ワインを楽しむのに、気構える必要はない。素直に、自由に飲めばいい。それはWINE-WHAT!?の考え方でもあるのだけれど、こと、モエ・エ・シャンドンのウルトラ プレミアム キュヴェ「MCIII」については、ちょっと事情がことなるかもしれない。というのも、せっかく「MCIII」を味わうのなら、その造り方を知っていたほうが、おそらく面白いからだ。


型番のような名前を紐解く

モエ・エ・シャンドンのウルトラ プレミアム キュヴェ「MCIII(エムシースリー)」。この名前、なんだか工業製品の型番みたいではないだろうか。 実はいま世に出ているMCIIIには、さらに001.14という数字がつづく。正式名称「MCIII 001.14」。

MCはモエ・エ・シャンドンの頭文字、MとCのこと。001は第一番目のキュヴェ、14はデゴルジュマン(澱引き)をしたのが2014年という意味だそうだ。つまり、現在の「MCIII 001.14」は、「2014年に澱引きした、初代モエ・エ・シャンドン3です」というわけである。では、「3」は何を指すのか? それが重要なところであって、来日した醸造最高責任者ブノワ・ゴエズ氏にWINE-WHAT!?、教わってきた。

そもそも、モエ・エ・シャンドンからウルトラ プレミアム キュヴェを生み出そうという構想は、約20年前からあったそうだ。その構想に、ひとつの方向性を示したのが、西暦2000年を記念して登場した、「Esprit du Siecle(エスプリ デュ シエークル)」というシャンパン。

モエ・エ・シャンドン 醸造最高責任者 ブノワ・ゴエズ氏。1970年ブルターニュ出身。35歳の若さで醸造最高責任者に着任した。

その名は、公式には「世紀の結晶」と端的に訳され、その内容は、20世紀を代表するマルチ ヴィンテージ シャンパン。

つまり、すでにボトルに入って保管されていた、ヴィンテージ シャンパンから、まだ発泡もしていない最新の、シャンパンになるまえのワインまでをアサンブラージュして、1つのワインで1世紀を表現したものなのだけれど、これが、ブノワ・ゴエズによれば、「モエ・エ・シャンドンに第四の多様性を加えた」。そして、この第四の多様性がMCIIIのインスピレーションの源泉にもなった。

というのも、モエ・エ・シャンドンの基本にして代表である「モエ アンペリアル」は3つの多様性から、ひとつの世界が構成されているというのだ。第一の多様性をなすのは、品種。ピノ・ノワール、ムニエ、シャルドネの3品種がつかわれることを指す。第二の多様性は、シャンパーニュ地方の230の村からブドウをセレクトすること、第三の多様性は、異なるヴィンテージのワインをアサンブラージュすることから、うまれる。

第四にして3層をもつシャンパン

では第四の多様性をなすものとは? それは熟成だというのだ。MCIIIは、第四の多様性をもつシャンパンだ。その多様性をうむにあたり、3つの異なる環境で熟成されたワインやヴィンテージ シャンパンが使われている。

その3つとは、1)ステンレススティール製タンクで発酵と熟成を経たもの、2)オーク樽で熟成されたもの、そして、もっとも特徴的な、3)すでにボトルのなかにいるヴィンテージ シャンパン。この3つが、層となり織りなすのが第四の多様性とされる。そしてこの3層をして、MCIIIは3と名付けられている。

しかし、話はそこで終わらない。どのワインをどう使うかも問題だったからだ。ブノワ・ゴエズは、ここで2度失敗している。それぞれに素晴らしいシャンパンを選び、等しく組み合わせてみたら、モエ・エ・シャンドンにあるべきフルーティーさが出なかった。

なぜか。1)に力強さがたりなかったという。1)は、全体にフルーティーさを与え、建築でいえば基礎にあたる役割を担う。それ単体ではエレガントで素晴らしいヴィンテージのものでも、オーク樽発酵のワイン、さらにはエネルギーあふれるヴィンテージ シャンパンは、建築でたとえると、重厚な壁、巨大な屋根とでもいうべきもので、エレガントな基礎では、負けてしまうというのだ。そこで2003年のヴィンテージを1)にえらんだ。これは気温が高かった年で、力強いヴィンテージだった。

そのうえで1)の分量を増やした。かくしてしっかりとした基礎のうえにのったのは、2002年、2000年、1998年の3つのヴィンテージからなる2)、1999年、1998年、1993年のヴィンテージからなる3)。7つのワインが使われ、ブレンドされたのが2004年だった。そして10年後の2014年までをボトルのなかで過ごして、澱引きされたのが、「MCIII 001.14」ということになる。名前にあらわれている以上に、数字がおおく、複雑なシャンパンである。

では、これだけ様々な要素があって、まとまるのか、というと、もちろんまとまっている。そこはこれまでも多様性から世界を生み出すモエ・エ・シャンドンと、その醸造最高責任者である。そのうえで、ブノワ・ゴエズは、MCIIIには「若さ(Youth)と熟成(Maturity)」の双方がある、という。

第四の多様性をイメージしたインスタレーション。フレッシュなフルーツから、秋のイメージ、皮のなめらかな手触りのイメージを経て、栗やナッツのイメージまで

なるほど、若さと熟成は必ずしも対立するわけではない。プルーストのマドレーヌといったら長編すぎるにしても、このシャンパンには、それを味わう人に、その人の歴史をおもいおこさせる、そんな力があるように感じられる。熟成したからこそ、若さがわかる、とでもいうように。たぶん、MCIIIにもっともあうのは、料理よりも人生だ。ゆっくりと向き合うのが、MCIIIには似合う、とWINE-WHAT!?は考える。

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WINE-WHAT!? 編集部
WINE-WHAT!? 編集部
ワインと食のライフスタイルマガジン「WINE-WHAT!?」編集部です。
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