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クロアチアの小さなワインの島 コルチュラ島へ

アドリアンはブドウと暮らす

アドリア海を挟んでイタリアの対岸の国、クロアチア。1990年代まで民族抗争が続いたこともあり、近年まで困難な時代を経験しているこの国は、2013年にEU加入し、今では平和で治安の良い観光大国として人気の訪問先だ。

そして、ワインにおいては、紀元前からワイン造りの歴史がある、歴史的にも重要な国。今回は、そのクロアチアのアドリア海に浮かぶ小さなワインの島、コルチュラを訪ねる。

小さい国の小さい島

クロアチアは小さい国です。その小さい国の中で、コルチュラ島は、とても小さいところです。一万五千人の人口で、大体みんなが知り合いです。ここで、六次の隔たりは、最大でも二次の隔たりといっても過言ではありません。なので、この取材のため、コルチュラ島出身の僕のお父さんに、「コルチュラでワインを造ってる人知ってる?」と聞くと、「もちろん。プロでやっている人で、この島だけで4人ぐらい。ペリェシャツ半島を含めたら、10人とか?」と当然のように返してきました。

コルチュラ島はクロアチアの南にあります。

有名な都市、スプリットとドブロブニクの間ぐらいにありまして、観光スポットとして知られています。コルチュラ町とヴェラルーカの二つの小さい町と、数十個のもっと小さい村しかないコルチュラ島は、クロアチアの海岸の他の地域と同じく、自然だらけです。岩のグレー、海の青、木の緑、家の白、どこに行っても、新鮮な色に囲まれる。

町のほうは、数百年変わってない敷石から、大事にされている石の協会などの建物まで、すべてが長い歴史と文化を感じさせます。カフェ、レストラン、ビーチでは常に人がリラックスしていて、時間がとてもゆっくり、気持ちよく流れています。

そして、クロアチアのなかで、コルチュラは「ワインの島」として有名です。

原生のブドウの種類が二つもありまして、2500年前のギリシャ時代からその歴史が始まりました。最初にギリシャの移住者が持ち込んだ技術が広がって、飲み水が少なかった島で、ワインは水の代わりにも使われていました。

コルチュラは、ずっとワインとともにいます。小さいスケールで造られていたワインは、20世紀の工業化で、大きなスケールになました。70年代で、毎年のワインの産出が数百万本規模に。ワインのクオリティーより、量が重要された時代は、ユーゴスラヴィアの戦争とクロアチアの独立で終わり、戦後、コルチュラのワイン造りはゆっくり復活しはじめて、この30年で、ワイン学の時代になりました。

コルチュラの誇り ポシップの起源

クロアチアは主に白ワインで知られています。大昔、「黒島」と呼ばれていたコルチュラは、そのおかげで「白ワインの黒島」とも呼ばれるようになりました。その白ワインに使われるブドウの中で、ポシップ(Pošip)が一番有名でしょう。コルチュラの原生のブドウの種類の一つで、いまはクロアチアの所々で育てられています。世界的にも少し有名になりました。

ポシップはコルチュラの誇りです。

このとても大事なブドウは、スモクヴィツァ村(Smokvica)の近くで、なんと、偶然で発見されました。

ストヴァラ(Sutvara)という土地にて、19世紀の後半、森を探検していたマリントマシッチ氏(Marin Tomašić)が突然見つけました。そのブドウの色と味に惹かれたトマシッチ氏は、見つけたブドウの木を少しとって、自分の畑で育てました。ポシップの長い歴史は、そこから始まりました。

ポシップ

マリントマシッチ氏がポシップを発見したところには、2008年に記念碑が建てられました。その記念碑の近くのブドウ畑は現在、ペツォティッチ兄弟が持っていて、いまもブドウが育っています。ポシップ、プラーヴァツマーリ(Plavac Mali)、ルカタツ(Rukatac)の三つの品種を大事に育てています。

ここにブドウ畑をもつ、歴史の先生をやっていたミルコさんと、ワイナリーの計算係をやっていたイバンさんに、畑を案内してもらいました。

すでに引退している二人ですが、昔は趣味でレストラン、ホテルなどに自分のワイン売っていました。現在は年のせいで力仕事ができなくなって、毎年数十本のボトルを造って、友達にあげたり、自分で飲んだりしてます。おいしいブドウなので、そのまま頂くことも多いそうです。

ブドウ畑に連れて行ってもらったのは、収穫期である9月でした。ミルコさんに、「少し採ろう!」と言われ、結局10キロぐらいを車に積んで、家に帰りました。

スモクヴィツァ村の周辺は、ブドウ畑ばかりです。ブドウを育てている人は多く、9月が来たら、みんな喜んで、誇りをもって、自分のブドウと、そのブドウで造ったワインを知り合いに配っています。なので、9月末ぐらいに、コルチュラ島の住民の冷蔵庫は、ブドウだらけになります。

コルチュラ最大 ブラックアイランドワイナリー

スモクヴィツァの周りには、個人でワインを造って、道で売ったりしている人から、数十人を雇っている大型のワイナリーもあります。

その大型ワイナリーの一つが『ブラックアイランドワイナリー』です。

50年代に始まって、60年代に最大で300万本を出していたこのスモクヴィツァ村のワイナリーは、ユーゴスラヴィア戦争後に、あいにく廃れました。2018年に、コルチュラ生まれのヴィエラン・フィリピ(Vjeran Filippi)が、スウェーデンの投資ファンドの力を借りて、このワイナリーを復活させました。イゴル・ラドヴァノヴィッチ(Igor Radovanović) と二コラ・ミロシェビッチ(Nikola Mirošević)、二人のコルチュラ出身の若手ブドウ学者を雇って、ポシップを更に広げようとしています。

「このポシップのワインの伝統を続けなければならない。文化として必要です。それがコルチュラ出身の私たちの義務みたいなものです。島の人口が減っている中で、義務を果たさないといけないと思いました。そのためにザグレブの大学でワインの勉強もしましたし、今このワイナリーで、みんなで最高のワインを造ろうとしています。」

都市に移住したり、海外に移民したりしている、この島の多くの若者とは反対に、イゴルさんはコルチュラのため頑張ろうとしています。昔の造り方をベースに、常に最新技術を追っているこのワイナリーは、自分のブドウ畑を持っていません。昔と同様、スモクヴィツァ村の周辺の個人的なブドウ農家からブドウを買って、ワインを造っています。現在、毎年30万本ぐらいのボトルを造ります。

ポシップをメインにして、赤ワイン、ロゼ、スパークリング。20種類ぐらいのワインを出しています。その中で、The Dalmatian DogとMerga Victaというワインは、2020年のDecanter World Wine Awardsで金と銀メダルを取っています。

ブラックアイランドワイナリーは、販売本数で、コルチュラ島の一番大きなワイナリーです。その3割が輸出され、ヨーロッパのマーケットをはじめ、なんと日本まで来ています。10年以上使われていなくて、荒れ果てていたこのワイナリーは、リニューアルして、現在はとてもオシャレなところになっています。これからポシップの博物館、レストラン、そして小さいホテルまで建てる予定があります。そのすべては、コルチュラの大事な文化を保つためです。

若い職人 ビレワイナリー

コルチュラ島の原生ブドウの種類のもうひとつは、グルク(Grk)と言います。Grkはクロアチア語で、「ギリシャのもの」という意味があります。なぜなら、このブドウはギリシャの移住者がコルチュラで育てたと長年に思われていたからです。

しかし、数年まえに、ザグレブの大学で行われた遺伝子の検査で、グルクも、コルチュラ島原生のブドウだとの結果が出ました。

そのグルクの起源は、海沿いのルムバルダ村(Lumbarda)です。その情報は、コルチュラ島でもあまり知られていません。そのルムバルダで、フラーノ・ビレさん(Frano Bire)は、1993年からグルクの白ワインとプラーヴァツマーリの赤ワインを造っています。元々とても荒くて、安かったこのグルクのワインは、フラーノさんによって、Decanter World Wine Awardsでプラチナメダルを受賞できるように、とてもクオリティーが高いワインになりました。

フラーノさんが始めたワイナリーは、奥さんと息子さんたち三人の五人が、ブドウの収穫から、ワインのビン詰まで、すべてをやっています。23歳の次男のヨシップ ビレ(Josip Bire)さんは、ワインに対してのパッションを一番、濃く受け継ぎました。

「若いときは、ブドウ畑にばっかり居るお父さんを全く理解できませんでした。大人になってから、全部わかるようになりました。今、朝7時から、深夜2時まで、ずっとワインの仕事をしています。僕は、ワインのために、ワインを造っています。これは仕事ではない。僕のライフスタイルです。ワインは飲めるアートだと思います。世界で一番素晴らしい飲み物です。人間とブドウ樹の共存です。私たちのワインのラベルを見たら、ワインの名前が一番大きく書かれてる。ビレの文字は小さい。それは、ワインのほうが私たちより大事だから。100年後、私たちはもうこの世にいないときにも、このグルクと、グルクのワインが、存在していて欲しいからです。」

ブラックアイランドワイナリーのイゴルさんと同じく、ヨシップさんは、熱く、楽しく、そして長くワインのことを語ってくれました。ワインに対しての愛が伝わって感動してしまいます。去年から、お父さんの許可の得て、自分のワインを造るようになりました。話が少し広がると、びっくりする言葉も出てきます。

ヨシップさんとイゴルさん

「僕はずっと日本の職人にあこがれています。日本が大好きです。日本の職人のように、僕も仕事をしたいです。自分のことをすべてこのワインに捧げる。ブドウ樹から、最後のワインのテイスティングまで、すべて僕の手を通っている。それが僕のポリシーです。」

青く染まって、タコだらけのヨシップさんの手は確かに、その仕事に対しての専念の証拠になっています。なぜ日本の職人の文化に興味があるかをたずねると、さらに驚く返事がでてきます。

「ナルトの大ファンなんです!高校と大学の時『疾風伝』まで、全700話を見ました!ワイン以外、僕の唯一の趣味です。ナルトを見て、日本の文化をもっと知りたくなったんです。」

意外なところに、日本とコルチュラのつながりがありました。

クロアチアに行ったらコルチュラ島にも

クロアチアに興味ある方、そして、何よりもワインが大好きな方には、ぜひ、クロアチアの旅行をお勧めしたいです。そして、有名なザグレブやドブロブニクだけではなく、この小さなコルチュラ島まで、ぜひ来てください。ブラックアイランドとビレワイナリーをはじめ、その白ワインにとっても合っている生ハム、自家製のヤギチーズ、そしておいしい魚を食べながら、ワインを楽しめるところがたくさんあります。

そして、ビレワイナリーでヨシップさんとすれ違ったら、ぜひナルトの話で盛り上がってください。

ブラックアイランドワイナリー
URL:www.mergavicta.com/
ビレワイナリー
URL:bire.hr/

この記事を書いた人

Tomislav Curac
Tomislav Curac
クロアチア生まれ、フランス育ち、東京居住。
サブカルチャー専門ベテラン翻訳者
エレキギター4本もち
趣味でノイズメーカー
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