毎年11月の第3土曜日に始まるフランス中部ブルゴーニュ地方のワインの祭り「栄光の3日間」がボーヌを中心に開催された。注目の2017年のブルゴーニュワインの値段を決めるチャリティオークションの結果のほか、最大関心事の今年のワインのできばえについて、パリ在住の浅野ゆりさんがリポート。

 

慈善オークションの結果について

かつての慈善病院オテル・デューは現在、歴史的建造物に指定され、ボーヌの観光名所に。

毎年のブルゴーニュワインの値段を決めると言われる、ワイン商・ワイン愛好家にとって欠かせない情報であるオスピス・ド・ボーヌ(ボーヌ施療院)の慈善オークション。

今年の結果および、ワインの出来についての情報、今回ボーヌの「栄光の3日間」にて試飲をしたオスピスのワインの感想や、実際に自分の目で確かめてきた現地の様子をお伝えします。

今年で157回目となる慈善オークションにかけられたのは計50キュヴェ(白ワイン17、赤ワイン33)、787樽(白は157樽、赤は630樽、すべて228Lのブルゴーニュ樽)。2016年は596樽でしたので、191樽増えたことになります。

外会場からもオークションの様子がうかがえる。

フランス国営テレビ「フランス3」からの生中継。

まずはオークションの結果からお伝えしますと、2017年の利益は1352万9301ユーロ(約17億8766万円・手数料込)にて、前年の840万ユーロ(約11億円)を大きく上回っただけでなく、2015年に史上最高と言われた1130万ユーロ(約14億円)を超えて、史上最高額を塗り替えました。フランスの国営テレビ局の発表によりますと、今年は8,6%値上がりしたようです。

オークションの様子。

また、ワインの利益が慈善団体に贈られる「会長の樽『コルトン・グラン・クリュ クロ・デュ・ロワ』」は、例外的に2樽オークションに出され、2樽で42万ユーロ(約5500万円)に達しました。

落札したのは、ブルゴーニュの名門ワインメーカー、アルベール・ビショー。落札価格42万ユーロのうち、ネゴシアンのアニマ・ヴィナムが1万ユーロ出資したようです。

収益は、アルツハイマー病の研究基金、脳の研究財団、そして気候や海の研究機関タラ・エクスペディションの3つの機関に寄付されます。

このオークションでは1万ユーロまでは500ユーロ刻み、それ以上になると1000ユーロ刻みで増えていくシステムになっているのですが、「会長の樽」に関しては35万ユーロで一度止まり、にっちもさっちもいかない状況に陥ってしまいました。

そこでファシリテーター(進行役)の一人を務める、シャンソン歌手/俳優のシャルル・アズナヴールさんがこう言いました。

「もっとその上を目指すことは可能です。私たちは健康で、目もよく見えます。後ろに続く人たちを助ける義務があるのです」

この言葉に押される様にして、42万ユーロまで積み上がったのです。人を救いたいという気持ちが表れているアズナヴールさんの言葉と、その言葉に共感した人たちがたくさんいることにジーンときました。



オスピス・ド・ボーヌの精神

オスピス・ド・ボーヌは、フィリップ善良公の大法官ニコラ・ロランによって貧しい病人の救済のために1443年に建築されて以来、寄進されたブドウ畑から造られたワインを販売することで、病院の費用を賄っていました。

現在、病院の機能はボーヌ市街中心のオテル・デュー建物内ではなく別の場所に移されましたが、病院の設備を賄うためのワイン造りと販売は続き、1978年より売り上げの一部を慈善団体に寄付しています。

現在、オスピスは約60ヘクタールのブドウ畑を所有し(そのうち85%がグラン・クリュとプルミエ・クリュ)、支配人で栽培・醸造責任者であるリュドヴィン・グリヴォー氏により選考された23人が栽培を任されています(一人約2.5ヘクタールずつ担当)。



2017年は「エキブリストの年」

オスピス・ド・ボーヌ初の女性醸造責任者。

グリヴォー氏は2017年について、「エキリブリスト(直訳すると曲芸師、バランスを取りながら離れ業をやってのける人)の年」と表現しました。

1年を通して移り変わりが激しかった気候にブドウの栽培チームは右往左往させられたものの、七転び八起き、最終的には素晴らしいワインを造ることができたヴィンテージという意味にとれます。

以下、彼女が振り返る、今年の気候とブドウの生育に関する回顧録の要約です。

「あたたかい日差しがぽかぽかと照り付けながらも気温が低く雪解けが遅かった冬、2ー3月は例年よりもあたたかく、ブドウの樹の周期が早く始まり、4月上旬まで順調のように見えた。4月中下旬には、大きな霜の脅威に脅かされ、ブルゴーニュ中のブドウ栽培者が冷や汗をかき、眠れぬ夜を過ごした。

ムルソー、ヴォルネー、ポマール、ボーヌ、サヴィニー・レ・ボーヌ村では村中、夜中に交代で畑に火を灯し、対流を生み出し霜がブドウ樹を襲うのを防ぐ、前代未聞の処置がとられた。幸い、被害はとても小さく済んだ。その間、湿気がブドウ畑にとどまるのを恐れて、畑の仕事は最小限にとどめたものの、蕾が出てくるのをひやひやしながら眺めた。

5月中旬からは一転、ブドウ樹は抑制のきかない速さで成長し、1週間に3~4つの葉がどんどんと生えてきた!
6月は暑すぎてブドウ樹の成長が止まってしまった区画もあった。
7月には少し雹がコート・ド・ニュイに降ったが、これが最後の脅威だった。

オスピスの収穫は、8月26日と27日にプイィ・フュッセから始め、コート・ド・ボーヌの白を9月1日、赤を9月2日から始めた。綺麗なブドウ、健全で、2016年のそれとは比べ物にならないほどであった。

2017年はここ10年のうち、3つの早熟な年に入るヴィンテージといえる」



事前試飲会での印象について

オスピスの醸造所。

整然と並んだ樽。当日かなり混むので、すべて試飲するのに2時間半以上かかる。

午前中にオスピスの醸造所にて行われる事前試飲会(一般入場料25ユーロ+グラス5ユーロ ※グラスの持ち込み可)では、すべてのワインが試飲できます。

今年の「会長の樽」である、コルトン・グラン・クリュ クロ・デュ・ロワ。最後のブルゴーニュ公の死去に伴い、フランス王室所有のクリマとなったため、この名前がついている。

「コルトン・グラン・クリュ クロ・デュ・ロワ」については、印象は「静」。

すみれ色の外観にすぐりとブルーベリーが混ざり合ったアロマ、酸味とドライフルーツの果実味のバランスが良く、舌の上に残るスパイシーな印象の余韻は10秒ほど続きます。

個人的には、「クロ・ド・ラ・ロッシュ」のパワーあふれる味わい(マロラクティック醗酵が終わっておらず、還元臭が目立っていましたが)と、「バタール・モンラッシェ」の柔らかながらも凛とした、女性的なニュアンスのキュヴェが印象に残りました(その後「バタール・モンラッシェ」は最高額13万8650ユーロ、「クロ・ド・ラ・ロッシュ」は9万4000ユーロにて落札されました)。



コルトン・グラン・クリュ クロ・デュ・ロワについて

1924年に女男爵ベイ(Baronne du Baÿ)が寄進したアロース・コルトン周辺の畑の一部であり、テロワールをより明確に表現するため2007年よりグラン・クリュのみ分けて醸造されるようになりました。

クロ・デュ・ロワ全体で8.65haのうち0.84haをオスピスが所有しており、赤ワインを産出。畑はコルトンの丘の中でもやや東側の斜面中腹に位置し、アロース・コルトン村を見下ろす東向きのクリマ。斜面最頂部に位置するル・コルトンLe Cortonと下部のレ・ブレッサンドLes Bressandesの間に挟まれています。オスピス所有の区画の45%が樹齢40才以上、55%が14~26才のブドウ樹から構成されています。



オスピスに寄進された畑について

2017年にベルナール・クレールBernard Clerc(ドメーヌ アンリ・クレール)より寄進されたピュリニー・モンラッシェ(クリマ名レ・ルーショー)の畑19haからの白ワインが1キュヴェ増えました。ピュリニーの中でも北側の、ムルソー近くに位置しています。今回の初めてのオークションでは、1万9000ユーロにて落札。

当日はなぜか試飲できず。残念!



【オマケ】写真で紹介するお祭りの様子

同じ週末に開催される大試飲会「フェット・デ・グラン・ヴァン・ド・ブルゴーニュ」。

毎年恒例の「香りのアトリエ」。ワインの様々な香り(果物、花、革、乳製品、カカオetc……)がカテゴリ別にシリンダーに入っている。



今年の新アペラシオン、「ブルゴーニュ コート・ドール」のワインも。

「栄光の3日間」中のボーヌ市内の様子。ブルゴーニュの伝統料理の牛肉の煮込み「ブッフ・ブルギニヨン」の屋台や、「ウッフ・オン・ミュレット」(ワインの中で半熟のゆで卵をつくり、ブッフ・ブルギニヨンに似たソースの上に載せた、ブルゴーニュ地方に長く伝わる家庭料理)の出店もありました。寒いなかですが、暖かい料理と焚き木で人々は暖をとっていました。

この記事を書いた人

浅野ゆり
浅野ゆり
フランス歴8年のワイン・シャンパーニュエクスポーター。ワイン醸造学校での2年間の学生生活の後、ブルゴーニュのドメーヌで研修、2014年にフランスのワイン国家資格取得。ワイン輸出業者数社にて経験を積み、パリの一つ星レストランでのソムリエールも経験、「美味しいワインで幸せな時間づくり」をモットーに、ワインの輸出へ。シャンパーニュやその他ワイン産地の通訳案内もしている。