憧憬。

廃墟からの再生−洞窟住居都市「マテーラ」のおはなし。

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『マテーラの洞窟住居群』1993年、ユネスコ世界遺産に登録。「ドゥオーモ」を中心にして、北に「サッソ・バリサーノ」、南に「サッソ・カヴェオーゾ」。この二つの岩山の居住区を「サッシ」(複数形)と呼ぶ。

「イタリアの町ではどこが一番好きですか?」と、しばしば聞かれることがありますが、答えに困ってしまう質問です。何故かというと「○○です」と簡単には言えないくらい、イタリアには魅力のある「まち」があるからです。その中の一つ、今回は「マテーラ」のおはなし。

ここは長靴形のイタリア半島の、ちょうど土踏まずにあたるバジリカータ州に位置し「サッシ」と呼ばれる洞窟住居群で有名です。サッシ地区は第二次世界大戦後、南イタリアの「悪夢」といわれ、キリストさえも見放したという貧しさの象徴でした。人間と家畜が同居する非衛生な生活環境などを理由に、住民は新市街へ強制移住させられ、1960年代には廃墟と化してしまいました。

「行きたいけどなかなか行けない。行くには思い切りがいる。行くからには時期を見よう。」そんなこんなで、サッシの「恐ろしい程に迫力ある景観」にTVで釘付けになってから15年後の2010年6月、やっとのことでマテーラ行きが実現したのです。

ゴローザが見たのは、まさに再生されつつあるマテーラでした。価値観というものは時代と共に変わるもの、歴史的な都市の保存再生、住文化の見直しに政府も国民も本気になったのです。芸術家などのインテリ層を始め、一度はサッシを離れた住民たちが、サッシならではの個性的で魅力ある住空間に、暮らしを求めてきたわけです。

幾重にも重なる迷路のような都市構造を活用した、洒落たカフェやレストラン、商店も増えました。広場や中庭、通りに並んだテーブル席は開放感たっぷり。ルカーニア料理(バジリカータ州の料理)の美味しさといったら! イタリアの他の地方では味わえないものばかり。マテーラパンも絶品です。

後日談: マテーラ行きの直前、なんということか、わたしはコンタクトレンズで角膜を少し傷つけてしまいました。メガネなし、レンズなしで旅に臨みました。それほど近視は強くなかったものの、やはり普段よりは見えにくかったはず。ところが、このマテーラの記憶は不思議なくらい鮮明なのです。「モノは視覚のみで見るにあらず…」ふと、そんなことを感じました。

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ゴローザ通信
浜名湖畔の風光明媚な集落に生まれる。主婦、ときどきイタリア語通訳・翻訳・コーディネーター、アートユニット活動もしています。
※「ゴローザ Golosa」とは、イタリア語で「食いしん坊」のこと。「食に対して貪欲である」ということから「好奇心や探究心が旺盛な」という含みも。

落ち着くところ:水のある風景
リピートしたいところ:イタリア、南アフリカ

ゴローザが、日々の暮らしの中で見つけたこと、感じたこと、好きなことなどなど…心のおもむくままにお届けします。
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