽいとかいう紋切り型は、ある程度の共通認識があるひとたちの間では有効かもしれないけれど、そうでなければ衒学的にも感じるもの。で、実際のワインはどんな味なの?
ナパ・ヴァレーのワイナリー「ニュートン」のエステートディレクターを務めるフランス人エリート、“JB”の解説は、明確だった。

ニュートンのスプリング マウンテンの畑。ブドウ品種の個性をピュアに表現するとなれば当然、有機農業が基本。ニュートンはさらに踏み込んで、健康な土こそ、よいワイン造りの基礎、と環境保全型農業の実現に取り組む

Rare Fresh Expression of Napa Valley

「こんばんはみなさん。私はジェイ・ビー!」

と、〝JB〞こと、ジャン バティストリヴァイユの日本語での挨拶で、東京・虎ノ門は「アンダーズ東京」の一角を貸し切ってのディナーは幕を開けた。名前からも想像がつくように、JBはフランス人だ。しかも、プロフィールを見れば、フランスのエリート教育が生み出したダイヤモンドみたいな人。まぶしい。
なんで、そんな人が……

というのは、彼は、いま、カリフォルニアはナパ・ヴァレーのワイナリー「ニュートン」のエステート・ディレクターという立場にあるのだ。

その疑問に対して、JBはーー

「フランス南部で2世紀にわたってワインビジネスを営む家系の出身で、いまは、美しいワイナリーのディレクターです」

と、美しいアメリカ英語での簡潔な自己紹介にて答えた。そして

「ニュートンはオールドワールドとニューワールドを結ぶようなワイナリーです」

と、続ける。

ディナーとともに、ニュートンのワインを体験してみると、まさに、ニュートンはJBの言うようなワインだったのだけれど、なぜ、そういうワインが生まれるのかを、JBは先回りして、またも簡潔に説明した。

「ニュートンは、〝珍しいフレッシュ・エクスプレッション・オブ・ナパ・ヴァレー〞だからです」

以降のJBの話は、これを解き明かすことに費やされる。そして、JBの語るニュートンの歴史は、ニュートンに限らず、カリフォルニアのファイン
ワインがどんなものかを把握するうえでも興味深い話だった。

ジャン バティスト リヴァイユ
エステート・ディレクター

国家元首や国際機関の長などを目指す人の登竜門となるフランスのグランゼコール「シアンス・ポー」を卒業し、ビジネス系グランゼコールのトップ「ESCP EUROPE」にいって、そこも卒業しているというフランス教育が生み出した精鋭。さまざまな分野でのビジネス経験をもち、2013年からモエヘネシー社で重責を担う。2017 年から現職

An English gentleman in San Francisco

1950年代のサンフランシスコのこと。

第二次世界大戦後にファイナンシャル・タイムズの記者としてサンフランシスコに移住し、その後、紙の輸入業で起業し財を成したピーター・ニュートンという男がいた。ピーター・ニュートンはワインとガーデニングを愛する。なぜなら彼は英国紳士だから。ロンドン生まれで、オックスフォードのベリオール・カレッジを出た。英国紳士たるもの、財を成せばカントリーハウスを持つもの。サンフランシスコにおいて、それは、今も昔もナパのあたりである。

ピーターのカントリーハウスのそばに、ワイン一族、モンダヴィ家が暮らしていて、ある日、こんなことを言ってきた。

「ピーター。君の土地はすばらしいのに、なんでブドウ畑をやらないんだ? ブドウができたらうちで買うよ」

これを聞いたピーターは思う。

「なるほど。ならば、彼らにブドウを売るよりも、自分でワイナリーをやればいいんじゃないのか?」

1964年、ピーターは、カリストガにワイナリーを設立。「スターリング・ヴィンヤード」という今も評価の高いファインワインのワイナリーだ。

しかし、ピーターは、これだけでは満足しなかった。オールドワールド的なワインとはピーターにとって、フレッシュさ、テンションがあるワインを指す。ここにナパの力強さが加わったワインが造りたい。ピーターには、当時のナパのワインは、ボディがあってパワフルだけれど、ブドウの個性の表現、複雑さ、緊張感は、フランスの銘醸地ほど表現しきれていないと感じられた。そして、それは、ヴァレーフロア(谷床平地)でブドウを栽培するからではないか、と推論するに至っていた。

ピーターは山肌にブドウ畑を開拓する。1977年、スプリング マウンテンの斜面にわずか1平方マイルのブドウ畑をもつピーターのあらたなワイナリー「ニュートン」が誕生した。果たして、そのワインは、ピーターに、その見込みの正しさを物語るものだった!

スプリング マウンテンの畑

Napa Cabernet is not always Napa Cabernet

寒暖差、日照、土壌。ヴァレーフロアにはないマウンテンサイドの環境がブドウに、フレッシュさとテンションを与えた。そのワインを味わうと、ピーターの成功はあきらかで、他のワイン生産者も、山に畑を拓くというピーターのアイデアをフォローした。しかし、ナパはほどなくして環境の保全を理由に、山にブドウ畑を拓くことを規制する。かくして、山の畑は希少なものになった。

「〝珍しいフレッシュ・エクスプレッション・オブ・ナパ・ヴァレー〞と私が言ったのはこのためです」

JBは物語をこう締めくくった。

ニュートンの中核をなす品種はカベルネ・ソーヴィニヨン、いわゆるナパカベで、産地は、スプリング マウンテンのほか、ナパカベの代表的産地ヨーントヴィルとカリスマ高級ワイナリーの畑が集うヴィーダー山。

ヨーントヴィルの畑

ヴィーダー山の畑

これら3つの畑をこまかく区画分けして醸造し、3産地を均等にブレンドした「アンフィルタード カベルネ ソーヴィニヨン」、そして、各産地の、これぞ、という区画のブドウで造る「シングルヴィンヤード」が代表格だ。

アンフィルタード カベルネ ソーヴィニヨン

シングルヴィンヤード

ニュートンのカベルネ・ソーヴィニヨン。おなじカベルネ・ソーヴィニヨンでも、スプリング マウンテンがもっともエレガントで繊細。マウント ヴィーダーは複雑に構築的で基調はパワフル。ヨーントヴィルがその中間で、「ナパカベ」らしい鷹揚さをもつ。と、個性が分かれる。「アンフィルタード カベルネ ソーヴィニヨン」はこれら3産地のブドウを均等にブレンド。シングルヴィンヤードは、その年の優れた区画のブドウをブレンドし、それぞれの産地の個性を遺憾なく表現する

「ナパの3つ星レストランのシェフが、JB、やっとナパカベにリブアイのステーキじゃなく、僕の自慢の繊細な料理をあわせられる!と、僕に言ってくれたことがあったんです。ワインの名産地シャンパーニュやブルゴーニュには、色々なワインが色々な食事に合わせられるでしょう。ナパも、そうなったんです」

だから、ブルゴーニュのピノ・ノワールと、ナパのカベルネ・ソーヴィニヨンと、それからニュートンのそれを比較してみてほしい。あるいは「ナパカベか、なん
だか疲れそうだな」などと思う人にこそ、ニュートンを試してみてほしい。


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