ワインブームも頂点に達し、ファンの夢は自分が蔵元になること。醸造することへの関心は高まっている。筆者は醸造を学べるコースとして人気がある、塩尻ワイン大学の二期生として合格し、入学する機会を得たことで授業内容にそっての体験レポート公開を許された。

醸造免許をもつ、全国で唯一の高等学校

2018年9月8日から9日にかけて長野県塩尻志学館高等学校をお借りして、塩尻ワイン大学の醸造実習が行われた。実はこの塩尻志学館高等学校は、全国でも数少ない酒類の醸造免許を保有する高校である。

ぶどう栽培⇒醸造⇒瓶詰め⇒ラベル貼りまでの行程を全て生徒の皆さんが行っている。そこで造られたワインは塩尻志学館高校ブランドの「KIKYOワイン」として国産ワインコンクールでも銅賞を受賞するなど、品質・味とも高く評価されている。長野県原産地呼称管理制度認定ワインにも選ばれている本格的なワインを教育目的で造ってしまうという、ユニークな高校なのだ。

「KIKYOワイン」は赤・白・ロゼの3種類。あくまでもワインづくりの学習として醸造が行われているため、生産量はそれほど多くはなく、販売は新酒の季節(11月)と学園祭(7月)のみで、通信販売などは一切していない。長野県では他に須坂園芸高校、南安曇農業高校、下伊那農業高校でもワインづくりが行われているが、その生産量は200リットル以下に限られている。塩尻志学館高校では、現在は5000本から7000本のワインがつくられ、多いときには1万本にも達する。

ナイアガラの収穫

最初に、塩尻ワイン大学ニ期生の臼井喜子さんの圃場にて、ナイアガラ321KGを受講生たちと共に収穫作業を行った。生食用の葡萄で出荷前とのことで、親子と言われている不揃いなものを中心に収穫させていただく。

臼井喜子さんの旦那様も、かつて塩尻ワイン大学で学んだ一期生だという。ところがお仕事が忙しく、二年間で無念の中退。その後に奥様が二期生として入学し、ご主人の想いを奥様がリベンジ中である。臼井夫妻は広い圃場を管理されていて、有名なワイナリーにも醸造用ブドウを納品されている。手入れの行き届いたブドウ畑を見ると、ご夫婦の誠実さが伝わってくるかのようだ。

 
臼井喜子

塩尻ワイン大学二期生&日本(JSA)ソムリエ協会ワインエキスパートの臼井喜子さん

 
圧搾機

使用した圧搾機

 
酵母や酵素

使用した酵母や酵素

ブドウから兵器を作るという、意外な戦争の歴史

塩尻志学館高校が醸造免許を取得した1943(昭和18)年は、太平洋戦争の真っただ中。あらゆる物資の生産や供給が統制され、学生までも労働にかり出された時世に、どうして高等学校で醸造免許が交付されたのかと、疑問に思う者も多いだろう。

ブドウには「酒石酸(しゅせきさん)」という物質が含まれているので醸造すると、オリの中や樽の内側に「酒石」が白い結晶となって現れる。その酒石を集めて精製した「酒石酸カリウム-ナトリウム」は、別名「ロッシェル塩」と呼ばれ、潜水艦や魚雷の発する音波を捉える「水中聴音機(パッシブ・ソナー)」の素材として用いられていた。

旧日本海軍は1942(昭和17)年6月のミッドウェー海戦で大敗した直後、潜水艦などの探査技術を習得させるため同盟国ドイツに人員を派遣している。ドイツは音波を素早く捉えるロッシェル塩を使った音波レーダーを既に艦船に装備し、効果を発揮していたので、日本軍はこの兵器を量産するためワイン醸造場に酒石の採取を求め、ワインづくりは軍需として奨励されたのだ。このため、食糧増産体制のもとで閉鎖の危機にあった全国のブドウ園は難をまぬがれた。

海軍は東芝などに依頼してロッシェル塩を使って潜水艦探知用のソナーを量産する態勢を構築。政府も海軍の要請を受けてワイン造りを奨励し、製造免許数を増やしたり、醸造に必要な統制品の砂糖の割り当てで便宜を図ったりした。そんな時代背景の中で、塩尻志学館高校に製造免許が交付されたのだが、まもなく終戦となり、志学館高校で製造されたワインの酒石酸は結果として武器として使われるに至らなかった。

それでも戦争という時代背景の中、国内で課税されたワインは1945年度、約3420万リットルと前年度の2.6倍に急増しており、国内にワイナリーが増設されたのである。
(国税庁税務大学校租税史料室のホームページより一部抜粋)

一方、酒石酸を抜かれた不味いワインが市場に出回り、そうやって造られた酢のような味のワインは飲むと飛びはねるほど酸っぱいので「ラビットワイン」と呼ばれた。その影響で、風味が落ちて酸敗した飲み物がワインであるという間違った認識は、戦後になっても近年までワイン普及の足かせとなった。

志学館高校にて、圧搾から醸造まで

塩尻志学館高校教諭でもあり、塩尻ワイン大学の講師でもある高橋千秋氏により、さきほどの志学館高校の歴史を説明いただいた後は、ワイン造りにおいてどれほど分析が大切かを教えられた。しかし、まだ私たち大人は良い環境で取り組める。志学館高校の生徒は未成年なので、試飲はもちろんテイスティングも許されないのだ。彼らがワインの良し悪しを知るのは官能検査(※1)のなかでも「香りと色、あとは分析」に頼るのみ。
※1;官能検査(かんのうけんさ)または官能試験(-しけん)とは、人間の感覚(視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚など)を用いて製品の品質を判定する検査をいい、食品、香料、工業製品などについて用いられる。(Wikipediaより)

志学館高校では、生徒に粋な計らいがある。2013年の春から卒業生の分のワインを取ってあるそうで、成人したときに自分たちの仕込んだワインが飲めるのだ。赤ワインは樽で1年、ビンに入れてから1年熟成させるので、収穫してから2年後にしか飲めない。卒業してちょうど20歳になったときに、自分たちの仕込んだワインが愉しめるという、素晴らしい計らいである。もっと早くにこの高校の存在を知っていたら、ぜひ進学したかったと切に思う筆者であった。

この記事を書いた人

Misa "Pixie" Shimada
Misa "Pixie" Shimada
海外ワインオークション代理人として、ワインの個人輸入をサポートしながら、都内のワインバーやワインショップをプロデュース。
六本木にあるワインバーのチビッコマダムでもある。
2018年春に応募者多数で狭き門の塩尻ワイン大学二期生に合格し、現在は塩尻市に通いながら、葡萄栽培と醸造を勉強中。
近い将来にワイナリー創業を目指している。
落札代行「ワインオークションクリマ」http://www.climat.org/auction/

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