​ポルトガルで最も歴史の長いワイン産地のひとつで、赤ワイン用のトゥーリガ・ナシオナルや白ワイン用のエンクルザードなど、ポルトガルを代表する土着品種から、エレガントで、素晴らしいエイジング・ポテンシャルを備えるワインがつくられているダオン地方。そんなダオンワインと、京都発フレンチ懐石とのペアリングディナー会に行ってきました。

フレンチ懐石 広尾おくむらにて

全国各地から五穀・蔬菜・果実の実りの便りが続々と届く秋。美味しい食事とワインのペアリングを楽しむ機会も多いなか、ダオンワイン協会主催によるフレンチ懐石 広尾おくむらにて、和食とポルトガルワインの饗宴ディナーが行われました。

フレンチ懐石 広尾おくむらの料理とダオンワインの多彩なラインナップとのペアリング。

このディナーをリードするエデュケーターは別府岳則氏。日本におけるポルトガルワインの第一人者です。来日したダオンワイン委員会役員であるルイ・リベイロ氏との会話を交えながらの説明はわかりやすく、ポルトガルワインのなかでもまだ知られざるダオンワインについて見識を深める会となりました。

左:始まりの一皿『シャインマスカット/蕪/生ハム』とワインは生産者ソイト「エンクルザード 2017」。右:四季のうつろい『季節の前菜5種盛り合わせ』。ワインは樹齢50〜100年の古木、混植ぶどう品種20種以上が使用されている、アントニオ・マデイラの「ブランコ・ニーニャス・ヴェーリャス 2016」。

「ポルトガルワインは和食とあう。和食との共通点が多いポルトガルの食文化のなかで発展してきたポルトガルワインが和食とあわないことはない」

ディナーは別府氏のこんな言葉で始まりました。

ポルトガルといえば、子どもの頃に歴史で習った種子島への鉄砲伝来に始まり、イエズス会の宣教師たちの献身により日本各地にキリスト教とともにポルトガル文化が庶民にまで浸透していったことは周知の事実です。

宣教師が外套として身に着けていたcapa(カッパ)は合羽としてレインコートを、服などを布を留めるボタンはbotão(ボタオ)から、子供を背中に「おんぶ」することはポルトガル語で肩を意味するombro(オンブロ)から、食べ物では砂糖菓子のconfeito(コンフェイト)から金平糖、そして「味付けをする」という意味を持つtemperarから天ぷらが伝わったという話はわたしたち日本人にはお馴染みです(語源には諸説あります)。

左:椀物『京合鴨のコンソメスープ仕立て』。ワインは生産者カブリス、「コリェイタ・セレクショナーダ 2015」。厳選したぶどうの実を使用したワインは淡いルビー色に繊細さと複雑さを兼ね備えています。右:旬のもの『戻りガツオのフリット。バーニャカウダソース サラダ仕立て』。ワインはカーヴス・アルコス・デ・レイの「ヴァルモンテ・トゥーリガ・ナショナル ティント 2010」。熟成を経た深みと複雑さ、果実みも保つワイン。

ヨーロッパで最も米の消費量が多く、日本同様に、資料によっては日本よりも多く魚介類を消費するポルトガルの食文化は400年以上わたってわたしたち日本の食文化に浸透しています。つまり、ポルトガルがルーツとされる和食はポルトガルワインと相性がいい、というのは至極当たり前のことだということに気付かされました。

左:鮮魚『金目鯛 ラタトゥイユ』。ワインはカーザ・ダ・パッサレーラの「エンシェルティア・ジャエン 2013」。ジャエンはスペインではメンシアと呼ばれる。ダオンで1番多く栽培され、花崗岩土壌で接ぎ木をし、ダオンならではのジャエンのキャラクターを活かしている。栽培地の標高700mはおそらくダオンで1番標高が高い。右:フィレ『厳選した黒毛和牛フィレ肉のロースト』。ワインはキンタ・ドス・ロケス、「ティント・レゼルヴァ 2015」。この日はボルドーグラスでサービスされていたが、ブルゴーニュグラスで味わうとまた違う表情を見せるという。ダオンワインの懐の広さをうかがわせるワインのひとつ。

エレガントにして繊細、熟成ポテンシャルもある

ポルトガルワインと聞いて、真っ先に思い浮かべるワインというとポートワイン? それともヴィーニョ・ヴェルデ? 最近ではよく耳にする地域のワインに生産量では及ばないダオンワインですが、そのキャラクターはエレガントにして繊細。熟成ポテンシャルも持ちあわせるその特異なワインは気候風土も魅力のひとつとなっています。

ポルトガル中央よりもやや北寄り内陸に広がるワイン産地、ダオン地方はポルトガル本土最高峰を誇るセーラ・ダ・エストレーラ(=星の山脈)を擁す、周囲を山に囲まれたすり鉢状とも言える産地形状のおかげで、大西洋側からの雨や大陸性の冷たい風から守られています。ブドウ栽培地はおおよそ標高400〜500m、高いところでは800mにおよぶところもあり、これは平地よりも気温が低いことを表します。

年間の降雨量は1200〜1300㎜と少なくはないものの、その80%が10月から4月で、ブドウの実の成熟期には乾燥しているなど、気候条件がブドウ栽培に適していることがわかります。 花崗岩から構成される土壌ではポルトガル固有のブドウ品種トゥーリガ・ナショナルやエンクルザードなどが植えられ、穏やかでバランスのよい、アロマが備わったワインができると言われています。

ポルトガルならではの固有品種を使用し、花崗岩土壌、年間を通したじゅうぶんな降雨量でありながら夏の乾燥した気候が育むダオンワインは和食はもとより、家やワイン仲間とのワイン会などでも楽しめます。

実際に食事といただいてみると、素材が持つ五味(塩味、甘味、酸味、苦味、旨み)を覆い隠すことなく、お互いが調和を奏でさらに余韻を残し、実に心地よいもので、最後には満腹なはずなのに膨満を感じず、といって物足りなさもない、充足した食事と時間を楽しむことができました。

次回ワインを選ぶ機会には、ポルトガルの固有品種トゥーリガ・ナショナルやエンクルザードなど個性豊かなワインを選んでみようと思います。

この記事を書いた人

須藤千恵子
須藤千恵子
語学留学など世界複数国に滞在するなかで異文化と触れてきた経験と、帰国後にワイン輸入販売社勤務経験から、ワインと食の在り方など、独自のPR活動を行う。(社)日本ソムリエ協会ソムリエ、(社)日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMA、(社)日本フードアナリスト協会フードアナリスト。