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続 ちょっとマニアックかもしれないラボの話

ワイナリーのラボで行われている「トライアル」とは!?

粘土、卵、ゼラチン、牛乳…およそワインとは関係なさそうな品々ですが、実はみなさんが飲んでいるそのワインにも入っていたかもしれません!

「ちょっとマニアックかもしれないラボの話」前編を読む

清澄化(Fining)とは?

ワインのサンプルたち

ワインのサンプルたち。品種によって色がさまざま

 

ワインメイキングの過程にFining(清澄化)という作業があります。ワイン中のタンニンやプロテイン、濁りを取り除く作業です。

それに使われるのが先ほど挙げた粘土や卵たち。ワインメイキングにゼラチンや粘土を使うなんてビックリしますよね。全くおいしそうじゃないですし…。

先日、わたしは学校のラボで卵白による「清澄化」を行いました。この「清澄化」の前には、卵白の添加量を決めるためのトライアル(実験)が必須です。

トライアルはわたしが大好きな作業のひとつ。

清澄化のために加える素材の添加量がたった数パーセント違うだけでも口当たりや風味がどんどん変わっていくので、比較するのがとてもおもしろいのです。

卵白を使うと、含まれているタンパク質とワイン中のポリフェノールが結合して底に沈み、ざらざらとしたタンニンを和らげることができるそうです。

ただし、不要なものだけを取り除くことができればいいのですが、どうしても一緒にフレーバーなども取り除かれてしまいます。そのためトライアルをしてから最適な添加量を決めるのです。

 

卵白だけのパック

卵白だけがパックになって売っているなんて知りませんでした。これにちょっと塩を混ぜて使います

 

“ラベリング”はラボ作業の基本

まずはラベルを貼って、どの瓶にどれだけ卵白を入れるかをはっきり書いておきます。この“ラベリング”もラボ作業の基本中の基本です

ピノ・ノワールの卵白清澄化トライアル中

ピノ・ノワールの卵白清澄化トライアル中。見た目は一緒ですが、味わいは全然違いました!

 

マイクロピペットを使い卵白を添加

マイクロピペットを使い卵白の割合をほんのちょっとずつ変えて、添加していきます

 

この写真は「ベントナイト」という粘土の一種。

ワインのサンプルにベントナイトを少しずつ添加

全然見えませんが、ワインのサンプルにベントナイトを少しずつ添加しています

ベントナイトは主に白ワイン中のプロテインを除去するのに使用されます。プロテインは熱に対して不安定で、高温になるとワインの白濁の原因となってしまうのです。

完璧な温度管理ができていれば、プロテインはさほど気にしなくてもいいかもしれません。ですが、ワインがどこで購入されて、どんな環境の中を移動するかはわかりません。それにワインの温度管理が大切であることを、誰もが知っているわけではありません。もし購入後、真夏の太陽の下で車内に放置されてしまったら…? ワインはゆだってしまいます。そしてそのワインを飲もうとしたとき、白濁に気づいたら… 理由を知らなければ「腐っているのでは…?」と不安になってしまいますよね。

そんなリスクを軽減するためにベントナイトを使ってプロテインを除去するのです。

ただベントナイトも要らない部分だけ取り除くという都合の良いことができないのが難点。そこで、風味の減退を最小限に留めるために、トライアルの登場となるのです。

ベントナイトトライアル

ベントナイトトライアル。ワイン+ベントナイトを試験管に入れて、ゆでます!

ベントナイトのトライアルでは、加熱することで強制的にワインが暑い場所に置かれた状況を作り出し、プロテインが凝固してワインが濁らない割合を見極めます。

加酸とは?

清澄化以外でも、何かをワインに添加する際にトライアルは必須です。

たとえば、Acidトライアルというのは、加酸のためのトライアル。加酸はワインを酸っぱくするためではなく、pHを下げるために行います。ワインのpHが高いと、微生物等の動きが活発になってしまいます。そのため品質を安定させるためには、ある程度pHを低く保つ必要があるのです。カレッジのワイナリーではpH3.5程度を目標にしていて、高すぎる場合はTartaric acid(酒石酸)を添加して調整しています。

調整を行うには、どれくらいのTartaric acid を添加すれば、pHが3.5になるのかを調べる必要があります。ワインを100ml採取し、pHを測りながら酸を加え、いくら加えたらどれくらいまでpHを下げることができるかを測定、記録します。
(すみません、写真がないのでわかりにくいですね…)

このようにいろいろな作業があるのですが、最終的にはワインメーカーである先生が、目指しているワインスタイルに合わせて決断をくだします。

清澄化も、毎回完璧にクリアな状態にするのではなく、様々な要素を総合的に判断して清澄剤を添加します。pHも必ずしも毎回3.5にそろえるというわけではありません。味や想定される飲み頃を考慮した上で、最適量が決定されるのです。

ワインメーカーが決定するための“判断材料”をそろえるというのも、ラボの重要な仕事。

今回ご紹介したような様々なトライアルと調整が行われて、ワイナリーごとにその特徴や哲学、思想を表現したワインが完成するわけです。といっても、ワインは生き物のようなもの。味や香りには、数値だけで計り知れない部分も多くあります。そのために、ワイン造りに関わる人たちが、まるで赤ちゃんを大切に育てるように、足繁くワインのもとに通って、少しずつ完成させていくのです。

ワインがグラスに注がれるまでに、どれほどたくさんの人の苦労や思いが込められて、どんなたくさんの実験や作業が行われてきたか…。造る側を想像しながら飲むと、また違った味わいになるかもしれませんね。

「ちょっとマニアックかもしれないラボの話」前編を読む

この記事を書いた人

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Saori
2014年よりアメリカはカリフォルニア州ナパにある、『Napa Valley Collage』に留学。ワイン醸造とブドウ栽培を勉強。ワイナリーのテイスティングルームで働くかたわら、ぶどうの樹の病気調査、畑作業なども経験。2018年10月に帰国。現在、WSET LEVEL4の勉強中です。

ナパやソノマでおすすめのワイナリーや、観光情報をこれからも発信していきます。

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