今や時代は「熟成肉」なのである。

「熟成肉」と言えば、ちょうど私がワインに興味を持ち始めた3年ほど前、お気に入りのレストランに「ドライエイジド・ビーフ」なるものが出てきて、「へぇ~、こんなのもあるのね」などと思ったが、その後、あっという間にメジャーになってしまった。以前、鴨や猪などのジビエは、何日か時間をおいてから食べた方が良いのだと聞いたことがあったが、古くから伝わる肉を美味しく食べる方法が近年脚光を浴び、ステーキの新たなジャンルとして確立されてきたというわけだ。

話題の肉は話題の場所で

銀座の新名所として、今年4月に華々しくオープンした「GINZA SIX」。かつての松坂屋銀座店跡地に建てられた巨大な複合施設だ。

オープンから約2か月が経った「GINZA SIX」は混雑もひと段落、入口からすんなり店内へ。

エスカレーターを上り始めるとすぐに、広々とした吹き抜けの天井からでかい「カボチャ」がぶら下がっているのが見える! 白地に赤い水玉模様のそれは、そう! あの草間彌生の作品だ。

 
ギンザシックス
草間彌生の水玉バルーン
 

奇しくも、4月に国立新美術館で開催されていた「草間彌生」展を見に行ったのを思い出した。御年88歳にして、いまだ物凄いエネルギーの塊! 驚くべき人物である。

私の好きな草間の「カボチャ」でワクワク感が高まる中、エレベーターに乗り換え13階へ。そこに降り立つと空気がガラッと変わる! シンプルで落ち着いた雰囲気と高級感に包まれたレストランフロアだ。このフロアは「お子様連れはご遠慮くださ~い」みたいなオーラがビシビシ出ている。大人向けの素敵な空間。

話題のお店は日本文化の発信基地!?

さあ!いよいよ話題のお店に潜入だ! 今日は、なぜか朝から「旬熟成GINZA GRILL」モード! その理由はあとでわかるのだが・・・。

「旬熟成GINZA GRILL」は、100日以上熟成した牛肉を提供することで話題を呼んできた六本木「旬熟成」の新店舗だ。「GINZA SIX」の地下2階には、「熟成肉」やオーガニック野菜を販売するショップも同時にオープンしている。

お店に入ると、中央に「囲炉裏端」を思い起こさせる大きなテーブルがあり、それを囲むように半個室と普通のテーブルが配置されている。開店間もない時間であったせいか、予約していなかったにも関わらず、素晴らしい景色が見渡せる窓際の半個室に案内された。他のお客さんは誰もいない、貸し切り状態だ。運がいいぞ!

店内は「和」の空間をベースにしながら、「洋」のテイストを上手にマリアージュした、不思議な雰囲気。これが妙に落ち着く。

くだんの「囲炉裏端」には美しい木炭が飾られ、その上部には和室の欄間のような彫刻、そしてたくさんのこけしが並んでいる。

銀座は東京のど真ん中、いやいや日本のど真ん中と言っていいだろう、外国人観光客も多いインターナショナルな場所であることから、2020年の東京オリンピックも視野に入れた店造りを随所に感じさせる。

いろり端

半個室の壁の上半分には黒地に金色で植物の文様が描かれ、壁の下半分は鮮やかな黒に近いブルーのレンガを模したタイル張りだ。そして壁にはなぜか「天狗のお面」が! 前日、BS日テレの「ぶらぶら美術・博物館」で京都・鞍馬山の特集を見たばかりだったので、「天狗」に不思議な引き寄せを感じつつテーブルにつく。天井には可愛いシャンデリアが二個。あれ? これ、もしかして葡萄かな? 真ん中は木の部分を見せ、料理を置くスペースに布地が組み合わされたテーブルは、和室や掘りごたつにも合いそうな素敵な一品。イスもシンプルで美しい。

半個室
 
天狗
 

器やグラスにも大事な役割が

まだ飲んでもいないのに、すでにいい気分になる(笑)
ランチは3つのコースから選ぶ。前菜の「発酵熟成牛麹味噌漬けの炙り」の文字に惹かれて、真ん中のコースを選んでみた。

シャンパーニュ
 

やっぱりスタートはシャンパーニュだろう! 白い花を思わせるフレッシュな香りときめ細かな泡がこれから始まる食事への期待感を高める。しかし、それもさることながらこのグラスのなんと美しいことか! ステムから下の部分は九谷焼だそうだ。デザインも日本文化を漂わせる。男性には暗い緑と黒地に金色の花、女性には可愛いピンク地に桜の花と花びら、それぞれデザインを変えて出してくるところがまた憎い!これは外国人観光客にも喜ばれること間違いなし!さりげない「和」のテイストによる演出が粋なのである。すっかり頭の中は「和」のモードに。

 

ところが! アミューズはなぜか「発酵熟成牛ミニハンバーガー」なのだ(笑)
意表を突かれたが、これは面白い! キレイにお皿に並べられた材料を、木製のピンセットを使って自分でハンバーガーを完成させる。

小さいながらも、しっかり熟成された肉を挟んでモグモグ。薄くセロファンのように揚げたポテトチップスが付け合わせだ。ちゃんとジャガイモの味がする! 自然と笑みがこぼれる。

 
アミューズのハンバーガー  アミューズのハンバーガー完成品
 
発酵熟成牛麹味噌漬けの炙り
 

次は、前菜その1「発酵熟成牛麹味噌漬けの炙り」だ。

待ってました~! 芳ばしい味噌の香りのする肉の上に、トマトのジュレをシート状に固めたものが載っている。丸い黒皿にトウモロコシの黄色いソースが映える。

う~ん、美味い!この味噌漬け肉をご飯に山盛り載っけて食べたい衝動にかられる!! シャンパーニュが進む(笑)

続いて、前菜その2「発酵熟成牛タルタル シャンピニオンソース」

細切りになった肉を卵の黄身のソースで食べる。肉には削ったチーズがかかっていて、箸でたっぷりつかんでソースに絡めて口の中へ・・・。

発酵熟成牛タルタル
 

あえてここでは、アルザスのリースリングにしてみた。熟成した肉と卵のトロッとした風味を、石灰、火打石といったミネラル感溢れるリースリングがすっきりと洗い流してくれて、これはいくらでも食べられそうだ。ここまでで、すでに夢見心地なのだが、まだ前菜は続く。

「熟成肉」には「熟成」ワインを!!

発酵熟成牛赤ワイン煮込み
 

前菜その3「発酵熟成牛赤ワイン煮込み カダイフ包揚げ ラー油ソース」

おっ! 今度は変化球!
中華風の前菜だ。カダイフとは、小麦粉で作った極細の麺状の生地のこと。元々トルコ料理のお菓子の材料なのだそうだが、今ではフレンチなど普通に使われている。

サクサクしたカダイフの生地を、箸でプチプチと切っていくと、中から赤ワインで煮込んだ肉が! ここはもう絶対赤でしょう! 誰が何といっても赤です!(笑)

ということで、バイ・ザ・グラスで「本日の赤ワイン」を。一般的に「ハウスワインはたいしたことない」と考えがちだが、こうした一級どころのレストランにはまったく当てはまらない。出てきたのは、ボルドー左岸、オー・メドック地区にある「シャトー・ラネッサン1998」!!

赤ワイン
 
ステムから下は九谷焼
 

「シャトー・ラネッサン」自体は格付けシャトーではないので、我々が普通にお店で買える案外リーズナブルなワインだが、由緒正しいそのシャトーは、オー・メドックの中でもサン・ジュリアンに近く、その畑の周りにはメドック格付け第2級のグリュオ・ラローズやデュクリュ・ボーカイユがあることから、素晴らしいワインを生み出す土壌・環境にあり、古くから「秀逸なシャトー」との呼び声が高い。

しかし、1998年のヴィンテージが出てくるとは!
やはり「目には目を!歯には歯を!」、「熟成肉には熟成ワインを!」なのだ!

「シャトー・ラネッサン1998」は、カベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルドのいわゆるボルドーブレンドだ。今から19年前に造られたそのワインは、色は濃いルビーを抜け、ガーネットに近い。グラスのふちには熟成を表すオレンジ色が見て取れる。香りは、黒系果実の華やかな香りに、湿った森の草やスーッとする森林の香り。そして、熟成した肉の燻製を思わせるスモーク香がうっすらと漂う。そして滑らかなタンニン。これは肉に合います!(涙) 肉とワインを味わいながら、ふと19年前の自分に思いを馳せてみる・・・。

 
ご満悦

で、極め付けが、メインディッシュ「発酵熟成牛炭火焼き 上赤身&特上赤身」。
100日間熟成させた牛の「シンタマ(内ももの下にある肉)」と「ランプ(腰からお尻にかけての肉)」のステーキが有田焼の美しいお皿に載っている。

写真をご覧ください!これはもう説明しなくてもいいか(笑)

発酵熟成牛炭火焼き 
 
カトラリー 

まずパッと見て気がつくのは、普段食べている肉とは色が違うこと。これって

ワインと同じだ! 熟成された肉は、赤からやや茶色へと変化するのだ。

お店の説明によると「肉を寝かせることで筋繊維の結着剤であるコラーゲンの力が弱まって柔らかくなり、たんぱく質が分解されてアミノ酸が増加することで、旨味が増して美味しくなる」のだそうだ。「シンタマ」の方がしっかりした食感、「ランプ」はとろけるようだ。どちらもふんわりとした熟成香があり、脂も赤身の中に溶け込んでいる。そこへ間髪入れずに「シャトー・ラネッサン」! 熟成されたもの同士の織り成すハーモニーはもはや言葉にならない。しばし呆然、そして溜息が出る・・・。涙と感動のメインディッシュのあと、いよいよ最終章へ(笑)

物語はいよいよ大団円へ

ご飯物として用意されたのは、「発酵熟成牛スジの一口カレー」。

ここまでやるか! 最後にカレーとは!

クレームブリュレを思わせるお皿(失礼!)には、肉を絡めた黒いカレーの上にご飯が! いろいろ趣向を凝らしたメニューで本当に楽しませてくれる。

 
カレー
 
デザート

いよいよデザート「メロンとライチのアイスクリーム」だ。青磁器のような美しい色のお皿にグリーンのメロンと白いアイスクリームが映える。う~ん、爽やかなライチの香りと甘酸っぱさが、口の中をリセットしてくれる。

感動しました。ご馳走さまでした。

このお店は、「熟成肉」を味わうことをコンセプトの中心に据え、完成度の高い肉を提供しつつ、それをいろいろなアイテムがサポートし、トータルとしていかに美味しい食事を演出できるかといったところにこだわりが見られた。

それは、日本の文化をアピールする「和」のテイストを散りばめたその店づくりであったり、食事やワインを供する器やグラスを愛でる楽しさの提供であったり、そして「熟成肉」にはただのワインではない「熟成したワイン」を合わせるのだという考え方であったり。言われてみればそのとおりなのだが、ちょっと「目からウロコ」なのである。

う~ん、やはりたまにはこんな素敵なお店に食べに来たいものだ。素晴らしい食事とワインは心を豊かにしてくれる。こうしたかけがえのない時間を、ぜひ大切な人と共有していただきたい。

 

ワインのそばにはやはり神様が!?

今日の予感は大当たり!来て良かった。大満足である。なぜ、そんな予感がしたのか?

その答えは、レストランフロアから外へ出た屋上庭園にあった。「GINZA SIXガーデン」と呼ばれる約4,000㎡の庭園には、爽やかな心地よい風が吹いていた。たくさんの人が思い思いに、この素晴らしい季節を楽しんでいる。そして、その庭園の一角に小さなお社が鎮座していた。

神社
 
碑
 

この「靍護稲荷神社(かくごいなりじんじゃ)」は、かつて松坂屋銀座店の屋上にあったものを「GINZA SIXガーデン」に遷座したものだ。元々は、江戸時代に伏見の本宮から勧請(かんじょう。いわゆるのれん分け。)されて江戸にお祀りされていた靍護大明神に、明治になってから豊川稲荷の神様を一緒にお祀りしたのだそうだ。そのご神徳により、その昔、関東大震災や日暮里の大火から松坂屋を守っていただいたのだと言う。

あの「GINZA SIX」の屋上に神社があったのか・・・。なんという引き寄せ。今日は神様のお告げだったのだ。もちろん、ちゃんとお詣りしてきました(笑)  私は常々、人間も、ワインや肉と同じように時間(年齢)を積み重ねることで「いい味わい」になり「熟成」すると思っている。現在、私は51年もののヴィンテージだが、果たしてそれに相応しい「熟成」した人間になれているだろうか?

今回、素晴らしい「熟成肉」を食べ、「熟成ワイン」を飲んだことで、少しは自分も「熟成」したと思いたいところだが、88年もののヴィンテージ、草間彌生先生から見れば、まだまだ可愛いものである(笑)

人生、日々勉強! 人間の「熟成」にゴールはない。

この記事を書いた人

石戸 智
石戸 智
数年前にワインに出会ってから、すっかりハマり、昨年50歳を迎えたことを契機にワインエキスパート呼称資格を取得。それが人生の転機となり、今年3月で25年間務めた仕事(某市役所職員)を退職し、ワインと心中することを決意!
今後はワインの伝道師として、一人でも多くの人に、ワインの素晴らしさを伝えていきたいと思っている「さすらいのワインエキスパート」です。目下、WSETの資格取得を目指して勉強中!(今年度中にレベル2・レベル3を取得することが目標)
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