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マルケ州の若きシュール・リーの名手Rocco Vallorani

寡黙な造り手と裏腹に饒舌なワイン

マルケ州の3世代続くワイナリーAZIENDA BIOLOGICA VIGNETI VALLORANIを訪問しました。

Rocco

緑の風が吹く丘で

真摯な造り手 Rocco

牧歌的にして理知的、哲学者のような静寂さの中にある狂気じみた情熱、伝統とアバンギャルド。ここまで両極的な要素を持つワイン、造り手に会っただろうか。

Rocco Valloraniはマルケ州Colli del TrontoにあるワイナリーAZIENDA BIOLOGICA VIGNETI VALLORANI(https://www.vignetivallorani.com/azienda/)の3代目を担う醸造責任者です。1963年に祖父母が始めたワイン、オリーブオイル農家を2010年から父と弟で営み、土着品種を用いて伝統的な手法を醸造に取り入れたワイン造りをしています。

Roccoは若い時から醸造家を志し、ペルージャとトリノの大学で醸造学を学び、シュール・リー(リーズ・コンタクトともいい、滓と分離しないでワインを熟成させること)の研究を卒業論文としてまとめ、ニュージーランドとアメリカのオレゴン州のワイナリーで実践的な修行をしました。

家族経営の小さなワイナリーなので、栽培、醸造、PR活動、ホームページ制作、写真撮影、地元レストランへの配達、発送作業まで自分達でこなしています。

ワイナリーはアペニン山脈とアドリア海の間の約海抜200メートルの丘陵地帯に位置し、トロント川が近くを流れ、粘土質の土壌です。

訪問したのは12月でしたので、もう収穫はとっくに過ぎている季節ですが、畑に化学肥料等を使用しないので下草が青々をしています。トロント川から吹く風が心地よく頬をなでます。

サステナビリティを意識したブドウ栽培、ワイン造りをしており、太陽光発電によりワイン製造の約80%の電力をまかなっています。化学物質はもちろん動物性物質を用いないワイン製法のビーガン手法を取り入れています。このような土着品種を大切にして環境に配慮した姿勢が評価されイタリアスローフード協会からスローワイン賞を受賞しています。

ワイン

斬新なエチケット

ありきたりではないワイン

AVORA(Falerio DOC BIO)はPecorino, Passerina, Trebbiano品種の白ワインです。ハーブの青さ、硬質なミネラルが最初に感じられますが、一番特徴的なのは彼の専門分野であるシュール・リー由来による味の厚み、複雑さ、旨みです。日本語で形容するのが難しいのですが、単にフルーティーというのではなく、このような旨みもあるワインのことをイタリア語でSapidoと表現しますが、この言葉が相応しいと思います。

Konè(Rosso Piceno Superiore DOP BIO)はSangiovese e Montepulcianoの赤ワイン。一口含むとみぞおちあたりにぐっと力がみなぎる感じがするとても力強いワインです。

このあたりは代々小作人として農地を耕してきた地域であり、毎日肉が手に入るような裕福な環境ではなかったから、ワインというのは食料でもあり明日への活力の源でもあったと話すRoccoの言葉に私はハッとしました。

現在の日本ではワインは、嗜好品であり、ある意味贅沢品という位置づけで捉えられていますが、もとは農民の生きる糧だったのです。

LEFRIC(Trebbiano DOC BIO)はTrebbiano e Malvasiaの白ワインで祖父の時代の伝統的なワイン製法をあえて用いています。2日間温度コントロール無しで常温でかもしと自然発酵後シュール・リーで熟成させます。何も足さない、何もひかない手法から生まれたワインは、決して洗練されてはいないけど、荒々しい大地の力が印象的。

最近エチケットをこれまでの苗字のVのデザインのみのクラシックなものから、地元アーティストによるコンテンポラリーなデザインに変更しました。単にスタイリッシュなだけでなく地元愛も感じられます。

カンティーナ

静かに時を待つ樽

こだわりが感じられるワイン名

ROCCO自身は口数も少なく、饒舌ではない。そのかわりにワインを通してこの土地そしてワイン造りにかける思いを伝えているます。例えばAVORAはアドリア海に吹く北風ボラのこの地方の方言、Konèは方言で大切なもの、LEFRICは傍若無人な自由人を意味しているし、この他のワインにも祖母のニックネームやVOLLORANI家の代々の通称名を用いる等土地に根ざした命名をしています。

初めて出会ったSLOW WINEのイベント会場でも、グイグイ前に出る生産者やPR担当者が多い中で、まるで哲学者のような静かな佇まいだったのを今でも覚えています。でもよく話してみるとロックが好きだったり、反骨精神にあふれていたり、両極的な要素を兼ね備えている人物であり、それがワインにも反映されていると感じました。

日本にはまだ輸入されていませんが、ローマ市内のMARCO MARTINI RESTAURANT COCTAIL BAR(https://marcomartinichef.com/)やビオレストランなどで取り扱っています。

ローマにいながらにしてマルケ州の風を感じてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

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MINA
外資系金融に長年勤務するも、イタリアワインが好き過ぎて2017年よりイタリアに渡航し、ローマ近郊のワイナリーMARCOCARPINETI にてブランドアンバサダーとしてPRや翻訳を担当しワインの研鑽を積む。滞在中にイタリア中を旅して出会ったイタリアのワイン、人、文化の魅力を伝えます。

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