1月から通っていたデジタルワインマーケティングコースで、たった一人の日本人の受講生として何を考え、どうふるまったか振り返ります。
ある日の授業風景

ある日の授業風景

いきなりプロフェッショナル向けのコースに挑戦

Corso di Alta Specializzazione in Marketing per il Vino nell’Era DigitaleはFondazione Italiana Sommelierという、イタリアの主要なソムリエ協会によるデジタル時代に即したワインマーケティングのコースです。週に1回4時間のコースが1月から5月まで続き、理論のみならず実践的なグループ学習ではケーススタディーを通してオリジナルのエノテカ、ワイナリーを発案します。

講師陣もROMA SAPIENZA大学の教授、外資金融機関デジタル部門ディレクター、シニアソムリエなどそうそうたる顔ぶれです。

約30名のクラスメートはソムリエ、ワイン卸売業、ワイナリー経営者、ジャーナリスト、レストラン経営者等ほとんどがワインのプロフェッショナル職で、年齢層も50代以上のベテランが多く、学生や愛好家はごく少数でした。

いわばワインプロフェッショナルの梁山泊ともいえるこのコースに、無謀にも参加してから、私の葛藤と試行錯誤の日々が始まりました。

生徒もどんどん発言するイタリア式授業に驚く

私は昨年12月の時点で、イタリア語検定試験の一つCILSのB2レベル(中上級でイタリアの大学入学時のイタリア語試験は免除される)には合格しており、既に日常会話やワイン醸造に関しては問題なくコミュニケーションできるレベルでしたが、授業で使われるマーケティング理論や用語が私にとっては初見のものが多く、ついていくのが大変でした。

しかも困ったことに、イタリア人は授業中に講師が話している最中もお構いなく、質問や意見を活発に交わします。

日本では通常講義は大人しく聴いて、最後の質疑応答のコーナーで初めて挙手して発言するのが暗黙のルールですので、この文化の違いには面喰いました。

講義や一対一の会話なら理解できますが、イタリア人同士が論争していると私には早すぎて分からないのです。 それでも何とか爪痕は残そうと、私も日本におけるイタリアワインの位置づけや、日本人の嗜好について積極的に発言するように心がけました。

日本人だから不利なんじゃなくて、日本人だからこそ別の視点で物事を捉えることができると思うのです。

エノテカ マントラ

その名もエノテカ マントラ

怒号も飛びかう激しいグループ学習

3月に入るといよいよ実践編のグループ学習が始まりました。

15人程度のグループに分かれて、与えられたケーススタディーの条件下で、既成観念に囚われない理想のエノテカとワイナリーと創りだすのが私達のミッションでした。

エノテカのケーススタディーの条件は、ローマ郊外のVITERBOという中規模の古都で、食と音楽に関心のあるブロガーと50代ヨガ講師が100㎡の敷地でエノテカをオープンするというものでした。

そこで私達のチームは、ヨガもできるエコロジーを意識したエノテカを創ることにしました。

嗜好性や行動特性のトレンド分析、ニーズ把握、地域内のライバルエノテカ分析とマッピング、ターゲット顧客層選定、ポジショニング決定、ワインのラインナップ特定、エノテカ内でのアクティビティ企画、ローンチ方法、SNS広告戦略、顧客ベースの取得方法、果てはエプロンのデザインまで議論すべきことは多岐に渡りました。

ケーススタディーだからといって、決して気を抜かないのがイタリア人。そしてそれぞれがこだわりを持っていて一家言を持つのがイタリア人。

いきなり風水で空間設計を始める人もいて「えっ?! 今風水必要?! ギャグなの?」と目を白黒させたことも。

時として議論が白熱して怒鳴りあいになることもありました。私は彼らの会話のペースについていけなくて、たまに発言してもスルーされたり、全否定されることもあり、日本人だから差別されているのではと疑心暗鬼になりました。

ところがよく見てみると、彼らは自分の意見を述べるのに懸命なだけで、決してそこには差別意識とか派閥意識とか日本で流行りの忖度というものはなく、ただ優れたものを生み出したいという情熱があるだけだと気づきました。

私はヨガ経験者として、ヨガをするのに相応しい空間(明度、床の素材等)について助言して、少しずつ彼らの仲間として受け入れられるようになりました。

寿司に合うワインSABI新登場!

一方、ワイナリーのケーススタディーの条件は、ローマ郊外フラスカティで30代の建築家とその友人が叔父からの畑18haを引き継いで、既にあるマルバジア種以外に好きな品種を栽培して、新しいワインを発売し、エチケットデザインやテクニカルシートも作成するというものでした。

架空のワインSABI

注:このワインはフィクションです

 

枝葉末節の末節からスタートするのがイタリア人だから、さあ大変です。

どの品種をどれだけ植えるのかについて、チームには専門家である現役ワイナリー醸造家やソムリエがいるので、皆が侃侃諤々と議論を戦わせ、終わりがないように思えました。

そこで授業時間以外にも私達はSNSツールを使用して、メッセージのやり取りを毎日して、ようやく意見がまとまり、各国の料理に合わせたワイン7種を創ることにしました。

寿司に合うワインとしてGEISHAという名前に決まりそうだったのを全力で引き留めて、SABIという名前の白ワインを考案しました。

あるソムリエが本物と見まごうようなテクニカルシート(ブドウ品種、栽培法、醸造法、料理との相性等の一覧)を作成してくれました。

この他、実在しないワイナリーなのにinstagramを作成する人(作成したインスタグラムページはこちら)、グラフィックデザインを駆使してエチケットをデザインする人、ワイナリーの歴史について詩的な文章を書く人等、各々が得意分野を活かして、一つの目標に向かって進む、このイタリア人のクリエイティビティには感心しました。

ワインに限らず、全てのもの造りにおいて一見ばらばらでまとまらないようにみえて、一致団結して各々の個性を発揮するイタリア人の美点であり、この情熱がイタリアの文化、芸術、産業を進化させてきたのだと思いました。

古代ローマ時代からイタリア人達はきっとこんな風に議論を重ねて新しいものを創りだしてきたんだろうなと想像すると、なんだかとても愛おしくもあり微笑ましくもあります。

乾杯

時にはワインを飲みながらディスカッション

無事にコース修了し感無量

こうして最終日を迎えてプレゼンテーションを発表し、筆記試験も終えてコースを無事に卒業しました。

分厚いマーケティングの教科書を読みこなして、筆記試験に上位で合格したのも大きな自信につながりましたが、なんといっても時にはけんか腰になりながらも共に学んだチームの仲間と培った友情が、私にとっては宝物です。

この記事を書いた人

MINA
MINA
外資系金融に長年勤務するも、イタリアワインが好き過ぎて2017年9月よりローマ近郊のビオロジコ、ビオディナミコのワイナリーMARCOCARPINETI にてブランドアンバサダーとして研修生活を送ることに。
ワインもイタリア語も勉強中ですが、持ち前の行動力と好奇心を活かして、イタリアのワイン、人、文化の魅力をリポートします。
MARCOCARPINETI(http://www.marcocarpineti.com/)