サントリーホールに「ブドウ畑」があるのをご存知ですか?

サントリーホール。
クラッシックが好きな人なら、一度は訪れたことがあるのではないか。「世界一美しい響き」をコンセプトとして1986年にオープンした、東京で最初のコンサート専用ホールだ。私の大好きな世界的指揮者「炎のコバケン!」こと、小林研一郎先生の指揮するベートーヴェンの交響曲第5番「運命」を初めて聴いたのは、まさにここだった。

そのサントリーホールが、昨年開館30周年を迎えたことを契機に、今年2月から全面改修を行い、そして今月1日にリニューアルオープンした。そこで、この素晴らしいタイミングに合わせて、サントリーホールが主催するリニューアル後、初となる「バックステージツアー」に参加してみることにした。

クラッシック通の隠れた楽しみ「バックステージツアー」

今日は、普段関係者しか入れない場所へ入れてくれるという。これは楽しみだ! しかも無料(タダ)である(笑)
まずはホールの正面玄関上部に設置されている「パイプオルゴール」が我々を出迎えてくれた。これは正午と開場時に壁が開いて「ブドウ畑」の番人をイメージした老人と少年がオルゴールを回す仕掛けだ。パイプは、大ホールに設置されたパイプオルガンと同じ素材でできている。

ホール外観

サントリーホール外観

 
オルゴール

正面玄関上のパイプオルゴール

 
オルゴール

パイプオルゴールに少し近づいて

 

エントランスから中へ入ると、マホガニーの壁、大理石の柱、赤い絨毯に彩られたエレガントで重厚な雰囲気のホワイエが待っている。いつ来ても、この非日常的な空間が、これから始まるコンサートへの期待を「ぐっ!」と高めてくれるのだ。

ホワイエ

重厚な雰囲気のホワイエ

小ホールは「不可能の代名詞」

レセプショニストに案内され、まずはホワイエ左手にある小ホールへ。この小ホールは「ブルーローズ」という名で呼ばれている。従来「青い薔薇」を栽培することは非常に難しく、英語で「Bule Rose」と言えば不可能の代名詞とされてきた。しかし、2004年にサントリーがバイオ技術を駆使してついに「青い薔薇」を完成させると、それは「不可能を可能にする神の奇跡」、「夢をかなえるもの」の象徴に変わった。

そして、いつの日か大ホールで演奏することを夢見る若いアーティストたちの、新たな挑戦の場になるようにとの願いを込めて「ブルーローズ」と名付けられたのだ。入口上部には、彫刻家 須田悦弘氏の木彫りの「ブルーローズ」が飾られている。「ブルーローズ」はリサイタルや室内楽コンサート用で、椅子はオーストリアのバックハウゼン社製、シャンデリアはスワロフスキー社製(アルゼンチンのボデガ・ノートンの所有者。知ってました?)だ。床は全面張り替えされた寄木細工造り。ここで記録映像「サントリーホールの誕生」を鑑賞する。

小ホール入口

小ホール入り口

 
小ホール

小ホール

 
ブルーローズ

木彫りのブルーローズ

 

サントリーホールは美術館!?

いよいよツアーがスタート!まずは、ホワイエ内を説明していただく。
サントリーホールのロゴは「響」という漢字をモチーフにしている(同じ名前のウイスキーもある)。カラヤン広場にあるゴールドの大きなモニュメントも「響」をイメージしたもので、いずれも彫刻家の五十嵐威暢氏の作品。

次に、エントランスの内壁にあしらわれているモザイク壁画。これもやはり「響」をイメージした作品で、日本を代表する抽象画家の故 宇治山哲平氏の手によるもの。

サントリーホールロゴ

「響」をモチーフにしたサントリーホールのロゴ

 
モザイク画

「響」をイメージしたというモザイク壁画

 
ステンドグラス

ステンドグラス

 

そのモザイク画の両サイドにある素敵なステンドグラスは、ガラスアーティスト三浦啓子氏の作品。

いつもコンサートに来ると、ホワイエ内は非常に雑然としているので、ゆっくりと壁面など見る余裕がなかった。木彫りの「ブルーローズ」といい、言われてみて初めて「へえ~!」なのである。今度コンサートに来たときは、もっとじっくり見てみよう。

サントリーホールはコンサートホールでありながら、ひとつの美術館でもあるわけだ。

 

そしてホワイエの天井へ目をやると(普通はあまり目をやらない!)、巨大なシャンデリアが!

シャンデリアの名前は「光のシンフォニー 響」。蒸留したアルコールの滴(しずく)をイメージしたスワロフスキー社製のクリスタルガラスを6,630個も使っている。作者は世界的な照明デザイナーの石井幹子氏。

クリスタルガラスの一粒一粒がでかい! 手にずっしりくる。

 
 
シャンデリア

滴をイメージしたシャンデリア

 

今度は2階へ向かう階段の手すりとその壁面にご注目。サントリーと言えば「プレミアムモルツ」(笑)! そしてビールと言えば、そう! 「大麦麦芽」である。手すりと壁面は、大麦の「穂」をモチーフにしたデザインなのだ。いろいろと芸が細かい。次は足元の赤い“ふかふか”の絨毯。これは、ミュージック、音の旋律をイメージしているのだそうだ。

階段

大麦の穂をモチーフにした階段の手すり

 
絨毯

音の旋律をイメージしたという絨毯

 

ステージ下手って、どっち?

大ホールの入口近くに3枚の記念プレートがある。向かって右から、サントリーの2代目社長であり、サントリーホールの初代館長であった佐治敬三を讃えるもの。隣がサントリーホールの建設にあたり協力した世界的な指揮者、故 ヘルベルト・フォン・カラヤンが佐治にあてた手紙だ。カラヤンは、サントリーホールオープン後の公演で「このホールは音の宝石箱のようだ」と感想を語り、その感謝の気持ちを手紙にしたためた。一番左は「佐治敬三さんに感謝する音楽家の会」からのもの。このプレートの上下には、ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱」の旋律が刻まれている。

記念プレート

記念プレート

さぁ、通路を歩いてステージの「下手」へ向かおう!ところで「下手」ってどっち? 業界用語では、ステージに向かって左手を「下手」、右手を「上手」と呼ぶのだそうだ(今度、通ぶって言ってみよう)。大ホールの両サイドを囲む通路の絨毯も張り替えられて“ふかふか”だ。

マエストロの楽屋からステージまでは歩いて何歩?

待ってました! 今日はここが一番見たかったのだ! ステージ下手にあるマエストロ専用の「楽屋A」だ!。楽屋からステージまではざっと10歩くらい。ここがステージに一番近いのは、楽屋で高めた集中力を保ったまま演奏に臨めるようにとの配慮だそうだ。これはカラヤンのアドバイスなのだという。楽屋内もグラスウールという素材の壁が使われていて、防音効果抜群! 静かな空間で集中力を高め、それを素晴らしい演奏につなげるのだ。ここからあのコバケン先生が歩いてステージへ出てくるのだと思うと、ちょっと胸が熱くなる・・・。

下手袖口

下手袖口

 
楽屋

楽屋入り口

 
楽屋A

楽屋A室内

 
楽屋A

楽屋Aの洗面所

 

一方、お隣の「楽屋B」はコンサートマスターやソリスト用だ。中で練習できるように、音がよく響くフローリングの床だ。後ろ髪を引かれる思いで楽屋をあとにすると、ちょうどステージの真裏に来る。ここは「アーティストラウンジ」。演奏者たちが出演前後にリラックスできる場所だ。ロッカーには、過去に出演した世界中のオーケストラやアーティストが記念に貼ったステッカーがびっしり! ここには昨年解散した、あの国民的アイドルグループのサインも!(わかります?)

アーティストラウンジ

アーティストラウンジ

 
ステッカー

アーティストが記念に貼ったステッカー

サイン

出演アーティストたちのサイン

サイン

あのアイドルグループのサインも

 

ステージ上手から地下空間へ・・・

上手の袖まで移動して来た。ここの床材は米松(べいまつ)という松の木。これはステージの床材と同じもの。

ステージと同じ素材を使うことによって、演奏前最高潮に緊張の高まる演奏者たちの気持ちを、足元から乱すことのないようにしたいという、きめの細かい配慮だ(ここまでやる?!)。

そして、エレベーターでいよいよ地下空間へ。もしかすると、ここに“秘密のカーヴ”があるのでは!

なかった・・・(笑)

 
上手袖口

上手袖口

 

でも、ここは大事なスペース。楽器等の搬入口とピアノ庫だ。楽器は非常にデリケート。振動に弱いので、移動には細心の注意を払う(ワインみたいだ!)。そしてピアノ庫では、ちょうどグランドピアノの調律作業の真っ最中だった。サントリーホールではピアノを12台所有していて、それらは常に室温23.5度、湿度50%に調整された部屋で保管されている。面白いなぁ! これもまるでワインじゃないか! ちょっと温度は高くて、湿度は低いが(笑) ふう! ここまでで前半終了。

搬入口

搬入口

 
ピアノ庫

ピアノ庫

 

お昼休みはパイプオルガンの音色でまったりと

サントリーホールでは、月イチでお昼休みの時間に合わせてパイプオルガンの無料コンサートを行っている。バックステージツアーのプログラムにも組み込まれているので、素敵な音色を聴きつつしばし休憩だ。これでようやく大ホールに入れる(笑)

誰でも入場できるせいか、結構お客さんがいる。仕事の合間にこんな風に素敵な音楽を聴きにくるのもいいかもしれない。

パイプオルガン

パイプオルガン

 

パイプオルガンは大ホールの象徴だ。このオルガンは、オーストリアのリーガー社製。オルガンは、演奏台の鍵盤と「ストップ」と呼ばれるノブの操作によって特定のパイプだけに風が送り込まれて音が出る仕組みだ。オルガンも今回の改修に併せてオーバーホールを行った。5,898本あるパイプはすべて手造りで、錫と鉛の合金でできている。

 

これを一旦すべて外し、つぶれを補修したり、磨いたり。メンテナンスに一か月、音の調整に一か月費やした。

今日の演奏者水野均氏によると「オルガンは、長い年月を経て、設置された空間に馴染み、唯一無二の楽器へと熟成される」のだという。まるでワインが熟成するように、30年の時が経つ間にオルガンの木製部分やパイプがこの場に馴染んで、「サントリーホールのパイプオルガン」でしか表現できない複雑な音色を響かせるようになるということなのだ。オルガンもワインのように呼吸し、生きているんだなあ。

大ホールの座席も「ブルーローズ」と同じバックハウゼン社製。布地とクッションを張り替え、木製部分の補修を行っている。あれ? この座席のデザインはもしや?
荘厳で柔らかな音色と“ふかふか”の座席が、いい意味で眠気を誘う・・・(笑)

ついに念願のステージに立つ!

オルガンコンサートのあとは、いよいよサントリーホールのステージに!
マエストロと同じ下手の袖口からステージに出る。う~ん、いい眺めだ。思いのほか客席が近く感じる。さぁ、ここでついに「ブドウ畑」の謎が解き明かされるときが来た! この大ホールの画像を見て、なにか感じませんか?

大ホール

大ホール

そう! これが客席をブドウの段々畑に見立てた、日本初の「ヴィンヤード形式」のホールなのだ。

2,006席ある座席が、太陽に向かう「ブドウ畑」のようにステージを向いているため、素晴らしい音色がすべての座席に光のように降り注ぐのだという。

この「ヴィンヤード形式」を佐治に強く勧めたのがカラヤンなのである。そのときカラヤンはこう言ったそうだ。

「音楽とは演奏家と聴衆が一体となって創り、ともに喜び、楽しさを分かち合うものだ」、だからこの形式がいいのだと。

ぶどう畑

ぶどう畑

座席
 

ステージからの眺めは美しい「ブドウ畑」そのもの!

それぞれの「畑」にはワインレッドの座席が。その座席にはたくさんの「ブドウの房」があしらわれている。

音楽はまるで、降り注ぐ太陽の光のようであり、聴衆はその恵みを戴くブドウのようだ。

 

「さぁ、うたいましょう!」

なんと!最後はレセプショニストに促され参加者全員で「ドレミのうた」を歌うことになった。一体、何百年ぶりなんだろ?「ドレミのうた」を歌うなんて!(笑)

大ホール

大ホール

 
大ホール天井

大ホールの天井

 

そんな心配をよそに「世界一美しい響き」を持つホールは、素人の我々が歌っても実に美しく、ホール全体に歌声を響き渡らせてくれた。上手い下手は別にして・・・。

あ~、「サントリーホールヴィンヤード」の見学、本当に良かったな!

あ、そうそう! サントリーホールは、日本で初めてアルコールを提供するバーコーナーを備え付けたホールなのだそうだ。その名は「INTERMEZZO(インテルメッツォ)」、イタリア語で「間奏曲」という意味だ。

ツアーのあとは「INTERMEZZO」でシャトー・ラグランジュ(サントリーが所有するボルドーのメドック格付け第3級シャトー)でもと思ったが、残念ながら今日はやってなかった・・・(涙)

 
バーとクリスタルガラス

バーとクリスタルガラス

資料

当日いただいた資料

どうです? 貴方も一度、サントリーホールへ素敵な「ブドウ畑」を見に行ってみませんか?

この記事を書いた人

石戸 智
石戸 智
数年前にワインに出会ってから、すっかりハマり、昨年50歳を迎えたことを契機にワインエキスパート呼称資格を取得。それが人生の転機となり、今年3月で25年間務めた仕事(某市役所職員)を退職し、ワインと心中することを決意!
今後はワインの伝道師として、一人でも多くの人に、ワインの素晴らしさを伝えていきたいと思っている「さすらいのワインエキスパート」です。目下、WSETの資格取得を目指して勉強中!(今年度中にレベル2・レベル3を取得することが目標)
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