カバがもたらす平穏

秋から冬にかけてのこの時期、この曲をカバとともに

今回、Shioriさんのセレクトは、いわゆるシャンパーニュ式につくられるスペインのスパークリングワイン、カバとスペインの作曲家、エンリケ・グラナドスの「オリエンタル」。この曲は、1892年、グラナドスが25歳のときから着手した全12曲からなる『スペイン舞曲集』のなかのひとつ。この曲を聞きながら、ゆっくりとカバとともに過ごすのは名案です。

パリ モンマルトルからスペインへ

Bonjour a tous♪

ピアニスト&ワインコラムニストのShioriです。

前回に引き続きお気に入りのワインと音楽のマリアージュをお届けしていきたいと思います♪

第1回にも出てきたスペインをテーマに今回のお話を始めます。

ふと思い返せば、私がフランス留学時代、帰国前最後に訪れた場所は
モンマルトルの丘の上に位置し過去には蝋人形館だったという歴史を持つダリ美術館でした。

モンマルトルには何十回も訪れていたのに、いつも《à la prochaine fois(ア ラ プロシェンヌ フォワ)》(また今度!)とお預けにしてしまい、帰宅してはやはり今回行っておけばよかったと後悔したものでした。

そこは今でもダリ自身がそこに住んで生活しているかのような、恐ろしく当たり前に街に馴染み、鑑賞していると作品への言葉を求めにやって来るような気配が漂っていて、何処と無く少し厳しいピアノの教授の家にレッスンを受けに行く感覚に似ていたから、何となく遠ざかっていたのかもしれません。笑

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住宅街の1階にひっそりと佇む。入り口にはおなじみのダリの顔。

スペイン北東部、カタルーニャ州地方フィゲレスに生まれたダリ。

実は私、カタルーニャという言葉を聞くと心が高鳴ります。アルゼンチン出身の巨匠ピアニスト、マルタ・アルゲリッチは元々先祖がカタルーニャから移住していてその姓はカタルーニャ発祥の姓だということは有名な話ですし、大好きなオペラ歌手ホセ・カレーラスや、私が初めて演奏したスペインの作曲家グラナドスもこの地に生まれていて、私の音楽人生に大きな影響を与えた人たちと所縁がある地なのです。

先日品川区にある「KIRIN STORE」で、そんな芸術家たちが眺めてきたバレアレス海を臨むバルセロナ郊外の村で作られたワインに出会いました。

ブルアント・ブルット・ナトゥーレ

KAA BRUANT Brut Nature, DO Cava(ブルアント・ブルット・ナトゥーレ/DOカヴァ)
ブドウ品種:パンサ・ブランカ

BRUANTというのはラベルにも描かれている鳥の名前。飲んだ瞬間、爽やかな洋梨のアロマの香りに包まれました。

このワインが作られたアルタ・アレーリャは実は国立自然公園内。そして”Celler de les Aus”と呼ばれる公園内に生息する鳥たちを使ったユニークな農法が用いられています。
スパーリングワインは舌触りが最初の印象として強く残り、良い意味でも悪い意味でもそれが味への感覚を鈍らせることがありますが、このワインからはまず豊かな香りが感じられ、なんとも贅沢な気持ちになりました。

1916年、グラナドス夫妻の乗った船は、Uボートの攻撃を受けて船体前部が破壊された。グラナドスは一度、救命ボートに助けられたが、海に投げ出されたままの妻を見つけると、再び海に戻り、そのまま二人は戻らなかったという

グラナドスは1867年7月27日、カタルーニャ地方の生まれ。写真は1893年、『スペイン舞曲集』を作曲していたころのもの

そんな時に聞こえて来るのは、やっぱりスペインの音楽。グラナドスのスペイン舞曲より、第2番オリエンタル。

実は私(実はが多いですね)、スペインに行く機会を二回も失っています。パリからスペインへの航空券はうまく買えば2000〜3000円で買うことがでるのですが、それもあって1度はパリでのコンサートが急に入ってしまい断念し、2度目は、、、、、前日の実技試験疲れで大幅に寝坊してしまい起きたらとっくに飛行機は離陸する時間でした。

最終的にスペインの地を踏んだのはポルトガルで受けたコンクールの帰りに24時間かけてバスでパリに戻った時につかの間の休憩時間に下車した時だけとなってしまいました。私にとってスペインは特別な楽園、どこか少し現実離れした憧れの場所でした。

この曲の始まりはとてもシンプルで回転するような音が並べられ、一気にスペインの街並みへの旅へと誘われます。

その後劇的なドラマがあるわけでは無いですが、穏やかな曲だからこそより一層聞く者の感情が深く染み渡り、深い哀愁漂う旋律から、まさに今回のワインのような味わいを感じられます。

この曲とワインを組み合わせて、なんの変哲のない普段の日々にこそ私たちの人生は描かれていることを教えられました。そして人生は想像以上にシンプルであることを、第一時世界大戦中ニューヨーク初演を終え船旅の帰路、英仏海峡で妻とともにドイツ潜水艦に魚雷攻撃を受け深い海にその人生を沈めたグラナドスは遺したのかもしれません。

是非みなさんそれぞれの思いを曲に乗せワインの味を心にメモして見て下さい。

この記事を書いた人

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Shiori
ピアニスト/ワインコラムニスト
ピアノ留学でパリに6年間暮らす。留学中は音楽だけでなく絵画や建築などの芸術、ワインや食の文化に触れ研鑽を積む。コンクール等で訪れたヨーロッパの国は20カ国以上。帰国してからのコンサート出演数は500回にのぼる。
フランスやイタリアの家庭に滞在し、豊かな食生活に触れ、ヨーロッパでワインを楽しむ時は、必ずそこに景色や会話、音楽の記憶が付随している事を感じ、日本でもワインに景色や音を合わせられるような存在を目指す。
ワインと曲のマリアージュを研究しており、ワインの香りや味わいに合う曲をイメージし、音楽とワインの新しい楽しみ方を提案している。

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