意図を伝えるデザイン
もうひとり、MGVsワイナリーにはキーパーソンがいるとWINE-WHAT!?は考える。それがMGVsワイナリーの建物からワインにいたるまで、一貫してその演出をデザインした田子學さんだ。
ワイナリーはそこがもともとは半導体工場だったとは信じられない、ワイナリーとしてあらためてデザインされたかのような外観なのだけれど、よく見れば、ワイナリーのロゴマークがはいった、シンボルのような白い円柱状の物体は巨大な窒素タンクで、そのなかの窒素は、半導体工場時代からワイナリーになったいまも、随所でつかわれている。
建物にはいれば、クリーンで、自然を感じさせる開放感があり、かつ、シャープでモダンなしつらえのなかに、あたたかみのある空間が迎えてくれる。その場でMGVsのワインをサーブする、松坂さん特製の、これまた窒素を利用したワインサーバーがあるバーカウンターにつけば、目の前には、ワイナリーのイメージと統一されたデザインのシャツや小物がならべられて、ワイナリーの世界観を演出する空間があり、大きな窓からは、駐車場、その向こうにブドウ畑と勝沼の景色がつづく。振り返れば、背後には、ガラス一枚へだてて、チェスピースの名前を愛称にもつ、醸造タンクがならんでいる。
どこかアメリカのワイナリー、あるいはシリコンバレーのような雰囲気を感じる。
そこで、田子氏に、デザインのモチーフはあるのかと訪ねてみると、特別なにかを参考にしたということはない、という。
地元の風景、半導体工場であったという出自、今後、100年、200年とワイナリーをつづけてゆきたいという松坂さんのおもいから、その場にあるべき最適の解として導き出したのが、このデザインだというのだ。
そして、田子氏をふくめて、MGVsワイナリーの哲学がとてもよくあらわれているのが、なんといってもワイン。たとえば、このたびあらたにリリースされた、マスカット・ベーリーA(なんと100%だ!)の赤ワインの名前は、「B353」と「B153」という。このネーミングとデザインには快哉を叫びたい。Bとはマスカット・ベーリーのB。3ケタの最初は、栽培地域。1ならば甲州市勝沼町、2ならば笛吹市一宮町、3は韮崎市穂坂町を指す。2ケタ目の数字は、1はブラッシュ、2はロゼのセニエ、3はロゼのかもし、4はかもし、5はセニエ濃縮かもし、と、原料の仕込み方法をあらわす。そして最後の3ケタ目が、1ステンレスタンク、2ステンレスタンク+シュルリー、3ステンレスタンク+樽熟成、4樽発酵+ステンレスタンク貯蔵、5樽発酵+樽熟成を意味する。
つまり、「B353」は、韮崎市穂坂町で栽培されたマスカット・ベーリーAをセニエ濃縮かもしでしこみ、ステンレスタンクで発酵させ、樽熟成させた、という意味なのだ。一度ルールを理解してしまえば、非常にわかりやすい。
そして、この命名方法は、MGVsのワインがきちんとしたトレーサビリティをもつワインだということを物語っている。ひるがえって、ガラス窓を多用して、ワイン造りの行程が見える、ワイナリーのデザインも、このワイナリーには隠すべきものはなにもない、ということを表現しているとも考えられる。
その土地できちんと、ワインを造ってゆくのだ、という松坂さんのおもいがデザインされている。
伝統ある企業は、革新をつづけることで、伝統を生きたものとしつづける。立ち止まってしまうこと、伝統を守ることばかりに腐心して現代性を失うことで、伝統が途絶えてしまうことを恐れる。
MGVsワイナリーは、伝統と革新の両立が最初から織り込み済みだ。今後、どんどんワインの完成度を高めてゆくだろう。下りのエスカレーターに乗り続けるという発想は、松坂さんには、おそらく、もともとないのだから。
MGVsワイナリー
住所|山梨県甲州市勝沼町等々力601-17
TEL|0553-44-6030
FAX|0553-44-6031
URL|https://mgvs.jp/