ルーシヨン・ワインの基礎

南北の二つの地区別に見るルーシヨン・ワインの魅力再発見

アペラシオンの特徴

ルーシヨン・ワインが深く世に認知されるとは到底思えない。筆者もそこまで、この地方に強い関心を持ってワインを飲んだことがあったかどうか。広く、ラングドック・ルーシヨン(Languedoc-Roussillon)という風に、ラングドック地方と一括化されて、その違いを語られることは少ない。

ルーシヨンのワインは、AOC ラングドック(Languedoc)を名乗れ、ミュスカ・ド・リヴザルトの一部は、オード県で生まれる。地質的にもルーシヨン北部はラングドックのそれと同じである。そして、葡萄の品種構成もほぼ一緒である。ここまで一緒だと、同地方と思われても仕方ないのだが、それでも実際に、ルーシヨンのワインは、ラングドックとは違った性質を持っているし、彼らは自分たちをラングドックと同一化して物事を考えていない。

1977年3月28日にAOCとして認定された、コート・デュ・ルーシヨン(Côtes du Roussillon)とコート・デュ・ルーシヨン・ヴィラージュ(Côtes du Roussillon Villages)は、この地方の基本となるアペラシオンである。最盛期の1880年代には葡萄畑面積は約76000haあったが、その後、フィロキセラ禍にあって面積は縮小した。復興後の1970年代には約72000haまで戻ったが、それがピーク。現在は緩やかに減少中で約22000haである。

全体の収量は31hl/haとかなり低く、フランス一の収穫量の低さを誇っている。家族経営の造り手が多く、平均的な葡萄の所有面積は10ha、約2400の小さなワイナリーが多く存在する。この地方の栽培農家全体の58%は葡萄栽培に従事している。

協同組合の成立は早く、1907年であり、現在は約30社存在する。どちらかというと、若手の有機農法指向の生産者が小さなワイナリーで成功しているのに対し、長期熟成を経て精度を上げる甘口VDNなどを作るのは協同組合の方に歩がある。

葡萄品種は、カリニャン(赤,Carignan)、グルナッシュ(赤,Grenache)、ムールヴェードル(赤,Mourvèdre)、シラー(赤,Syrah)、グルナッシュ・グリ(灰,Grenache Gris)、グルナッシュ・ブラン(白,Grenache Blanc)、マカブー(白,Macabeu)、ミュスカ・ア・プティ・グラン(白,Muscat à Petits Grains)などの品種が使わる。ルーシヨン・ワインはラングドックと同じく、基本的にブレンドしなければアペラシオンを名乗れない。

現在の生産ワインの比率は、赤ワインは69%、ロゼワインは26%、白ワインは5%と圧倒的に黒葡萄に適している。AOCラングドックの白ワインが全体比の10%を占めているのと比べても、その違いがわかる。

ルーシヨンは、典型的な盆地型の地勢である。北はコルビエール(Corbières)山脈、西はピレネー(Pyrénées)山脈と、カニグー(Canigou)山、南はアルベール(Albères)山地が広がる。

 

グルナッシュ品種

コート・ド・ルーシヨン・ヴィラージュ・トータヴェルのグルナッシュ品種。この地方には他にも、ララドネール・ペリュ(赤,Lladoner Pelut)、サンソー(赤,Cinsault)、マルヴォワジー・ド・ルーシヨン(白,Malvoisie du Roussillon)、マルサンヌ(白, Marsanne)、ルーサンヌ(白,Roussanne)、ヴェルモンティーノ(白,Vermentino)、ミュスカ・ダレクサンドリー(白,Muscat d’Alexandrie)などが植えられている。多産性のミュスカ・ダレクサンドリーは、AOCの中ではルーシヨン地方のワインでしか認められていない。

この複雑な地質を持つルーシヨン地方ではあるが、最も重要なポイントは、この地方が生まれるきっかけとなった、ピレネー山脈の形成である。

古第三紀造山運動、すなわちアルプス造山運動の一部として発生したピレネー山脈は、アフリカ側にあったイベリア大陸がユーラシア大陸と衝突したことによって生まれた。アフリカ・プレートがユーラシア・プレートの下に滑り込む形で二つの大陸は一体化し、その過程において3000m級の高い山地が隆起した。

それ以前の造山運動によって生まれた古い地層が押し上げられ、地質年代的には若いのだが、古い時代の岩石が露出した山岳地帯が生成することになった。すなわち、変成岩・花崗岩・火山岩・ペルム紀の堆積岩などである。さらに第四紀の氷河期を経ることで、押し上げられた土壌が削られ、氷礫岩が生まれ、中部盆地の礫土壌は形成された。

ルーションの地図2

ルーシヨンでは、トラモンタン(Tramontane)という風が吹く。プロヴァンスのミストラルという北西風に比較される強い北風だ。「この風は、まずなによりも病原菌を吹き飛ばしてくれる。だから、他の地方に比べてビオロジックが行いやすい風」ではあるが、「開花期に吹くと、結実が上手くいかなくて、収穫量が下がる」そうである。さらに、強い風が吹くということは、枝芯の脆い品種は植えにくいということだ。長所ばかりではない。copyright(CIVR)

この複雑な地層構造の、この地方の魅力と個性をよりわかりやすく、簡潔に理解するために、思い切って北と南の二つの地区に分わけてみた。もちろん、北と南だけで、単純化できるほど簡単ではないのだが、未踏の地を制覇するための足がかりとして区分することは理解のスピード化に繋がる。

南北の境界線は、県のちょうど中心を東西を通り、ペルピニャンを経て地中海に流れる、テート(Têt)河。ルーシヨンにはもう二つの河、アグリー(Agly)河とテック(Tech)河があるが、この真ん中の河の影響からワインの詳細を理解するのが早い。北はラングドック寄りの個性、南はスペイン寄りの個性を持つ。北のワインは果実味に溢れ、浮遊感を持った、直角で、厳めしい個性を持つから、つまるところそれは山のワインである。

それに対し、南のワインは、土っぽく、どっしりして、楕円形のフォームと、緩やかさを持つから、それは海のワインである。北部の土壌が、喩えるならば、北ローヌのサン・ジョゼフ(Saint-Joseph)のようなであるならば、南部は南ローヌのジゴンダス(Gigondas)のようなワインである。

赤列車の車窓からの風景

赤列車(Le Train Rouge)という、リヴザルト市からモリーのあるフヌイヤード(Fenouillèdes)まで続く旅行用列車にのって旅する。シスト土壌の崖の中を進むと、切り立った急な斜面の谷間に小川が流れる。カーゼ・ド・ペネ(Cases de Pène)村が目に入る。ここはフランス一のアプリコットと桃、サクランボの生産で名高い。ところどころ、鉄分が豊富だと思われる、赤褐色色したシストの土壌を見る。

この記事を書いた人

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染谷 文平
こんにちは、フランスに滞在中のソムリエです。現在、パリの一つ星レストラン、Neige d’été(ネージュ・デテ)にてシェフ・ソムリエの職についております。レストラン業を続ける傍ら、ワイン造りをより深く知るために、Bourgogneと Alsaceにてワイナリー勤務も経験しました。ワインが生まれる風土、環境、歴史に強く関心があり、ブログ(http://fwrw.blog137.fc2.com
も綴っております。Wine Whatでは、生産者の生の声や、ホットな情報をいろいろと書いて行きたいと思います。

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