前回のシャンパーニュ・アンリオに続き、同じくランスから南へ約50km、車で1時間ほどの距離にある、「ペロ・バトー・エ・フィーユ」を訪問しました。コート・デ・ブラン地区のベルジェール・ル・ヴェルテュ村にある、レコルタン・マニュピュラン(栽培から醸造、販売まで行う小規模生産者)です。

白亜石灰質土壌のシャルドネの聖地

シャルドネの栽培地区として名高いコート・デ・ブラン(=白い丘)はその名のとおり、白亜石灰質土壌で、エレガンスとミネラルを備える『シャルドネの聖地』として知られています。

左)メゾンの地下セラーの壁の一部から白亜石灰質土壌の様子が見てとれる。
右)砕いた岩は、触るとヒンヤリと冷たく、さらっとチョーク質で指先を白くする。しっとりと水分を帯び、ブドウの根がこの水分を求めることを肌で理解する。

実際に地下にあるメゾンのセラーを見せていただくと、壁の石灰が水分を含んでいて、水滴がセラーの天井から沁み出て鍾乳洞のツララのようになっていることも目にすることができました。こんな白い土壌で育つシャルドネが、シャンパーニュに与える影響とはどれほど大きなものなのでしょうか。試飲をしつつ、お話をうかがいました。

15日前に改装オープンしたばかりというセラーを案内してくれたシンシアさん。両親から受け継いだメゾンを未来へ継承させるため、環境に配慮し、新しい取り組みも行っている。

築30年ほどのセラーの天井から石灰を含んだ水滴が鍾乳洞のツララのように垂れている。

メゾンの成り立ちは1985年に圧搾場を購入したことに始まります。

翌年には創業者ジェルヴェ・ペローの名からシャンパーニュメゾン・G・ペロ・バトーが誕生します。

ジェルヴェは経営に励み、妻メイリーンは畑作業と販売に勤しみますが、1999年に一時営業活動の休止を余儀なくされ、その後は畑でよりよいブドウを栽培することに専念しつつ、再起を期していたのでした。

それから10年の時を経た2009年、ジェルヴェとメイリーンの娘のひとり、シンシアは醸造家として複数のシャンパーニュメゾンで研鑽を積み、経験とともに両親の元へ、もうひとりの娘セリーヌはメゾンと顧客をつなぐ支局としてパリに在住することで、G・ペロ・バトーは家族の名前はそのままに、新生ペロ・バトー・エ・フィーユとしてメゾンを再起させたのです。

所有するプルミエ・クリュの畑のうち、95%はシャルドネ、5%はピノ・ノワールを栽培。環境に配慮し殺虫剤は使用せず、病害に対しては必要に応じて必要な処置を行うリュット・レゾネ(減農薬栽培)が行われています。メゾンの主力はブラン・ド・ブランで、エレガントで繊細、洗練と年ごとに現れる秀逸さが軸です。

ペロ・バトー・エ・フィーユがもっとも得意とするブラン・ド・ブランは4種類がリリースされています。

キュヴェ・エリックス プルミエ・クリュ ブリュット ブラン・ド・ブラン ノンヴィンテージ
メゾンのスタイルを体現するアイテム。プルミエ・クリュのシャルドネ100%。デリケートなミネラルとフラワリーな香り。かんきつ系フレッシュで余韻は長く、パンのような香ばしさが感じられる。

キュヴェ・エリックス プルミエ・クリュ ブリュット ブラン・ド・ブラン 2008
ブドウの出来が良かった年だけにつくられる。プルミエ・クリュのシャルドネ100%。瓶内熟成は7年と長く、アロマにかんきつ系果物やアーモンドパテが感じられ、味わいにもフレッシュさとフランス菓子のようなリッチさが複雑に存在する。

そしてロゼシャンパーニュは、5%のピノ・ノワールからつくられた赤ワインを12~15%(比率は年によって変わる)アッサンブラージュしたもの。

ペロ・バトー・エ・フィーユでは現在、ロゼシャンパーニュのボトルも緑ボトルへと移行しています。あえて透明のボトルをやめたのは、透明のボトルを製造するのには緑ボトルよりも酸素を約5倍も使用する、と知ったからです。環境に配慮したサステイナブルな取り組みの一環、とのことでした。

キュヴェ・エリックス プルミエ・クリュ ブリュット ロゼ
「女性に選んでもらいたいロゼよ」とシンシアさん。シャルドネがもたらすフレッシュさに、美しいサーモンピンクを授けるピノ・ノワール。野イチゴや木イチゴなどのフルーツに、燻したような複雑な香り。洗練と複雑さが味わいにふくよかさを与え、アロマが継続する。

キュヴェ・ヴィエイユ・ヴィーニュ プルミエ・クリュ エクストラ・ブリュット ブラン・ド・ブラン ノン・ヴィンテージ
ラベル貼る前の、真ん中のボトルがそれです。よく見るとボトルの形状も異なっているのがわかります。ドサージュは4g/ℓと、ぶどうの熟成状態が良好なためドサージュの量が少ない、とシンシアさんは語ります。

2014年と2015年収穫のブドウからつくられたアイテムはメゾンの特別なシャンパーニュです。

まだリリース前でラベルも張られていない状態でしたが、試飲させていただきました。ボトルも特別で、ネック部分が細く、銅の部分は太くなっています。

これはリュミアージュの際、澱をネック部分に溜めてデゴルジュマンの際に出やすくするためと、胴の部分が太い分、瓶内二次発酵中に澱との接触部分が広くなるため、とのことです(現在名だたるシャンパーニュメゾンでも採用されています)。

キュヴェ・エリックス プルミエ・クリュ ブリュット・ナチュール ブラン・ド・ブラン
フレッシュさと純粋さは、デゴルジュマン後のドサージュを一切していないことから生まれている。抜栓したてから繊細な燻香と蜜のような香りが感じられ、美しいミネラル感とともにイキイキとしたフレッシュさが与えられる。若々しいフルーツ感とグリルしたような複雑みが混然一体。余韻にキレイな苦味がアクセントとなる。

さて、ブランド名となっているペロ・バトー・エ・フィーユの、“フィーユ(=filles)”とは、『娘たち』を意味する言葉です。“ペール・エ・フィス=Père et fils(父&息子)”はよく目にしますが、“フィーユ”は見た記憶がありませんでした。

ワイン業界でも女性醸造家や広報をつとめる方々に多く出会ってきたし、21世紀を生きるわたしたちにとって女性の社会進出は珍しいことではないのに、メゾンの名前として、“娘たち”と称しているのはフランスでも珍しいそうです。

「なぜ珍しいの?」

直球で質問をすると、シンシアさんはこう言いました。

「(ワイン業界は)男性中心の世界だから」と。軽いめまいにも似た衝撃でした。

日本よりはるかに女性の社会進出が進んだフランスでの一幕。

「では、ペロ・バトー・エ・フィーユはシャンパーニュ界のパイオニアですね」と伝えると、「そうとも言えるかしら。でもすでに多くのマダムやヴーヴ(未亡人)がここシャンパーニュでは活躍してきたわ」と謙遜し、はにかむシンシアさん。

その通りだ。いや、でもこの試みも第一歩。同じ女性として勇気と希望をもらった気分でした。

家族が育むシャンパーニュ、レコルタン・マニピュランのペロ・バトー・エ・フィーユ。訪問はほんの数時間でしたが、多くのコトを教えていただいた貴重な時間となりました。

シャンパーニュメゾン・ペロ・バトー・エ・フィーユ
www.champagneperrot-batteux.com

インポーター:株式会社アンジュエ
www.enjoue-vin.com

この記事を書いた人

須藤千恵子
須藤千恵子
語学留学など世界複数国に滞在するなかで異文化と触れてきた経験と、帰国後にワイン輸入販売社勤務経験から、ワインと食の在り方など、独自のPR活動を行う。(社)日本ソムリエ協会ソムリエ、(社)日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMA、(社)日本フードアナリスト協会フードアナリスト。