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あなたは絵の具の“シエナ色”を知っていますか?

ときどきイタリア見聞録 トスカーナ地方・シエナ編 その1

トスカーナ地方の緑豊かな自然の中に、旧市街地の赤煉瓦造りの景観を誇って現存する中世の古都・シエナ。この読者コラムをご覧になっている方であれば、それこそ地産のキャンティワインを楽しむためにはるばる足を運んだ経験のある方もいらっしゃるでしょう。

青春の酔いも甘いもカンポ広場は知っている

今年の10月、2度目のイタリア渡航へ。 前回は結局シエナを本拠にローマやフィレンツェなど中部を中心に見て回ったため、いつかまた行かなくてはと思っていました。シエナは規模の小さな街ではあるものの、街そのものが「シエナ歴史地区」として世界遺産に登録されるほどの美しさで、中世後期からルネサンス時代の芸術作品の宝庫でもあります。だから見ごたえいっぱいで、 あまりいろいろなところを回らずに帰国してしまったのです。

そこで今回は、全体的にもっと現代ものの展示会・展覧会が盛んな北方の様子を見て回るルートをとりました。ミラノやベニスを経て、ついに2009年の8月に滞在したシエナに到着。ベニスからフィレンツェを経由してシエナへと向かう途中に、電車の車窓から次第にトスカーナ特有の糸杉の風景が視界に入るようにときになったときには感動の気持ちを抑えられませんでした。

シエナfs駅に到着後、母校のシエナ外国人大学に少しだけお邪魔しました。前回の留学時にお世話になった大学の研究者の方と待ち合わせて再会。さまざまな国籍の女子学生の声が耳にかしましく響く放課後の校内で打ち合わせをしたのち、“世界で最も美しい広場”として有名なカンポ広場のバールでお茶をすることに。

カンボ広場

現代人には施工困難に思われる曲線美のカンポ広場。左端がマンジャの塔と市庁舎

この広場では、いつも人が無防備に寝転がっていて、同じ広場という名前でもローマのスペイン広場の喧騒を笑ってしまうほど静かな空間が広がっています。もはや 「本当にイタリアなのか?」と思うほどの治安の良さ。それもそのはず。〈カンポ=campo〉とはイタリア語で野原を表す単語で、まるでおとぎ話の世界のように老若男女が集って語らい、恋人達が愛を囁き合っています。

秋の夕空にそびえ立つシエナの街のシンボルであるマンジャの塔と市庁舎を横目に、私がいた頃と比べて変化したことを伺いました。まず、大きく変わったのは日本語に興味を持って学んでいるイタリア人学生が年々増えているということ。日本の国内にいると意外に感じますが、確かに他の地域でも日本へ旅行したことがあると語ったり、片言以上の日本語で話しかけてきたイタリア人に出会う頻度は前回より多かったように思います。

最近は学校側が主導でタンデム(ランゲージ・エクスチェンジ)の時間を設けていて、放課後に日本人とイタリア人の学生同士が互いの母語を教え合うことが流行っているのだそうです。さらに、大学そのものも開校100周年を迎えて制度の転換期を迎えているそうでした。当初は、イタリア語教師を養成することや、外国人にイタリア語を教育するために開かれた語学学校の役割を果たしていましたが、外国語大学としてもっと多目的に開かれた研究拠点としての活動を活発化していてアラビア語、韓国語、ポルトガル語などさまざまな国や地域の言語を受講できる体制が整いつつありました。あまり長い時間の滞在ではありませんでしたが、百聞は一見にしかず、実際にこうして足を運んでみると意外な情報を手に入れられるものだと実感しました。

そうこうしているうちに、ふと食前酒のグラスに視線を落とすと夕焼けに染まった白ワインの海にマンジャの塔と市庁舎が映り込んでいることに気づかされます。

この旅で最高の一枚

この旅で最高の一枚

もう、どんな絵画よりも絵画的な溜息の出る一瞬…
まだ私が大学生の時に会って以来、はや8年も経ったからいい大人になったものだなんて話をしていると、もれなく時間の経過を感じさせられましたが、とても楽しい時を過ごすことができました。

と同時に…前回訪れた頃と比べて大きな成長のない未熟な自分の存在に気づかされ、目の前の食前酒のように私自身もこれから時間をかけてじっくりと醸造されなければ故郷から離れた地で暖かく歓迎してくれた方々への恩返しにはならないのだなあと反省しました。

(その2につづく)

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TANNO KANAKO
1988年生まれ。フリーライター。大学在学中、西洋美術史を専攻して教会芸術に魅了されたことをきっかけにイタリア語を学び、シエナ外国人大学への語学留学を経験。以来、日本とは大きく異なるイタリアの価値観に興味・関心を深めています。

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