アンフォラワインとは
アンフォラとは素焼きの壺で、諸説ありますがイタリアでは紀元前2000年頃からワイン造りが行われていたと言われていて、古代ローマ時代においてはワインの熟成や食材の保存用のために用いられていました。
日本でも昨今ジョージア(旧称グルジア)のアンフォラ(クヴェヴリ)仕込みのワインが人気ですからご存知の方も多いのではないでしょうか?
樽熟成だと木やローストの香りがつくので、ブドウ本来の風味を活かすためにイタリアでも近年アンフォラを使用するワイナリーが増えてきました。
お披露目は地下遺跡で密やかに
私がブランドアンバサダーを務めるMARCOCARPINETIのこのアンフォラワインプロジェクトについては昨年Paoloから聞いてましたので、この日を心待ちにしていました。
新作発表の会場となったのはローマの中心地コロッセオ近くに位置するCASE ROMANE DEL CELIOという古代邸宅の発掘遺跡でした。
地下にはフレスコ画が今でも鮮やかに残り、考古学的、宗教的にも重要な文化財であることがわかります。
はやる気持ちを抑えて地下へと進んでいくと、洞窟のような一角がありました。ここからは2名か3名ずつの少人数で歩くことになり、おしゃべりも厳禁だそうです。
暗がりの中を歩を進めるとそこにいたのは、、お化けではなくPaoloでした。
ボトルではなく素焼きの小さなピッチャー型の容器からグラスに注いでくれました。通常試飲会ではこちらが口にするや否やワインの品種、製法、収穫年について説明を受けるのが常ですが、こちらが感想を述べるまでPaoloは何も言いません。
あとで聞いたところによると、飲む人にまず感じてもらいたいから説明はあえて避けて、儀式のような厳かさや瞑想の静粛さを大事にしていたとのことでした。確かに飲んでるそばから矢継ぎ早にいろいろ話しかけられるとワインを味わうことに集中できないし、言語による先入観を持ってしまいかねないのでこのプレゼンテーション法は非常にユニークだと思います。
一筋縄ではいかないその味わい
2015年収穫の土着品種Bellone100%を用い自然酵母による発酵後、8ヶ月アンフォラによる熟成を行いさらに12ヶ月瓶熟成を行い約3年の時をかけてようやく登場しました。
黄金色したこのワインはBelloneの芳醇さ、ドライ、ほろ苦さなどの特徴を持ち合わせながらも、その後味はBelloneのたとえとしてとして用いられるアーモンドではなく、麦芽のような苦味や干し草のような香りがあります。
アンフォラ熟成のためか独特の複雑みや奥行きが感じられ、わかりやすいフルーティーさはなく酸味も控えめで落ち着きがあり、「静謐」という言葉が相応しいと思いました。
同じくBELLONE品種を用いたワインCAPOLOEMOLE BIANCOがステンレスタンク仕込みなのでフルーティーでフレッシュで朗らかな「陽」のイメージだとすればこちらは「陰」のイメージがあります。
満を持してボトルが登場
いよいよプレゼンテーション会場でボトルの登場です。その名は、、、、
「NZU」(ズと発音する)でした。
あまりのシンプルな名前にずっこけそうになりましたが、これはMARCOCARPINETIのあるCORI地方の方言でイタリア語でINSIEMEつまり一緒に、共にという意味があります。
土着品種BELLONE、馬による耕作、自然酵母による発酵、アンフォラによる熟成など大地からワインに至るまでもちろん関わる人間も含めてのNZUを構成するもの同士のつながり、共に盃を交わす人と人とのつながり脈々と受け継がれてきた過去の先祖の叡智と現在の技術の融合というつながり、じつに水平方面だけではなく時空も越えた垂直方面のつながりをも意味します。
エチケットのワイン名の下に一本の線が描かれていますが、これは脈々と受け継がれる伝統や歴史のつながりを表しています。
原点回帰としてのアンフォラそして土着品種
MARCOCARPINETIのあるCORIはローマ建国(紀元前7世紀頃)よりもその起源は古く、紀元前10世紀から9世紀頃には入植がなされて都市として成立していたといわれています。
Belloneは古い起源をもつ白ブドウ品種で、古代ローマ時代にはすでに普及しており博物学者プリニウス(A.D.23-79年)の『博物誌』に太陽のもとでパンと共に愉しむブドウと引用されています。
以前の記事(https://www.wine-what.jp/webwriters/25559/)でも紹介したMARCOCARPINETIのモットー「Andiamo avanti guardando al passato.過去に培った智慧を大切しながら前に進もう」をまさに体現するのがこのNZUなのです。
伝統的手法アンフォラ×土着品種Belloneのこの組み合わせが原点回帰のためには不可欠でした。悠久の歴史に思いをはせながら味わう一杯は格別でした。
いつか日本の皆様にもNZUで乾杯して頂ける日が来ることを望んでいます。